2-15
謎の採掘音を頼りに左の道を進み始めた俺たち。
明かりの間隔もまばらで暗い坑道を進む。
……進むにつれ、採掘音が一つではないことがわかってくる。
「少なくとも、複数人で作業しているようですね」
ジュークの意見に完全同意の俺は首肯だけしておく。
不規則な採掘音。一本や二本程度のツルハシから出ているとは考えにくい。……少なくとも10本以上。
……それだけじゃない。
鎖を引き摺るような音。
これも一つや二つじゃないな。
ガッ、ガッ、
ガラガラ……
ジャラ、ジャラ、
他にも鈍い音がいくらかあるようだが、まだ判別できない。それは、俺たち3人の中で一番耳が利きそうなジャランでもわからないというので、もっと近接する必要がある。
……だが、この音の主たちが囚われの魔族たちだったと仮定するならば、そこに赤鎧がいないという保証は何もない。
慎重に進むぞ。
俺は目配せだけで2人に伝える。返ってくる首肯。
そこから30メートルほど進み、分岐路の先に汚物臭のする無人の檻を複数見つける。
一気に跳ね上がる、虜囚の可能性。
血痕、排泄物、腐臭のする食い物、らしきもの。
人間の、扱いじゃ、ねえ。
「ひぃ……」ジャランが俺を見て変な音を喉から漏らす。
ジュークはそんなジャランの肩に手を置く。
「班長……、気が」
ジュークの額にも脂汗……。
ああ、また漏れちまったのか。
「すまん」
でもなあ。コレは、ダメだろう。
ジュネーブ条約どこ行ったんだよっていう虜囚の扱い。
俺、赤鎧見つけたら、……どう、なるか、わかんねえよ。
「班長……。
班長に言うことじゃないことは重々承知の上、あえて言わせていただきます。
……敵は、敵です。……必要なら、必要なことをすることが肝要かと」
「……ちげえよ。
敵も、人間だ」
「……感服です。あなたについてきてよかった」
「よせやい、俺はそんな大したもんじゃねえよ」
ジュークのおかげで気を取り直した俺は、採掘現場へ続く道を睨む。
「……行くぞ」
「はい」「……うぃす」
採掘現場は、そこからはたいして離れていなかった。
近づくにつれ、体を打つような鈍い音と、呻き声がハッキリしてくる。
それにまざる、笑い声も。
楽しんでやがる……。
人を撃つのに慣れた兵隊は優秀だと聞く。
慣れすぎて楽しみだしたらクズだと言う。
自然、硬くなる拳。
いよいよ、あの角の先は現場だろう。
敵は、なるべく殺さねえ。
……情報を得るために、だ。
は、半殺しで、我慢、しなくては。
通路の角から確認する。
——いた。
円形に広がる採掘現場。
壁際に並び、ツルハシを振るう影。
その影を打つ影。
所々に補強のためなのか木の柱が立つ。
その柱に寄っかかって談笑する赤鎧。
じり、と近づく。
ツルハシを振るう影は、足枷をはめられ、鉄の鎖で繋がれている。
壁際にはツルハシを握ることもできなくなった影が横たわる。
ツルハシを振る影の後ろ、上半身裸の赤鎧がモーニングスターみてえなのを振りかぶり、
——その瞬間、俺の頭の中では号令詞が流れる。
指弾咄嗟攻撃始め!
目標!上半身裸の赤鎧右肩!
——咄嗟に小石をつかむ
指弾発射始めヨシ!
指弾撃ち方用意!
指弾撃ち方用意ヨシ!
テー!
テー!
俺の指から離れた直径25ミリの小石はマッハを4つほど超え(俺調べ)、ボジャンと音を立て赤鎧の右肩を吹き飛ばし、首が宙に舞う。
「あ」「え?」「え?」
円形採掘場内でも
「あ?」「ひ」「へ?」
ここまでが1秒ちょい。
脳内に流れる艦内号令。「目標、轟沈!」
いやいや、俺、陸自だから。海自のは漫画でしか知らねえから。
と、脳内反省会終わり。
地面を蹴って円形採掘場に侵入。
まだ、飛んだ首も着地していない。
……まず、柱に寄っかかる赤鎧3人のアゴを小突く。見回す、死角だった壁際にもう一名、背を向ける赤鎧。こっちもモーニングスターを握ってやがる。後ろから首チョップ。
……これで全部か?
首が着地する。——グジョリ。
同時に叫び声、「うひ、ひいぃ!」
そっちを見ると——座り込み、下半身だけ何もつけていない赤鎧と——、ブチィ。
頭の中で何かが切れる。
ドン!
「……ハンチョー……すっげえ速え
……あと今のなんの音……?」
「おい、確認に行くぞ」
円形採掘場から、音が止んだ。
慌てて2人が入ってくる。
ちょうど、俺はシャツを脱いで、そこに横たわる女にかけてやったところだった。
「……班長……」
「制圧した」
「……は、はい」
俺の足元に転がる、胴体のない二つの物体から目を背けるジューク。
俺の右足にはべっとりと血糊がついている。
「……ハンチョー、4人は死んでねえみたいだよ。
あと、捕まってた人達、なんだけどよ。オーガじゃねえみたい。数えたら19人いた」
「……え?オーガじゃねえのか。
そっか。それはそれとして、枷を外してやらなきゃ」
「……タ、助けてくれて、礼をイウ」
「いいってことよ。……でさ、あんた達は?」
「ワ、我々は、ゴブリン族のものダ」
一回りほどジャランよりも小さく、緑がかった肌で頭に小さなツノがある男は、虚な目をしていやがるくせに、やけに姿勢良く俺に頭を下げる。
「……ア、厚かましい、ネがいだが……」
「ワ、私の娘が連れて行かれてしまっタ」
「タ、助けて、やれないカ……?」
「ああ。……それはもちろんだ。助ける。
……他の人は?」
「ワたしの知るカギり、……ここにいるのデ全部、ダ」
「わかった」
「オオ……、オーガの若者……。お頼みもうス……」
がくりと膝から崩れかけるゴブリンの男。
咄嗟に抱き止める。
……大丈夫だ。死んじゃいねえ。
見上げた根性じゃあねえか。
自分もいっぱいいっぱいなのに、娘の心配なんて、よ。
後は、クソ帝国ボケカス野郎からさっさと情報吐かせるか。
幸い、俺の班員達はちゃあんと奴等の準備まで整えてくれたことだしよ。
……あと、俺はオーガじゃねえやいっ!




