2-14
「は、速ええ!すげえぜハンチョー!走ってるより速え!」
「あ、あばばば……」
「もっと早くこうすれば良かったぜ!」
俺は咄嗟に思いついたモガトシ連結ムカデでジャランとジュークを連結し、牽引する。
……まあ、ただ、ジュークが用意していたロープをジュークの胴体に結び、ジャランを結び、それを俺が持ったまま匍匐しているだけだ。
ちなみに、俺が1人で第五匍匐をする状態をモガトシムカデと呼ぶことにした!
「お?」
「うわあっ!痛え!」「ぐぅっ!」
モガトシアイが山の中腹に何かを捉えたので急停止。
後ろではジャランが俺の足に激突し、たぶんジュークはジャランの足に激突したのだろう。
……あれは……トーチカ?
流石に銃座は備え付けられてねえけど、石で組んだ簡易的な防御拠点兼監視所ってところだろう。……開口部を最小にすることで中の明かりを漏れにくくしているが、ここまで近づいたことで初めてその明かりを目に捉えた。その開口部が見えた、ということはつまり、監視対象はこの更地だってことが気持ち悪い。……だってよ、こんな大層な壁を作っておいて、監視対象がその壁の中なんだからな。よく見れば……トーチカの上にはバリスタが据え付けられている。博物館でしか見たことねえけど!あれ?……あっはっは!あいつまでこっち向いてるじゃねえか!
……こりゃあ、離脱前に潰さねえとな。
俺は伏せたまま振り返り、顎をさするジャランと、額のあたりをさするジュークにトーチカを共有する。
……さて、こっからはより慎重に、最速で行動せねば。
モガトシ連結ムカデはかなり速えが、砂煙が立つ。
……ならばよ、モガトシ連結尺取り虫の出番だ!
第五匍匐より、静粛かつ、動きの小さい尺取り虫の匍匐……。……これだけは使いたくなかったぜ。なんせカッコ悪い。動かせるのは足首から先のみ。つま先で地面を捉え、つま先だけで蹴ると同時に、肘を起点にして体を少し浮かし、前に出る。
これなら砂煙は出ねえ。変わらず引き摺ることになる後ろの2人からは出ちまうだろうけど、その量はダンチだぜ!
「進むぞ」
「へえい」「……は、はい」
なんだか文句の色を含む2人の返事を聞いて、それでも気にせず進む。
「い、て、え!……これ、地味に、痛え!」
「だ、だま、れ!……ジャラン!任務、中、だぞ!」
「そして、意外と、速え!」
尺取り虫の動きに合わせて2人が声を漏らす。まあ、どうしようもねえからシカトするんだが。
◇
「また門か」
轍が続く先には坑道の入り口。
その入り口にはまたしても門が立っている。
壁の門と違うのは、同じ鉄製でも今度は格子状だってこと。……つまり、中が見える。要するに、中からも見える。そして、核心には近づいている、という実感。
「よしよし、くっそ怪しいぜ」
軽口を叩きながらジャランとジュークに結んだロープを解く。こっからは匍匐は必要ない。
「おお、自由だ!
あれ、面白えからまた今度やろうぜ!」
すぐに調子に乗るジャランを軽く小突いておく。
「な、なんすか?」と文句を吐くが、「軽口をやめろ」と言っておく。
「は、ハンチョーだって……」
「俺はいいんだよ。
……俺のは、お前らを緊張させないための軽口だからな」
「……え、ずりぃ」
「いや、流石は班長。
そのお考えの高尚さに毎回脱帽です」
「……まあ、今思いついただけなんだけどな」
いかんいかん。あんまり俺頼りになっちまうとコイツらのためにならねえ。
「おふざけはここまでにして、っと。
さあ、どうする?」
「格子の隙間から見る限り、ただの通路、ですね」
「そりゃそうだろ。だってエルモアの鉱山って結構中心にしか鉱床がないって有名だもん」
「……ほう?」
「だからさ、その鉱床にぶつかるまではまっすぐ掘ったんじゃねえかな?ここも、その時の坑道をそのまま使ってるんならしばらくまっすぐなんじゃね?」
「なるほどな。それはあり得る」
「それにさ、山の監視所で壁の中見張ってるなら、この門は手薄だと思うんだよな」
「……それもそうか」
「確かに、歩哨の姿は見えませんね。
……しかし、だからといって決めつけるのも危険かと」
「うんうん。
そのとおり。俺らは中のこと、なんも知らねえんだからな」
「だからさ、俺はあのドリルってやつがまた見たい!」
「ジャラン、それは却下だ」
「うん。ジャラン。それはない」
「……どうするにも、あの格子をなんとかしないことには進みませんね」
「……こじ開けるか……」
「え?」
「ちょ、ハンチョー?」
「え、フツーだろ?
『開かねえドアは、開けりゃあいい』、だ」
「……それは、班長界ではそうかも知れませんが……」
「じゃあ、敵さんにとっても予想外ってことだ」
「お、……おお……」「そのとおりすぎだろっ!すげえぜ!ハンチョー!」
よっこら、と立ってスタスタ門へ。
……それにしても、いねぇなー。敵さん。……そんな練度高くねえのかなー。
鉄格子を掴み、なるべく音を立てないように少しずつ力を入れていく。
キキ……ギ、ボギッ!
あっ、もげた。
振り返るとやれやれ顔のジュークに、目を輝かせるジャラン。
……あんだよ、そりゃ、俺だって失敗するっての。
「ほれ!入るぞ!」
と門、だったものをくぐった先には外から見えていたとおりのまっすぐな通路が伸びる。やれやれ。まだ敵さんの気配はない。……俺が守備隊長なら全員ケツバットの刑だぜ。
俺は通路の真ん中をずんずん進む。
「ちょ、班長!せめて端を進みましょう!」
「おいおい、端の方が跳弾とかで危ねえんだぞ?」って言って気づいた。……銃なんかねえのか。
「そうだった。おいジャラン、端を歩けよ?」
「もうっ!俺は最初っから端っこにいるよ!」
「……班長だけですよ。……あと、ジャランはうるさいぞ」
「……さぁーせぇーん」
「……おい、言い方」
通路は上と左右は岩肌。ところどころに木で補強がなされている。典型的な鉱山の坑道って感じだった。
ただ、地面だけは土がかけてある。その上には馬車の轍がくっきりと残っている。つまり、積荷を揺らさねえための土だな。そして、もう一つ重要なことがある。
「蹄の跡と轍しかないですね」
「そう。それな」
「ここでは、まだ降りていない」
赤鎧も、金つきヒゲもここじゃあまだ降りていない。
兵の詰め所なりがあるんだろうが、それはここより奥にあるということ。
「……ジャラン、ここからは無駄話はなしだぞ?」
「わかったか?」
「……なんで、俺ばっかりに言うのさ……?」
ジャランに念を押しておいて俺たちは進む。……と、交差点に出た。
「馬車はそのまま真っ直ぐに進んでますね」
「……で、人間はここで降りた」
「足跡は……」
土の道はまっすぐ方向に伸びている。
左右に分かれる道にはそれがない。
足跡は右の道へ伸びており、馬車はまっすぐ。
「どちらに進みますか?」
「魔石はまっすぐ、赤鎧どもは右……左は情報なし……か」
「あのさ、左の道……なんか聞こえねえ?」
「……どれどれ?」
「かなり、遠いようですが……採掘音のような」
「そうだな……
誰かが、何かしらの作業をしている」
「魔族の人達だったりして」
「……あり得るな」
「では、左、ですか」
「ああ。
目的は魔族の解放だからな」
「そうですね。……行きましょう」




