2-13
ひらりと壁下に戻った俺は、ジュークとジャランに上で得た情報をざっくり共有する。
「なるほど……鉱山が怪しい、というのはかなり確度が高い情報ですね」
「うええー、建物ないのかぁー。……英雄殺しの酒、楽しみだったのに……」
「でよ、穴なんだが、どこ掘ってもおんなじだと思う。
強いて言えば、門の近くじゃねえ方がいいかな」
「しかし、壁の幅が……その、7、メートル?あって……壁裾はさらに幅が広いと」
「おお、そのとおりだ。よく話聞いてたな。
内側は大体5メートルのとこから斜面になってたから一番下では……」
「んー。10メートル無いくらいだな」
「10メートル?……というのは、この壁の高さとも同じくらいですね」
「おお、そのとおりだ。さすがジューク」
「この距離を掘るのは……大工事に分類される作業なのでは?」
「そんなこたぁねえよ。
たかだか10メートルだぞ?……それに、基礎さえ抜ければ斜め上に掘れば実質10メートルもないって」
「……ハンチョー、道具は?」
「ねえよ。昨日とおんなじだ」
「俺、爪剥がれかけたんだけど……昨日ので」
「……班長。おそれながら進言しますが、……我々は普通の人間です」
「ん?おお。そうだな。
俺もそうだ」
「いや!ハンチョーは違うね!」
「まあ、ちょっと、鍛えはしたけどさあ」
「ちょっとでもないね!」
「……わかったわかった。
俺が掘る。……で、お前達は掘った土を運び出してくれ。……それならいいだろ?」
「よーし!それなら俺らでもできそうだ!な!ジューク」
「いや、ジャラン。
……結構な量の土が出るぞ?」
「うるせえなあ。
そんなことはやってみて考えるんだよ」
「そうだぞジューク!」
「……わ、わかりました」
「よっしゃ!……じゃ、掘るぜ!」
ついさっき思いついたモガトシドリル。
俺自身がドリルの刃となり、超高速で回転することでどんなものにでも風穴を開ける必殺技だ!
気をつけなきゃなんねえのは、目が回りそうだってこと!しかし、三半規管がヤバくなったら逆回転モガトシドリルにシームレスに変化することでこれを解消する!……これなら、永遠に掘り続けられる、はずだ!
俺は両腕を頭の上に伸ばし、ちょうど、水泳の蹴伸びをする時みてえなポーズをとり、ぴょんと跳ぶと地面に突き刺さる。
そのまま、体全体を回転させ、地面を伸ばした両手で抉る。
超高速で回転する体は周囲の空気すら切り刻むことにより、聞いたことねえような風切り音など——出ない!回転が早すぎるのだ。そのため、風切り音自体が超音波となって、人の耳には聞こえない、という設定だ!
とんでもない速度で俺の体は地面に沈む。
排土を任せたアイツらにも楽させてやろうと、フリーとなった足を使い、土を後ろに流す。
「うわはははー!ハンチョーやべぇ!超すげえ!っぺっ!土が口に入った!」
「……おお、土が、川の流れのように噴き出している……ゆ、夢か?」
「あれ?でもよ、なんかだんだん、土の流れが弱くなってくな?」
「……それはそうだろう。流石にこの距離を掘るにあたり、壁などに邪魔されるだろうからな」
「……え、じゃあ……このままじゃハンチョー生き埋めになっちゃうんじゃ?」
「……!早く土を運び出すぞ!」
「うわああ!やべぇ!ハンチョーがぁー!」
「口より手を動かせっ!」
モガトシドリルは……封印だな……。
ズボンと壁の向こう側に到達した俺は、とんでもなく目が回っていた。……回ってる時には気づかなかったのに……。
今回はたまたまうまく行ったかもしれんが、掘る方向さえよく分からなくなっちまうのも問題だな。めっちゃ土食っちまうし……
……やっぱり、モガトシドリル改土竜タイプの方が良かったか……
……とにかく、早いとここの回った目をどうにかして、アイツらの排土を手伝ってやらにゃあ……
◇
「……もう、絶対だめだと思った」
「班長……
次何かやる時にはせめて私に相談してください」
「……すまん……」
結果、穴を掘るだけに2時間近くを浪費してしまった。
まだまだ、日付が変わるまで数時間を残してはいるが、残りの暗い時間でオーガ達を救い出し、ここを後にしなきゃなんねえ。
現在地から目的の鉱山までは見事なまでに遮蔽物がない。
かつて町の建物が建っていただろうそこは、建物の基礎すら残っておらず、表面の土さえ平らにならされており、草も木もない。
きっと、この表面の土もこの壁の斜面に使われたのだろう。
……おかげで、だだっ広い土地が生まれたわけだ。普通に立って歩いてたら遠目にも発見されちまう。
「……ジューク、どう見る?」
「はい、……歩哨も、監視塔も見当たらないのが不気味ですね。……あくまで可能性ですが、あの山の上から監視されているかと考えます」
「……だよなあ」
「ただ、今日は曇っているおかげで星明かりもない。
ゆっくり移動すれば発見される恐れは低いかと」
「明るくなったらモロバレだよな!
しかもソッコーで!穴まで見つかっちまう!」
「つまり、ゆっくりしてる時間はない、ということです」
「うん。そうだよなあ。
じゃあ、早速移動しよう」
俺は、ジュークとジャランの意見を聞き、匍匐前進しか思いつかなかった。コイツらも元兵士なら経験くらいあるだろうと地面にうつ伏せになる。
「……あれ?寝るの?
ハンチョー、俺たちの話聞いてた?」
「……あの、そのような時間はありませんよ?」
「いや、匍匐前進だよ。
もしかして知らねえの?……こう、こうやって進むんだ」
俺は実演してみせる。体をうつ伏せに、両手を伸ばして先の地面を掴む。……で、引き寄せることで体を前に進める。合わせてこの時に足で地面を蹴る。
「うわっ、やべえ、なんかでかい虫みてえ」
「……その動きでこの距離を……?」
「つべこべ言わずにお前らもやれ」
「うへえ……」
「じゃあ行くぞ」
◇
「あははは!俺、地面這ってる!やべえ!
母ちゃんに見つかったら絶対怒られる!」
「ハア、う、うるさい、ぞ……ジャラン」
「ジューク、お前だけ遅れてるぞ!頑張れ!」
「ほれ、足も使えって。腕だけじゃすぐバテちまうぞ?」
俺たちは、匍匐前進で鉱山に向かう。
何キロもあるわけじゃねえ。数100メートル程度しかねえし、大したことねえ。
映画ならこんなもん、ダイジェストで飛ばしてもいいようなシーンだぜ。
ジュークだけ一大巨編みたいな顔つきなのがちょっと心配ではあるけども。




