2-12
「めっちゃ走った後のパンって、なかなかうまいっ!
……でもよ、ウドゥーンのほうがうまいでしょ?
ね、絶対今度俺たちも連れてってくれよ!?」
「……この任務が終わったら、祝勝会をウドゥーン屋で、なんてのもいいかもですね」
「……ん、……おお。……そうだな」
「結局ハンチョーは何食ったの!?
やっぱりカリーウドゥーン?どんなだった?」
「……う、うるせえなあ。
まずは目の前のことにしっかり集中しやがれ!」
アホのくせにブーメランを返してくるなんて。
それは墓場まで持って行くやつだからおいそれとは話してやんねぇ!っていうか、話せねぇ……。
「……突然怒って……なんだよもう……。
1人だけウドゥーン食ったくせに」
「ジャラン。ここは我々が悪い。
すみません、班長。……任務に集中すべき場面でした。
……ほら、ジャランも」
「……すいまっせんでしたぁ」
「ん、……おお。わかりゃあいいんだよ。わかりゃあ」
「なんだその謝り方は!
……もう少し、真面目に謝ることはできないのか!?」
「あ、……いいんだ。ジューク。
ジャランはパンを持ってきた功績により許す」
「そうだよな!ハンチョーはわかってるぜ!
……な?……わかったか?ジューク」
こいつ、やっぱり一回殴ってやった方がいいんじゃないすか!?みたいな目を俺に向けるジュークを俺も目でまあまあ、となだめる。
「よっしゃ。……腹も膨れたし。
……暗くなるまで待機、だな」
「あ、俺もその方がいいと思う!
だってよ、馬車はわざわざ明るくなるの待ってたんだもんな」
「え、どういうことなんだ?」
「なんだよ、ジュークはわからねえのか?
あのさ、昨日、まだ夕方だったのに馬車がわざわざ野営したのはさ、暗い時間に着いちまうのを避けたからだろ?
……だからさ、暗い時間にはあの壁の門には誰もいなくなっちまうんじゃねえかな?……開けるやつがいなくなっちまうってこと」
「……おお……」
ジュークが感嘆の声を漏らす。
「なるほどな。それは確かにそうかもな。
やるなあ、ジャラン」
「へへっ!俺、役立つっしょ!?
ハンチョー、俺、ウドゥーン大盛りでいい?」
「うどんの話はやめろ」
「なんでウドゥーンの話だけそんなに嫌がるんだよっ!?」
「……うるせぇなあ。
夜動くっつってんだろがよ。今のうちに休め。
休むのも仕事のうちってな」
「休むのも仕事……。言い得て妙ですね」
「それにコイツ、昨日寝落ちしたしな」
「そうだぞ。ジャラン。すぐ寝ろ」
「わかったよぅ」
「なんだその語尾は!ちゃんと返事しろ!」
結局コイツらが静かになるのに2時間くらいを要した。
◇
「そろそろ……か」
あたりは静まり、夜の帳が下り始める。
相変わらずエルモアの壁の中からは灯りの一つも見えない。
が……、ほぼ確定であそこには何かがある。
それも、外部においそれと知られたくねえ代物が。
俺たちは、夜闇に紛れながらエルモアを囲う壁、その門の近くまで進んだ。近づいて初めて分かったが、門は一枚の板状に成形された鉄製らしい。
「ジャランの予想したとおり、誰もいねえな」
「でしょ!」
褒めてやるかわりに頭をワシワシ撫でてやる。
「……私が、門を確認してきます」
「わかった。……気をつけろよ?」
「はい」
ジュークが低い姿勢を保ちながら門まで駆け、しばらくして戻ってくる。
「やはり、無人なのは間違いないですが、鍵はかかっています。通用口のようなものも見当たりません」
「だよなぁ」
さて、どうするか。
正直なところ、あの門を破るのは簡単だ。
それこそ、正拳突き一発で破ることができるだろう。
……でもなあ。音がなぁ。
そんなことしたらエルモア中の敵どもには一瞬で気付かれる。……で、オーガが囚われてるんなら、人質にされるとか、厄介なことになりかねん。
やっぱ、跳び越えるしかねえか。……壁の高さは10メートル位。ふむ。
それとも、壁の下に穴掘っちまうか。……でもよ、10メートルの壁を支えるには結構深くまで基礎があるはずだ。ふむむ。
帰りは門をぶち破ればいいんだし。
跳び越えるなら俺1人で入ることになる。
……1人ずつ抱えて行くこともできるだろうが、着地の衝撃で首の骨とか折れちまったら……ふむ。
穴ならコイツらも通れる。でもなぁ。深いだろうなあ。
じゃあ俺1人で入るか!……いやいや、土地勘もねえし絶対迷う。
なら……穴掘るしかねえか。
「よし、穴を掘るぞ」
「え、また穴かよ……
ここで寝るってこと!?」
「……違うぞ。ジャラン。
班長は、壁の下に穴を掘ってそこから潜入すると言ってるんだ」
「あー、そっか!」
「まずはよ、俺が一度壁の上まで行ってくる。
……で、穴掘る位置を決める」
「わかった!
……って、ええ!
壁の上って、……ええ……?」
壁の上を仰ぎ見て、俺の顔を見て、3度繰り返すジャラン。
「いやいや、ちゃんと静かに跳ぶって」
「……は?
……静かに飛ぶ……?
……あれ……?ハンチョーって鳥だっけ?」
「はっはっは。
俺が鳥のわけねえだろう。
ジュークからもなんか言ってやれ」
「……班長……。
今に限っては、私もジャラン寄りです」
「……まあ、見てろって」
俺は2、3屈伸すると、地面を蹴りすぎないように跳ぶ。
森で木の上に上がる時よりも丁寧に。
「……よっ、と」
壁のヘリを手で掴み、壁上を覗く。……敵影なし。
よじ登って壁上に立つ。
上がってみるとまあ、敵さんも、この壁に大層な信頼を寄せるのもわかる。
「すっげえ分厚いな。
榴弾砲でも、簡単にゃ壊せねえかもな」
壁の上部にまで石を並べてやがらあ。……きっと、盛り土の上に石を並べてったんだろうが。でもなあ。
なーんか、建物の残骸を使いました!って感じなんだよな。ところどころに木も顔見せてるし。外っつらは綺麗な澄まし顔なのにな。
それはそれとして……やっぱり下にも基礎自体は伸びてるだろう。
さて、内側はどうかなっと。
敵影のない壁の上なので、ひょいと歩いて反対側へ。
上部の厚みは7メートルほど。……よくもまあ、こんなもんを作ったもんだ。
しかしまあ……。
「壁、というより、土塁だな。
でかさはすげぇけども」
内側の壁の垂直部分は5メートルもない。
そこから下は傾斜角70度くらいの急斜面になっていた。……いや、65度かな?
東京ドームが何個ぶん入るか分からねえくらいの土地をくるりと囲む壁はちょうど俺の立つ位置の真反対のでかい山の中腹まで伸びている。……あれが元鉱山か?
どっからこの土を運んできたんだか。
いやぁーすげぇな。うちの施設科の連中でも作るのに苦労するだろうな。
……そういや、100キロ行軍の後の防御陣地構築……、「重機の支援は得られない」ってのが代々の中隊長の口癖だったな。FH埋めるの、手掘りとか堪らなかったなぁ……。おっと、脱線脱線。
さてさて、トンネルの出口候補はっと……。
ありゃ、全然建物なんか、ねえじゃん。
身を隠す遮蔽物も特に見当たらねえ。
……じゃあ、どこに出たって一緒か。
いやいや、あの馬車はどこ行った?
門の出口から轍を……モガトシアイで見るか。
流石にズーム機能まではないモガトシアイだが、すっげえ遠くの石畳の枚数まで数えることができるのだ!……たぶん視力でいえば、サバンナの狩人もひっくり返るくらいにはいいだろう。アミメキリンのオサメス判別なんざ、できねえけどな!チンチン見えりゃあ別だけど!ガッハッハ!
さてさて、轍はあの山に向かってる。
坑道を改造して使ってる、ってとこか。
……で、建物だった建材は、そのまま壁に再利用されてるってわけね。
こりゃあ、廃坑って話も怪しくなってきたぜ。




