2ー9
「うるせえのはお前らだ!」
ギルドの扉が勢いよく開かれる。
そこから現れたのは青ヒゲハゲだった。
「やっかましいんだよ!ギルドの中にまで響く声で騒ぎやがって!」
「おお、青ヒゲハゲじゃねえか」
「お、そう言うアンタは昨日の元気な兄ちゃんか。
……なんだ?魔石の金の受け取りか?
って、「青ヒゲハゲ」ってひっでえあだ名つけやがって!……そのまんまじゃねえか!」
ガッハッハと笑う青ヒゲハゲ。
「ふう、こんな声出して笑ったのは久しぶりだぜ。
……魔石の金な、まだ渡せねえんだ」
「あ、そう?
……別にそれはいいんだけどよ」
「おう、なんだなんだ?
門番の若えのまで連れてるじゃねえか」
「おう。俺の班員。
こっちのピシャッとしてるのがジュークで、ちょっとアホそうなのがジャラン」
「ちょ、ハンチョー!そりゃないぜ!」
「はは、確かにアホそうだ」
「昨日は「俺の班員を貶すな」なんてかっこいいこと言ってたのに!」
「俺が貶す分にゃいいんだよ」
「めちゃくちゃ言いやがる」
出っ張った腹を抱えて笑う青ヒゲハゲ。
「でもな、アホそうだけど、いい奴なんだ」
「……っ!ハンチョー!……一生ついてくぜ!」
「……な?アホだろ」
「……っ!ハンチョー!そりゃないぜ!」
「はっはっは!
……で、こっちのが苦労してるわけだ」
「いえ、……まだ苦労という苦労はしてませんが、……これからするんだろうなと覚悟を決めたところです」
「そうか……若いうちの苦労は買ってでもしろっていうけどなぁ」
「えっ!ジュークって苦労してるの?なんで?倹約のしすぎ?」
「……主にお前のせいだよ。ジャラン」
「はっはっは!
いやぁ、お前ら面白いな!
……で、ところで、こんなところで何やってんだ?」
「ああ、魔石集めにくる奴らを待ってるんだ」
「……ほう?
そりゃぁ、一体何でだ?」
「いや、班長が言いたいのは、その、魔石の代金のことです」
「ああ、やっぱり金を取りに来たってわけだな。
……多分だがよ、今頃あっちの街外れで飯でも食ってんじゃねえかな?……いつもここに来るのは昼過ぎだからよ」
「あ!あっちの町外れならアレだ!
なんかよ、新しくできたひょろひょろ長いやつを食える店!」
「……ウドゥーンだ」
「それそれ!ウドゥーン!
ウドゥーン屋だ!」
「……なんだって!?」
「うわ!何だよハンチョー。
突然大声出して」
「その、店の名をもう一度言え!」
「え、ウドゥーン屋」
「……うどんだ」
「え、ちげぇよハンチョー。ウドゥーンだよ」
「いや!うどんだ!絶対!
うどん!…………食いてえええ!」
「班長。
少々声量を……」
「そうだよハンチョー!うるせぇって!」
「……でもダメだ」
「うわ、今度は声ちっちぇえ」
「カレーナの昼飯……食うって約束しちまった」
「ええー。
俺、カリーウドゥーンってのが美味いって聞いて、食いたかったのにー」
「カレーうどんじゃねえかっ!」
「うわ!今日一うるせえ!」
「うううう……、しかし、約束が……」
「班長。……妙案が。
……我々がここにいますから、班長はまず宿でお食事を」
「そ、それだと、うどんが……」
「その後、ウドゥーンを食せばいいのです」
「……」
「ジューク……。お前、天才か……?」
「……そのようです」
「俺、飯食ってくる!」
ダッと駆ける俺。
「あ、俺も!」
そんな俺に付いてこようとしてガッと肩を掴まれるジャラン。
「……お前は俺と見張りだ」
「俺もウドゥーン食いてえよー!」
「……苦労するな。兄ちゃん」
「いえ、まだまだこれから、という予感がします」
◇
「カレーナ!飯!」
「うわっ!戻ってきたのかい!
ってアンタ!扉ぶち壊したね!?」
「うわっ!そうだった!すまん!後で弁償する!
だから飯!」
「……弁償してくれんなら、こっちはそれでいいけどさ。
飯は急かしたってすぐには出ないんだよっ!」
「うええー!そこをなんとか!」
「何をそんなに急いでるんだい!?」
「俺、カレーうどん食いに行きてえんだよー!」
「は!?今から飯食おうってのに、もう次の飯の話してんかい!?」
「早くー!飯ー!」
「んもう!しょうがないねえ!」
パタパタと厨房に向かうカレーナに付いて行く。
「こっちについて来るんじゃないよ!」
怒られた。
◇
「ごちそうさまでしたっ!皿、お願いします!
行ってきます!」
「……一体、なんなんだい。あの男は」
まだ見ぬあの男の妻、ラグナにちょっとだけ同情しちまうのは、……まあ、しょうがないってもんさね。
すでに宿を飛び出し、街を駆ける俺の口の中は、完全にカレーうどんを迎える準備ができている。
ものすごい速度で高まる期待。ネギも入ってるのかな。出汁には何を使ってるのかな。カレーっていえば、給料日はカレーが出てたな。カレーライス……コメ食いてえな。
……そこで、思い出した。
俺、「あっちの街外れ」がどこか知らねえ。
急激に足が失速する。
「ああ……道が分からねえよう」
情けなさに涙も溢れる。
な、泣き声はあげないぞ!?もう、おっきい子だからな!
そんな俺に街の人は冷たい。
みんな俺を見るなり物陰に隠れたり……
くぅ!泣けてくるぜ!
もう、こうなったら前世からの秘蔵の作戦だ!
聞くは一時の恥!聞かぬは一生の恥精神発動!
ジュークぅぅ!奢るから連れてってええええ!
◇
ギルドに戻る道にも迷った。
やっとの思いで戻った俺にジュークは
「班長!ウドゥーンはどうでしたか?
先ほどちょうど、魔石の回収隊が到着しまして、今、ギルド内におります!」
と、すげえいい顔でいきいきと報告してくれた。
聞きたいことは……言えねえし、聞けねえ。
「ん、まあまあだった。
今度は一緒に行こうな!」としか言えねえ……。
墓場まで持って行くしかねえな。この恥は。
「ハンチョーだけずりぃなあー!
俺も行きたい!」
元気にはしゃぐジャランの頭をちょっと小突いておいた。




