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「獲ってくるとは言ってたけどさ、なんて肉持ってきてるんだい!?」
「え、なんたらホーンとかいう牛みてえな奴の肉」
「違うよ!量のことだよ!」
「みんな腹一杯肉食えればいいなって思ってよ」
「くうー!本人がコレなんだから!
姉ちゃんからも何か言っとくれ!」
「いいじゃないか。
精肉問屋が悲鳴をあげてはいたけどさ」
「へえ。
なんでもいいからよ、肉。
料理してくれよー」
「ったく。……ちょっと待っときな!」
「あとでもう二人来るからソイツらの分も頼む」
「なんだい!外で友達でも作ったのかい!?」
「いや、班員と班員候補」
「ハンイン?ハンインコウホ?
変な名前だね。
女を連れ込むってんじゃないならなんでもいいよ!」
「女は連れ込まねえ。
俺、嫁いるし」
「へえ!見かけによらないねえ!」
「どんな娘なんだい!?アンタみたいなのの嫁なんて大変そうだろうに!」
「んー。
畑も狩も良く頑張るし、飯もうまいし……」
「へえ!年は?
上かい?それとも下なのかい?」
「いや、同い年、だと思う」
「はぁー!いいねえ!
アタシらにもいい男が現れないかねえ」
「でもな、酒癖は悪いし、寝相も悪い」
「嫌だねえ!この人は!
すぐ男ってのはソッチの話に持って行こうとする!」
「そっちってどっちだよ?」
「なんだい!言わせようとするんじゃないよ!」
豚串屋のおばちゃんにバシバシ叩かれる。地味に痛え。
「おーい!ハンチョー!
来たぞー!」
「おお、来たか」
「あら、若い男」
「うわ、名物姉妹」
「こっちの若いのがハンインかい?
じゃあ、あっちの若いのはハンインコウホだね」
「え?俺、ジャランだよ?」
「ああ、ジャランが班員だ。
そっちのは、……名前はまだ知らねえ」
「あ、俺はジュークです」
「そうか。ジュークが班員候補だ」
「そうかい。ジャランにジューク。
アタイはミランダ。……惚れっぽいの。仕事は豚串屋のマドンナ」
「おお、噂通り」
「失礼だぞ、ジャラン」
「よし決めた。ジュークはアタイの隣に座んな。
あとは適当でいいよ」
「え、何が決まったんです?」
「んふふ、それを聞くのはヤボってなもんさ」
「ジューク。
……強く生きろよ」
「なんだそれ?どういうことだよ」
「ほら、肉が焼けたよ!
あ!また姉ちゃんだけ若い男捕まえて!」
「なんだい!アンタは仕事中だろ?
客に手を出すんじゃないよ!」
「そこの若い男達は客じゃないよ!
泊まるわけじゃないもんね?」
「ああ、そうだ。
俺たちは寮住まいだからな。な、ジャラン」
「ジューク……余計なことを」
「んふふ、アタイはカレーナ。
よろしくねっ、ジャランくん」
宿のおばちゃん——カレーナは、そこらの椅子をドカンとジャランの椅子の隣に寄せて座る。
「挨拶なんてどうでもいいからよ、肉食おうぜ。
冷めちまうよ」
俺にはもう、目の前の肉しか見えてなかった。
「そうだそうだ!ハンチョーの言うとおり!」
「よっしゃ!食おう!
いただきます!」
「……いただきます?」
「ジャランも知らないのか?」
「ハンチョー、それ、なに?」
「ああ、飯食う前の礼儀だよ。
お前らもちゃんといただきますしろよ?」
「そっか!じゃあ、いただきます!」
「い、いただきます……?」
「さあ、肉だ!なんとかホーン!」
「ハンチョー、グレイトホーンだよ。
……って、グレイトホーンなんだよな……」
「グレイトホーン!?なんてものアタイに料理させてんだい!」
「あれ?言わなかったっけ?」
「アタイは牛だって聞いたよ!」
「そうだっけ?
まあいいや、ほれ、ジャランから食ってみろよ」
「う、うおお……
グレイトホーン……」
約一月ぶりの肉というだけで恐れ多いのにまさかのグレイトホーン肉。
恐る恐るフォークでグレイトホーンの肉を取る。
つぷと刺さるフォーク。すげえ柔らかそうだ。
……こ、こんなの食ったら俺、英雄ゼフィリオンを越えちまう……
口に運ぶフォークが震える。
突き刺さった肉が魅惑的に震える。
口に入れる。
入れただけで伝わる旨み。
一噛みすると、溢れ出す肉汁。
濃い旨みが口中に広がる。
脳内には広がるゼフィリオンの最後のシーン。最後のセリフ。「……これで、平和が守られるならば、我が命、惜しくはない……」ガクリッ。「ゼフィリオーン!!」仲間達の慟哭。
もう、ブワッて感じ。
気づけば俺は溢れるほど涙を流していた。
「おわ、また泣いてるのか!?」
「美味すぎるー!
……うう、ゼフィリオンがぁー」
「……さっきは肉が食えないって泣いて、今は食って泣くのか」
「はは、じゃあ俺も食おっと」
フォークで3枚の肉をブッ刺し、無遠慮に口に放り込む。
「おお!うっめええー!
山で食ったのの、8倍はうめえー!
やっぱ、おばちゃんに頼んだの大正解だった!超うめえ!」
「口の中に肉入ってんのに大声出すんじゃないよっ!」
「へへっ!すまんすまん!
みんなも食えよ!食わねえなら全部俺が食っちまうぞ!」
そっからは食卓の上での戦争の開幕。
乱れ飛ぶフォーク。
「うめえー!」「ああっ!アタイの狙った肉が!」の阿鼻叫喚の地獄絵図。
しまいにはカレーナの持ってきたウイスキーみたいな味の酒まで飲み出して大宴会の様相を現す。
「ぶはあっ!強えな!この酒!肉に合う!うめえ!」
「いい飲みっぷりだねぇ。家でも飲むのかい?」
「おお!だけどな……。ラグナが飲むと大変だからよ、控えてんだ」
「ラグナってハンチョーの嫁さん?」
「そうそう。酔うと脱ぐし、すぐ吐くんだ」
「へえ。そりゃひでえや!」
「だろ?だからよ、気兼ねしねえで飲むのも久しぶりなんだ」
「じゃあ、この際、どんどん飲みな!
まあ、あんまり量はないんだけどね」
「そういや、ハンチョーはそんな嫁さんほっぽり出して何しに来たんだ?」
「ああ、嫁さんの姉ちゃんを探しにきたんだ」
「へえ?
嫁さんの姉ちゃんはこの街に嫁いだのか?」
「いや」
「……名前は?」
「あ、そういや知らねえな」
「おいおい、どうやって探すつもりだったんだよ?」
「見りゃあわかるさ」
「ああ、嫁さんと双子とか?すげえ似てる的な?」
「いや。オーガだから」
ガチャガチャ騒いでた4人の動きが示し合わせたように止まる。
「へ?なんて言ったんだい?
……オーガ?」
「オーガって……あの……?……魔族の?」
「ハンチョーの嫁さんオーガなの!?」
「あれ?言わなかったか?」
「「聞いてないよ!」」
ミランダとカレーナ姉妹が綺麗にハモる。
俺は、空になったコップに酒を注ぐ。
クワワン、と音を立てて何かがテーブルから落ちる。
「え?ハンチョーってオーガなの?」
「ちげえよ。見てわかるだろ?俺は人間」
「わかんねえって!そんなでけえ人間初めて見たわ!
グレイトホーンは狩ってくるし!」
「じゃあなんでオーガと結婚してんだい!?」
「え……?普通に?」
「……なんだい、普通って?」
「え、だ、だからよ……
なんていうか、照れちまうけど……好き合って?」
「はぁー!いいねぇ!
もう、相手がなんだろうが祝福したい気持ちだよ!」
「だね!姉ちゃん!
ああー!アタイらにもこんな男が現れたらねえ!」
「でもよ、なんでその姉ちゃんはいなくなったんだ?」
「それだよ!ジューク!俺が聞きたいのもそこ!」
「うるさいぞジャラン」
「なんかよ、10年くらい前に攫われたんだと。人間に」
「……攫われ、た?」
「ああ」
「……ちょっと待て、よ。
確かに王国も帝国も魔族を連れてくることがあるって聞くが、それはあくまで保護って話じゃないか?」
「だよなあ。
国が傾くほど魔石を集めて食わせてやってるって聞いた」
「占領地の復興もそっちのけで、な」
「アイツら……オーガもオークも俺らとおんなじもんを食う」
「え?そうなの?」
「ああ。魔石を食うのは病気の時とか、ケガした時だけだ」
「じゃあ、健康な魔族には魔石はいらないってことか?」
「そうだな」
「じゃあ、国はなんで……」
「なんで、なんて関係ねえ。
魔族達の意に沿わねえことを無理やりしてる。
俺は、それを許さねえ」
「おお……」
「あんだよ?」
「……かっけえな。ハンチョー」
「あ?」
「コップが空っすよ。注ぎます」
「なんだ突然気持ち悪いな」
「……はあ、姉ちゃん。
今日はダメだよ。いい男が男まで取っちまうから」
カレーナはため息をついた。
「……既婚じゃなけりゃあ、ね」
ミランダもため息をついた。




