2ー4
ギルドを出た俺は、とりあえずは宿を探すことにした。
「宿の場所、聞いときゃ良かったなぁ」
でも、ギルドの青ヒゲハゲのとこに戻るのも何だか癪なので、一人で瓦礫の残る道を歩く。
「どうせ、人通りのある方に行けば見つかるだろ」
夕方が近づき、空が赤らむ街を歩きながら、なんとなく歩く人に付いていく。
たまに振り返られては眉をひそめられるけど愛想笑いだけでかわしながら。……その度に早足になるのがちょっと心にくるものがあるな。
買い物かごが空だし、これから買い物にでも行くんだろう。そこで飯を調達できればなお良し。
しばらくそうやって歩くと、賑わっている場所に出た。
市場って感じだな。たくさんいる露店からは鼻腔をくすぐるいい匂い。自然によだれが溢れてくる。
「おばちゃん。……コレ、なに?」
気づけば俺はいい匂いを暴力的に放つ露店の一つに吸い寄せられ、そこに並ぶ商品を指差していた。
「コレかい?
見ればわかるだろ!?
焼き豚串!一本銀貨一枚だよ!」
「えっ!高くねえ!?
宿でも一泊銀貨3枚なんだろ!?」
「何言ってるんだい?適正価格だよ!
宿は人が減って安くしてるだろうが、食材も減っちまったんだからね!その分高くなったのさ!」
「なんだよ、豚がいねえってことか?」
「豚だけじゃないさ、あらゆるものが、だよ。
で?食うのかい?食わないのかい!?」
「食う。10本くれ」
「あいよ。……って、10本も食うのかい!?」
「おう。多分足りねえけど」
「銀貨10枚だよ?」
「おう」
ジャラリと掴んだ銀貨をおばちゃんに渡す。
「タレと香草とどっちにするんだい?」
「んー。5本ずつ半々で!」
「あいよ!待っときな!」
慣れた手つきでおばちゃんは豚串を焼き、注文通りにタレ豚串と香草豚串を5本ずつ用意してくれる。
「長えのか?この商売」
「ああ、そうさ。
物心ついた時から父ちゃんの手伝いしてたからね」
「へえ。
今日は親父さんはいねえのか?」
「……まあ、ね。
……死んだのさ」
「……そっか」
「ほら、焼けたよ。
持って帰るのかい?それともすぐ食うのかい?」
「すぐ食う」
「そうかい。じゃ、毎度あり」
「おう。いただきます」
おばちゃんは何でか、はて?みたいな顔をしたが、豚串を渡してくれる。
俺はすかさず豚串にかぶりつく。
「っ!何だコレ!うめえー!」
「タレ、ヤッベェな!うめえしか言えねえけど!
香草の方もうめえー!」
「……そうかい?そりゃ、よかったよ」
あっという間に10本の豚串は俺の胃袋に消える。
まだまだ腹一杯には程遠い。
「おばちゃん!おかわり!」
「アンタが店の前で騒ぐもんだから、急に繁盛しちまってすぐには用意できないよ!」
いつの間にかおばちゃんの露店には人だかり。
「そっか!よかったな!じゃあ俺は別のもん食うわ!
またな!」
◇
「ふいー。食った食った」
パンやらスープやらいろんなもんを食った。
しかも最後には露店側から「うちのも食ってみてくれ!」ってタダで食わせてもらった。
よくわからんカマキリみたいな奴がエビの味するとは思わなかったなー。なんて考えながらふと空を見上げると星が出てる。
「あ、……宿」
そうだった。俺、宿取らなきゃいけねえんだ。
「なあなあ、宿ってこの辺にある?」
露店の片付けをする豚串おばちゃんに聞いてみる。
「アンタ、見ない顔だと思ったらこの街の人じゃないんだねえ。この裏手におばちゃんの妹がやってる宿があるよ」
「おお、そっか。ありがとう!」
「妹に姉ちゃんから聞いたって言いな!
多少は都合つけてくれるだろうさ。
まあ、どうせ閑古鳥が鳴いてんだろうけどね」
「わかった!またな!」
タッと駆け出す大男を見ながら豚串おばちゃんは笑った。
こんなふうに笑うのはずいぶん久しぶりな気がした。
「あんな男がまだいるんだねえ」
「ああ、こっちまで明るくなっちまうわな。
……この商売、辞めちまおうかと思ってたけど、もうちょっと頑張るかな」
隣の野菜スープ屋のオヤジも珍しく笑顔だった。
◇
「アンタが噂の大男かい?」
宿を見つけ、扉をくぐった途端に宿のおばちゃんに話しかけられる。
「噂?」
「何だか珍しい、元気のいい大男が来たって噂さ」
「へえ。
そいつと俺がおんなじかどうかはわからんが、豚串屋のおばちゃんから紹介されて来た」
「ああ、やっぱりアンタが噂の大男だよ」
「そっか。
一部屋、借りたいんだが」
「ああ、いいよ。
何泊するんだい?」
「んー、とりあえずは3日」
「そうかい。
じゃあ、姉ちゃんも世話になったんだし、銀貨6枚でいいよ」
「飯付き?」
「朝昼夕の飯付きなら……12枚」
「いつもの値段でいいぞ?」
「いつもの値段だったら18枚だけどさ」
「じゃあよ、大銀貨2枚払う」
「ええっ!?なんでだい!?」
「俺、飯いっぱい食うから」
「そりゃあ、こっちは嬉しいけどさ」
「ベッドある?早く寝てえ」
「部屋は2階の角部屋を使いな」
「おう」
宿のおばちゃんに部屋の鍵を受け取るとさっさと上がった。
部屋には簡素な棚とベッドだけがあり、俺は荷物を放り投げるとベッドにダイブした。
足ははみ出るし、寝返りを打てば落ちそうなベッドだけど、このベッドには我が妻ラグナはいない。
そう、ホーミング足ミサイルの射程外だということ。
ラグナと俺は、客観的に見てもかなりのラブラブだろうけど、ベッドで寝る時だけは絶対に蹴り落とされる。オーガの里の長老であるじいちゃんは、時が解決するみたいなことを言うけど、な。
「うへえ、ちゃんとした寝床だー……」
お世辞にも、いい寝具ではない。
綿はあんまり入っていないし、ホコリっぽい。……それにちょっとだけカビ臭い。陸自時代の緑ベッドを彷彿とさせる。……でも、ちゃんと寝床だ。
「さいっこうだぜ……」
もっと堪能してやる、と意気込んだものの、次に目を開けた時はもう、昼前だった。




