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「たのもーう!」
武器屋のおっちゃんの言った通り、店を出て、右に進んだら数件先に冒険者ギルドと書かれた看板を見つけた俺は、大して丈夫そうじゃない扉をパァンと開け放ちながらくぐり抜け、その瞬間にちょっとだけ自分の中のワクワク感というか、ウキウキした気持ちというか、そういったものがしぼむのを感じた。
……だってよ、
ギルドっていったら、美人な受付と相場が決まってるだろ?
しかも、『初めての町』なんだぞ?
それが、「あ?……何を頼むって?」
と、ドスの効いた声を放つ青髭が好き放題に生えたスキンヘッドのおっさんだった日にゃあよ。
……しかも、まあまあ広いのに、青ヒゲハゲと俺しかいねえなんてよ。
「なんだ、人の顔を見るなりしょげた顔しやがって」
「いや、……完全にこっちの都合で申し訳ねえんだけど、若い美人の姉ちゃんを期待してたもんだからよ」
「……悪かったな。……で、何の用だ?」
「俺さ、ギルドって初めてだからどんな仕事があるのかなーって」
「……そこに依頼が貼ってある」
青ヒゲハゲが無愛想な顔のまま、ヒゲまみれの顎で右手の壁を指す。
つられて見ると、木の板に何やら書かれた羊皮紙が釘みたいなもんで留められている。
「おお、……なになに」
『公共広場のどぶさらい』
『食堂のネズミ退治』
『瓦礫除去作業』
『街路補修作業』
「……なあ、おっさん」
「……なんだ?」
「魔物退治とかドラゴン退治とかねえの?」
「……見た通りだ」
「ふーん。つまんねえの」
「そんな依頼出されても受ける奴いねえだろ」
「そうか?
……あ、それとよ、これ」
腰につけた袋から魔石を取り出してゴトと置く。
「……売れんだろ?」
「おお、魔石か。
……ちょっと待てよ。こんなでかい魔石、一体どこで盗ってきたんだ?」
「盗ってねえよ。獲ったんだ。
それに、そんなにでかくはねえだろう?」
「いやいや、コレはでかい。
少なくとも、俺は見たことねえくらいにはでかい」
「そうか?」
「ああ、少なくとも、ゴブリン程度の魔石じゃねえな。
……一体何を狩ったらこんなのが出てくるんだ?」
「なんか鳥みてえな奴」
「鳥?……どんな奴なんだ?」
「でかくて……、焼いたらまあまあ美味い奴」
「食ったのかよ……。
でかいってどんくらいでかいんだ?」
「えー……。
翼を広げたらこの部屋じゃ収まらねえくらいかな」
「すっげえでかいじゃねえか!?」
「そうか?
小ぶりだと思ったんだけどな。すぐ食い終わっちゃったし」
「色は?
……って、そんなでかい鳥、全部食っちまったのかよ!?」
「おお。食った。腹減ったからな。
色は、白かったなあ」
「……腹減っても食い切れる量じゃねえだろ……。
で、どんな攻撃してきたんだ?」
「んー。
気づかれる前に狩っちまったからな。わからん」
「なんだ?弓か何かを使うのか?
どんな獲物なんだ?見せてみろ」
「いや、石」
「石!?」
「おお。
石ぶん投げて殺した」
「……」
「で、売れるんだろ?」
「お、おお。買う」
「いくら?」
「この大きさの魔石なんて取り扱ったことねえからちょっと待ってくれ」
青ヒゲハゲはそう言うとしゃがみ込み、カウンターの下でゴソゴソ。
やっと立ち上がったと思ったら分厚い本を持っていた。
魔物図鑑と書かれたそれを開き、ペラペラとめくる。
「……少なくとも、このコカトリスって奴以上の魔石だろうな」
「へえ、コカトリス」
聞き馴染みだけある名前だった。
鶏みてえな、尻尾がヘビのやつ。
でも、ヘビついてなかったけどな。
ヘビが付いてりゃ二度美味いだろうに。
「わからんが、金貨2枚は下らんだろう」
「それってどれくらい?
……宿とか泊まれる?」
「宿もとったことねえのかよ……。
ああ、泊まれるよ。この辺は大体、銀貨3枚ってとこだろ」
「銀貨何枚で金貨1枚なんだ?」
「おいおい!そこら辺の子供でも知ってるぞ!?
銀貨100枚で金貨1枚だ!」
「ふうん。じゃあ、それ売る。
あとさ、それとおんなじくらいの奴が5個くらいあるんだけどそれも売っていい?」
「……俺はもう、大抵のことじゃ驚かねえぞ」
「あん?」
「いや、買う。
全部で金貨12枚だ。……だが、そんな現金置いてねえから支払いは今度でいいか?」
「おう。
でさ、それって、どこに運ぶんだ?」
「あ?」
「魔石だよ。おっちゃんもどこかに売れるから買い取るんだろ?」
「……まあな。
……月に一度、軍が取りに来る。
ただ、行き先はよく知らん。
……多分今月は明後日くらいだろう。金を渡すのもその時以降になる」
「そっか。ありがとよ。
……っあ!金貨1枚だけでいいから先にくれねえか?」
「わかった。残り11枚は今度な。
……宿取るんだろ?銀貨で渡してやる」
「おお!助かる!」
「……ほい、大銀貨7枚と銀貨30枚だ。
そのかわり、また魔石が取れたら持ってきてくれ」
「大銀貨?」
「ああ。銀貨10枚分だ。
……本当に何も知らねえのか?」
「そっか!ありがとう!またな!」
金を渡した途端、満面の笑みでスパンと出ていく大柄な男を見て、ふんとため息をつく。
「あんなに元気な奴が、他にもいればな」
「……昔みてえによ」
独りごちて、酒の瓶をあおる。
青い髭を掻き分けて。




