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「絶対に、ベッドをもっと大きくしてやる……」
ベッド枠を背に床に座り込み、一人ゴチる。
夜の運動会場が……とかいう話ではない。
ていうかそんなのまだ未経験だ。
俺が風呂から出て来た時にはラグナはすでに爆睡状態だったからな。
じゃあなんでかって、単純にラグナの寝相だ。
夜中のうちにベッドから五回蹴り落とされた。
外はまだ真っ暗。
ベッド上には長い足をベッド外にまで伸ばし豪快に眠るラグナ。
そっと足を持ち上げ、ベッドに戻してやる。
「んふふー、モガトシ、すきぃー……」
よしよし、次こそは。
「ならなんで蹴るんだよ」という疑問は一度しまっておく。
ゆっくり、ゆっくり、ぐしゃぐしゃになった布団を捲り、音を立てないように入り込む。
で、横に寝転ぶと——
アレルギー反応のように、蹴りを入れてくる。
で、落ちる。
六度目。
俺は、布団に入った次の瞬間にはベッド外にいる。
「まだスズメも起きてねえのに……」
長くなりそうな初夜は始まったばっかりだった。
◇
「おお、ドラゴン殺しの婿魔王殿。
えらい早いお目覚めじゃな?」
「……いや、お目覚めてはいねえんだけどな」
「ほ?」
「全然寝てねえんだ」
「そりゃ、……ちと初夜から頑張りすぎじゃなかろうか?」
「んにゃ、なんも頑張ってはねえよ……」
「一晩中……を、頑張ったうちには入らんと……?
と、とんでもないのう」
「はは、それほどでもねえさ」
あの後、何度もトライしたが、その度に蹴り落とされた俺は、スズメが鳴き始めたのを聴いて、寝るのを諦めた。
どうせ起きるなら、と朝飯を作るために集会所兼ジジババ宅にやってきたところ、スズメより早起きのジジババ達が迎えてくれた。
適当に見繕った材料を、適当に鍋にぶち込む。
もう、朝飯は適当スープで決まりだ。
「さすがの婿殿も、疲れが出とると見える」「ほうじゃな、いつもより動きが雑じゃ」「一晩中やりすぎたんじゃろ」「ああ、ラグナが心配じゃ」
ラグナは元気でガーガー寝てるよ……。と、言ってやろうかとよぎったが、……そりゃ、ラグナを落とすようなことは言わねえよ。
ごちゃごちゃうるさいジジババ達を放っておいて、スープを煮込む。
腹を満たしゃ、その辺の木陰でも寝れるだろ。
「ジジババ達の分もあるぞ」
どかりと盆に乗せたスープ入りの椀をテーブルに置く。
「ほ、いつもすまんの」
手に手にスープを取り、啜り始めるジジババ達。
さ、俺も食って、寝る場所でも探すか。
「おっはよー!
あ!モガトシいたー!
起きたらいないんだもん。びっくりしちゃったー!」
ほっと一息、と思った瞬間、たっぷり寝た元気妻、ラグナが来襲した。
「あっ!スープだ!
モガトシが作ってくれたのー?やったー!いただきまーす!
ジジババ達ももう食べてるんだね!
わっ、美味しいー!野菜がシャキシャキしてて面白いね!」
おおう、元気。
一気にラグナ色になる集会所。
「……ラグナのやつ、元気じゃな?」「素質があったってことかの?」「……一体どんな素質じゃ!?」「……そりゃ、夜の運動会じゃろ」「婿魔王殿を尻に敷いたか……」
「えー?
夜の運動会ってなにー?」
「……ラグナや、初夜は優しくしてもらえたかの?」
「んー?
モガトシは、いつも優しいよっ!
オババ、心配してくれてありがとっ!」
「ほんとに、よかったねえ。
ずっと仲良くするんだよ?」
「うん!
ねえねえモガトシ!
ご飯食べたらお散歩とか、狩りとか色々しようねっ!
……じゃ、ごちそうさまっ!
準備して待ってるねー!」
……嵐のように過ぎ去るラグナ。
どうやら、俺の昼寝計画は藻屑となって消えたらしかった。
「婿殿……。
あのな、オーガは夜に強いんじゃ。
あの……、元気、出すんじゃぞ……?」
長老がオババ達から少しだけ離れて俺を慰める。
確かに強かったよ。ベッドの中じゃ、昨夜だけで十敗以上してるんだからな。
「……長老、あんたの孫、寝相悪すぎだぞ……」
「……婿殿よ。
……そんなこと、嫁の祖父に言うもんじゃないぞい」
違う。
そんなことが言いたいんじゃない。
リアルな寝相が悪いんだ。特に足が。
……でも、これ以上言い返す気力が今の俺にはなかった。
◇
「今日もいっぱい仲良しだったね!」
「……おお」
「オババにも言われたもん!
特に、夜はいっぱい仲良くすることって!」
「……おお」
「昨日も一緒に寝た?……んだよね?
アタシ、先に寝ちゃったから全然覚えてないけど!」
「お、……おお」
「もうお風呂も入ったし、一緒に寝よっ!」
「……寝れたら……な」
結局、今日はベッドの拡張に取り掛かれなかった。
つまり、昨日と同じ状況。
どう考えても、このままじゃ同じ目に遭う。
でもよ、一つだけ昨日と違う点がある。
それは、今、ラグナはまだ起きている、ということ。
ならば、ラグナより早く眠りにつけば、多少は寝れる余地がある。
そう思いついた俺は、すぱっと布団を捲り潜り込む。
後は、目を閉じて……
ラグナも布団に入ってくる。
ぴとりと肌にラグナの肌の感覚。やわらけえ。
……けど、なんか、グイグイ押し付けて来てねえか?
ちょ、寝れないんですけど……!
「……なに、してるんだ?」
「えっとね、オババが言ってたんだけど、一緒に布団に入ったらお尻をくっつけなさいって。グイグイって」
……尻。
…………尻だったかぁ。
目が冴えてきてしまう。
頭はほとんど寝てるってのに。
身体は夜の運動会とやらの準備を勝手に進める。
うむむむ、目を開けたら負けな気がする。
今の俺には必要なのは睡眠だ。……早く寝てしまわなければ、蹴り落とされる。
でもよ、夫婦になったんだし、……いいんじゃねえか?
いやいや、それでも、今日じゃねえ。
今は寝たい。それが一番優先なはずだ。
ラグナを抱きたい悶々とした気持ちを抑え、心を鎮めることだけに集中する。深く息を吸い、吐く。
よし、落ち着いてきたぞ。
その瞬間、鋭い衝撃と共にベッド外に放り出される。
……うちの嫁、寝つき良すぎだろ。
寝相はものすごく悪いけど。




