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「うひー、食った、食った」
「もう入らないね!」
「ああ」
集会場の広間。
里の全員が座れる大テーブルに座り、ウエディングトカゲ料理とドラゴンステーキをみんなに振る舞った。
ドラゴン肉は意外と柔らかく、ウエディングトカゲほどじゃないが美味かった。
とにかく量も多いし大満足だ。
なんだかこれを食ったジジババ達も元気になったような気がする。
結婚式、といっても何の肩肘を張る必要もない、いつも通りの食卓みてえだったけど、一つだけ、いつもと違うことがあった。
それは、式の始まり、って時に俺とラグナの前にそれぞれ出された、ウエディングトカゲの肩の部分の骨付き肉。
これを俺たちが食い終わるまで、ジジババ達はじっと俺たちを見ているだけで、何も食おうとしなかった。
なんだか落ち着かねえな、と思いながら肉を食い、骨を置くと、すぐに皿が下げられ、そっからはみんなが好き勝手に色々と食い出したんだ。
何だったんだ?
「すっごい美味しいね!ウエディングトカゲ!」
「ああ、すげえよな。醤油も何もつけてねえのに何であんなに美味いんだろうな?」
「しょうゆ?へえ!それ付けたらもっと美味しいの?
……また、食べたいなー」
「そうだなぁ。醤油、作りてえなあ」
「モガトシが新しいお嫁さん連れて来たらまた食べれるんだよねっ?」
「ぶっ!
……お前なあ、言ってる意味わかってんのか?」
「へ?アタシ変なこと言った?」
「言った。
……大体、今日結婚したばっかりじゃねえか」
「……あれれ?モガトシはアタシとずっと二人がいいってこと?」
「……」
答えにくいことを平然と聞いてくるな、コイツ。
「ああ、そうだよ」と面と向かって言いたいが、離れた席からニヤニヤして聞き耳を立てる長老に聞かれたら……
「……このトカゲなら、また今度獲って来てやるから」
「お嫁さんは?」
「……」
「……それはお前だろ」
「「「うおおおー!」」」
「よくもまあそんな歯の浮くことを言えるのう!」「うちのジジイは言ってくれんのにのう!」「ワシ的にはもうひと押しあってもええけどのう」「あの婿殿にしてはよく言った方じゃ!我慢せい!」「うちのジジイより気が利いとるよ!」
オババ達の黄色い歓声?が沸く。
「……それはそれとして、じゃ」
何だか居心地悪そうな長老
「ほれ」
ほいと渡されたのはさっき食った肩の部分の肉の残りの骨。
さっさと持っていったな、と思ってたら、洗って磨いたらしく、すごく綺麗になっている。
「わあ!ありがとう!」
隣のラグナも同じものをラライ——お義母さんに手渡されている。
「んふふ、婿君と仲良くね」
「うん!」
満面の笑みのラグナは力強くうなづくと、俺の方に向き直す。
「はい!モガトシ!」
差し出す手にはさっきの骨。……どゆこと?
「交換するんだよ!
それで、ずっと持っておくの」
「ほう?」
ああ、結婚指輪的なやつってことか?
長老が一つ咳払いをする。
「ゴホン……
さて、……骨は、命。
骨を預け合うものは夫婦じゃ」
「……互いの骨を受け取り、骨ある限り、共に生きよ」
「うん!」
「おう、任せろ」
長老の口上を聞き、手に持つ骨をラグナと交換する。
「ここに、新たな夫婦が誕生した!
二人を祝福し、オーガに繁栄を!」
「「「骨ある限り、共に生きよ!」」」
「モガトシ、アタシの骨、よろしくね!」
「ああ」
「……お前もな」
「うん!……えへへへ……」
「さて、さて皆の衆、……片付けじゃ!」
その声を聞いたオババ達が一斉に立ち上がり、ニヤニヤと笑いながら食器を抱えて広間をあとにしていく。
「……えらく慌ただしいじゃねえか」
「そりゃそうじゃろ。
……結婚式はもうおしまいじゃ。
夜の営みを邪魔してはならんからの。」
「……は?」
「あとは、若いモンは若いモン同士ってことじゃ」
「…………は?」
「ほれ、ラグナ。
……婿殿を連れて行け」
「うん!」
「……いや、どこに!?」
「そりゃ、寝屋じゃろ。
初夜ってやつじゃ」
「早く行こっ!モガトシ!
「仲良し」ってやつするんでしょ?」
グイグイ俺の腕を引っ張るラグナ。
「お前!絶対意味分かってねえだろ!?」
はたと、引っ張るのをやめるラグナ。
「長老、初夜って何するの?」
「…………婿殿が知っとるんじゃないかの?」
「……そっか!わかった!」
再びグイグイ引くラグナに連れ去られる俺。
だけど、その直後——
「ラライ!こっちに来なさい!」と、長老の叫び声だけはちゃんと聞こえたぞ。
◇
「なんかねっ!
「初めての仲良しは優しくしてもらうんだよ」ってオババが言ってた!」
「……中途半端な知識だな……」
ラグナに引っ張られて帰った我が家は、結婚式の合間に勝手に模様替えされていた。
ラグナの部屋は片付けられ、代わりに俺の部屋には一人で寝るどころか、四人くらい並んで寝れそうなバカでかい布団が一つ。
どこで拾って来たんだか、ところどころに花びらまで散りばめられてる……。
完全に初夜対策である。
……まあ、俺も本で得た知識程度しかないわけだが……。
「……よ、余計な気回しを……」
「アタシのベッド無くなっちゃったけど、おっきい布団だー!やったー!」
「お花だー!すっごいいい匂い!」
「お、おう。
寝にくそうだけどな……」
パタパタと満面の笑みで走り回るラグナ。可愛い。
「あっ!そうだ!
帰ったらすぐお風呂入れってお母さんが言ってた!」
「あ……そうか。
行ってらー」
「えっ?
……モガトシは行かないの?」
「……」
「……お、俺も、……一緒に?」
「えっ!一緒……は、まだ、だめ……」
少しだけ頬を赤くしたラグナは、
「……モガトシはアタシの後ね!」
くるっと踵を返し、風呂場に走り出すラグナの背中を見送る。
……勿体無いことをしたかもしれない。
……いや。
これから先、いくらでもチャンスはある……、はずだ。
……「初夜」、ねえ……
ふう、と息を吐く。
頭ではなにをするものなのか分かってるけど……
どうやったらそうなるんだ?
なんて言えばいい?
ぐるぐると思考が回る……
「はぁー!気持ちよかったー!
モガトシ、お風呂ー!」
風呂上がりのラグナからはハーブの匂い。
「オ、オウ……イッテクル……」
考えがまとまらない俺は、なぜかカタコトになってしまう。風呂に向かう動きまで出来損ないのロボットみたいだ。
「……変なのっ!」
そんな俺の背中を見てラグナは吹き出した。




