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うーむ。
ウエディングトカゲを狩ったのはいいが、どうやって持ち帰るか、が問題だ。
俺の身長ではどう担いでも地面に付いちまう部分があるから、このまま歩けば引き摺ることになる。
食べ物を引き摺る……いや、論外。
じゃあどうするか?
ポンと前に投げて、進んで取って、を繰り返すか?
……いや、これもダメだ。
着地の瞬間に肉が地面に当たる。傷んじまったら元も子もない。
……しょうがない。
ここは素直に木を切ってソリでも作るか。
時間はかかるかもしれんが……急がば回れっていうしな。
材料はその辺に生えてる木。ひょいひょいっと倒して並べて繋いでいく。……はい!ソリ完成!
ウエディングトカゲを載せて準備完了!行くぜ!仮製ソリ一号!
ふっふっふ……。
待ってろよ!ラグナ!
仮製ソリを曳き、山を越え、谷を越え!邪魔な木を根っこから引っこ抜き、途中で見つけた美味いトカゲをとっ捕まえて!
行くぜ!モガトシ超特急!
フハハハハハ!
モガトシ超特急は終着駅のオーガの里まで一切停車いたしませーん!
途中で見つけた肉は片っ端から積み込みまーす!
揺れる車内なので、お気をつけくださーい!
◇
「あーあ。……今日もモガトシ帰ってこないなー」
ラグナは里の外れの小高い岩山の頂上にいた。ここ数日、夕方になると毎日のように通うこの場所は、見晴らしが良くて、里の周りの様子を見るのには最適な場所だ。
「早く帰ってこないと、アタシもオババみたいにシワシワになっちゃうんだからねっ」
頂上の聳え立つ岩の上に座り足をぶらぶらさせながら独りごち、ぷうと頬を膨らませる。
モガトシがウエディングトカゲを探しに出発してから、もう少しで一ヵ月になる。
里の古い風習では、男がウエディングトカゲを探している間、アタシとモガトシみたいに好き同士でも手伝っちゃダメ。
……お母さんも、ジジババ達も、みんなそう言う。
ちょっとの時間でもモガトシといたいのに……。
みんなに結婚を認めてもらいたいから。
……だから、付いていけなかった。
モガトシはオーガじゃないからジジババ達の中にも結婚に反対するオババも何人かいる。
「子供ができないかも」「一緒にいても辛い思いするかも知れないよ」とも言われた。
きっと、アタシのことを考えて言ってくれたんだと思う。みんな、優しいから。
……でもね、アタシはモガトシと一緒にいたいなって思うの。
だから……ウエディングトカゲを探しにいってくれたのはすっごい嬉しい。……んだけど……。
やっぱり……
モガトシがいないと寂しいよぅ。
……帰ってきたら、絶対、角ゴリゴリしちゃう。
モガトシはおでこに角無いから、ゴリゴリすると痛そうにするけど。
お股の角は、角じゃなかったけど。
お股の角がなんなのかは教えてくれなかったけど、お母さんが「それは恥ずかしい勘違い」だって言ってた……
お風呂に一緒に入った時も、慌てて隠してたもんね。
思い出して、ふふっと笑ってしまう。
あーあ。早く帰ってこないかなぁ。
モガトシのことだから……きっとさ、おっきいトカゲを山ほど捕まえてくるんだろうな。
ほら、ちょうど、あの森の向こうの赤い山みたいに——
——ん?
……あれ?
あんなの、昨日、あったっけ??
それに、よく見ると……木を倒しながら近づいてないかな?
ま、まさか、と思うけど……
も、もしかして……
遠くの洞窟にいるっていう、ドラゴン!?
あわわ、大変だ!
みんなに教えないと!
慌てて走り出したアタシは、足がもつれて盛大に転んじゃった。
「いったぁー!」
わっ!違う違う!
早くみんなに教えに行かないと!
「みんなー!大変だよー!」
「おお、ラグナや、どうしたんじゃ?そんなに慌てて」
「ドドド、ドラゴンが来たよー!」
「ドドドド、ドラゴンじゃと〜!!」
「向こうのほうから、木をバキバキ倒しながら近づいてくるよー!」
「ぶ、武器じゃ!」「ワシは長老を呼んでくるわい!」
「婿魔王様もおらんというのに……!」
ラグナの報告によって、静かだったオーガの里が慌ただしく動き始める。
ヨタヨタと走るジジババ達が石槍をかき集め、家々の扉まで盾代わりに外し始めた。
木がバキバキと折れ、倒れる音が響く。地面まで、ドシンドシンと揺れ出す。
……もう、すぐそこまで来てる!
すかさずラグナが石槍を拾い上げようとした時、長老が肩を掴んで制止した。
「ラグナは逃げるんじゃ!」
掴まれた肩を振り解こうとするが、長老の手は離れない。
「……嫌だよ!
アタシも戦う!」
「バッカもん!
……ラグナ、お主だけは生きなけりゃならん!」
「なんで!?」
「昔っから決まっとる!子らを守らんジジババのおるもんか!?死ぬのはジジババ達が先じゃ!
……ラライを、……ワシの娘を連れて逃げるのじゃ!」
片腕がないお母さんは戦えない。
……それに、そんな風に言われたら、アタシは逃げるしかなくなっちゃう。
「うう……
……そんなこと言われたら……
……ズルいよ、じいちゃん……」
「はん、伊達にここまで生きとらんってことじゃ。
……ほれ、さっさと逃げるんじゃ!」
バキバキ!……ズズン!
里のすぐ外の木が折れて倒れる。
慌てて振り向くと、赤い巨体が樹上に見えた。
「チイッ、……もう来おったか……」
長老は握った石槍をグッと握りなおす。
「よいか、……ワシが突っ込む。その隙に逃げるのじゃぞ」
「おーい、みんなー!」
「……!婿殿……!?」
「ええっ!?モガトシ?」
木を蹴り倒し、現れたのは巨大な赤い獲物をソリで曳くモガトシだった。
◇
「モガトシが帰って来たー!
やったー!
ね、ね、後ろの獲物、見て来ていい?」
「おお、ラグナ。
……ああ、見て来ていいぞ」
「わーい」
ぴょんぴょんと俺の周りで跳ねるラグナはそう言うと、ソリを覗きに走って行く。
「いやあ、びっくらこいたぞい」
「お?なんで?
……長老、なにやってるんだ?」
石槍を構えたまんま、固まっている長老。
「こ、腰が抜けてしもうた……」
「おお、腰やっちまったのか?……無理すんなよ?
……ってか、何事?」
一箇所に集められた石槍と家々の扉……戦争でもするのか?
「いやいや、婿魔王様よ……。その後ろの赤いのは一体なんじゃ?」
「おお、ウエディングトカゲだ!
洞窟に隠れてやがってよ……苦労したんだぜー?」
「こ、こんな馬鹿でかいトカゲがおるもんかっ!」
「ええっ!……だって、長老がすげえでかいって言ってたし……」
「それに、洞窟じゃと!?
昔っから洞窟におるのはドラゴンじゃ!他の生き物なんか、ドラゴンを恐れて近寄りもせんのに……!」
「ええっ!?
コイツじゃねえのかー……。また探し直しじゃねえかよ……」
巨木をくり抜いてつなげたソリに載せたドラゴンを見上げて嘆息する。……せめて美味ければいいな。
……と、ソリの縁に腹を引っ掛け、足をバタバタさせながら上半身ごとソリの中に突っ込んでるケツ……いや、俺の妻、ラグナが一匹の美味いトカゲを引っ掴んで走って来た。
「ジジババー!このちっこいのは?」
「おお、そいつはなんか美味いトカゲだ。
帰り道についでに獲って来たんだよ」
「……そっちがウエディングトカゲじゃ」
「おお!じゃあクエストクリアか?」
「くえすとくりあってなんじゃい?」
「このドラゴンも食べるの?
こんだけあったら、絶対みんなお腹いっぱいだよねっ!」
「コイツ、すっげえ美味いんだぞ!?何匹も弁当にしちまったくらいだ!」
「ドラゴンも美味しいのかなー?」
「どうだろうな?……硬そうだけど、な。食ってみりゃわかるさ」
「ワシ……生きてる間にドラゴン食うことになるとは思っちょらんかったわい」「……ワシも」「……とんでもない婿が来たもんじゃのう」「なんじゃ、お主、反対しとったくせに」「こんなん見せられたら、もう反対なんかできんて……」
大騒ぎから一転、笑い声に包まれるオーガの里。
長老だけが、腰の痛みに苦悶の表情だった。




