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「今度は何を作っとるんじゃ?」
「おお、長老か。……これは、臼だよ」
「うす……?石を削って作るんかいのう?」
「ああ。麦をうまく食うために、な」
「ワシはジャガイモが好きじゃたのう」
「美味かったろ?」
何気なく話しちゃあいるが、このジジイはこのオーガの里で俺以外の唯一の男。両手でも足りないほどの婆さんに囲まれたプレイボーイ。もとい、プレイジジイ。
「羨ましいじゃろ?」
「……は?」
「ふふん、そう顔に書いてあるわい。ワシみたいに女子を侍らせたい、とな」
「ばあちゃん達は別に侍ってないだろ」
「……。そうなんじゃ……。実は、ワシ、肩身が狭いんじゃ……。」
「ほう?」
「昨日もそうじゃった……。誰と一緒に寝るかで揉め、誰の隣の席でメシを食うかでも揉め……」
しおしおと萎んでいく長老。
「モテモテでいいじゃねえか」
「婿魔王殿はわかっとらん!しょせん……一人しか嫁のおらぬ身には到底わかるまいて」
「俺はラグナだけで十分さ。それに、この里にはラグナしかいないんだしな」
「ラライは?」
「おいジジイ。ラライさん——お義母さんをカウントすんな」
「ほっほ。
あれで器量のいい娘なんじゃ。ワシは、あの子にも幸せになってほしいと思っちょるだけよ」
「……そう言われると、否定する俺が悪者みてえじゃねえか」
「まあまあ、今はラグナとの新婚ライフを楽しむがええよ。……ラライのことは、そのうちそのうち」
「新婚っつってもな。……結婚式もまだだしよ」
「結婚式といえば……あのトカゲかの?
……定番料理じゃもんな」
「そうそう。どこにいるんだよ?そのトカゲ?」
「ワシの時はその辺におったんだけどものう……ワシが獲り過ぎたのかものう。……ほれ、嫁さん一人に最低一匹じゃから」
そう。オーガの里に伝わる結婚式の定番料理、トカゲの丸焼き。
これを用意しなければ嫁をもらうことはできない。
前世のウエディングケーキみてえなもんか。ただ、ケーキと違うのは自分で獲ってこなきゃ結婚できねえってことだ。
男が滅多に生まれないオーガだからこそ、より強い男を選ぶための知恵ってところか?
「まあ、探してはみるけどよ。……どんな奴なんだ?」
「うーん。色は赤とか緑とか様々じゃ。あと、口が大きくて歯がギザギザじゃ!
大体大きさは……一抱えくらいじゃったな。……とんでもなく獰猛でな……。オークが丸呑みにされとったのを見たこともあるわい」
「ふうん。そんなの、すぐ見つかりそうなもんだけどな……って、オークを食っちまうって一抱えじゃきかねえだろっ!」
「あれ?……どうじゃったかなー……。
若いときのワシ、大きかったからのう……」
「オークを丸呑みするようなやつを一抱えってか!?ジジイ、どんだけデカかったんだよ!?」
「そんなに言われるとワシも自信無くすのう……まあ、美味いことだけは確かじゃよ」
「そうかよ。……なら楽しみだな。
じゃあ石臼できたら探しに行ってみるよ」
「なるべくでかいのを頼むぞい」
「おう」
◇
トカゲ探しに出た俺は、久々の一人きりを……満喫できないでいた。
ついこの前まで18年間も一人で山籠りしていた。
山でも何不自由なく過ごしていた。それなのに、今では一人きり、ということ自体に物足りなさを感じる。
ラグナは「付いていく!」と荷物をまとめたところでお義母さんに止められた。
これで初めて俺も知ることになったのだが、どうもこのトカゲ狩りは一人で全部行わなければいけないらしい。探すのも仕留めるのも一人。そして一人で持ち帰る。そこまでやって、結婚を認められるらしい。
「そうか。……じゃあラグナは待っとけよ」
「は、……はい」
いつもは「うん!」とか「わかったー!」なんて返事するラグナなのに、この時は急にしおらしくなって、なんか調子狂うよな。
なんて思いながら鼻をかき、周りの気配を探しながら歩いているうちに、気づけば辺りは真っ暗だった。
今日はこの辺で休み、明るくなってから探すか。
夜の闇じゃ、特徴的な体の色も判別できねえしな。
俺は、適当な枝を集め火を起こす。
来る道中で狩った弁当がわりの肉を食うか。
コイツも惜しいとこいってると思うんだけどな。
赤いし、爬虫類っぽいし、歯はギザギザだし。
でもなあ。……小せえんだよな。
コイツだったら十匹くらいまとめて抱えられるだろう。
うん。コイツじゃない。
だからコイツは今夜の弁当だ。
「うおっ!?美味いなコイツ!」
味付けもしてねえのに香ばしい肉汁。ふわりと柔らか、それでなお歯応えまである肉。……唐揚げにしたら大行列の人気店になれそう。少なくとも、俺は並ぶね。
この時俺はまだ知らなかった。
骨だけになってしまったコイツこそが、ウエディングケーキがわりの丸焼きになるはずだったトカゲだってことを。
だってしょうがねえだろう?若い頃はデカかったと主張する長老の一抱えほどのデカさ、なんて聞いてたんだからよ。
あのジジイの足りねえ説明のおかげで、俺は、この後一ヶ月も彷徨い続けることになったんだ。




