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「よし。準備できた」
俺は、狩ってきたデカイノシシ三頭を解体し、精肉、燻製と干し肉に加工しまるまる一頭分をデカい袋に詰め、オーク達に届ける準備を済ませた。
この作業に丸1日もかかっちまった。
腹ペコオーク達……首を長ーくして待っているだろうな。
時刻は昼前。走れば昼飯には間に合わせられるだろうが、今回はこの大荷物を担がなきゃならねえ。ラグナも付いてくるって言うだろうし……荷物の上に座らせて、それごと担ぐか。
「モガトシー!」
おお、噂をすればラグナ。今日も元気に飛び跳ねるように駆けてくる。その度にババインバインと激しく揺れる胸をなるべく見ないように、平静を保つ。
「おお、ラグナ」
ピョンと飛んで俺の目の前に着地。バイン。
「もう行くの?」
「ああ、そのつもりだ」
「モガトシってさ、おっぱいばっかり見てるよね!……なんで?おっぱい好きなの?」
うーん。バレてた。
「あ、あれだ!……その、そんな揺れて、もげやしねえかと心配してただけだ!」
「そっかー!心配してくれてありがと!でも、もげないよ!あとね、お母さんが言ってたんだけど、おっぱいは赤ちゃんのご飯なんだって!知ってた?えへへー、アタシは知らなかった!男の人もみんな好きって言ってたけど、モガトシも飲みたい?」
……くぅっ、お義母さんめ!中途半端な教育をしやがって!
ここで飲みたい!なんて答えられるわけがない。
だが、おっぱいに興味のない男なんているだろうか?いや、いない!
……だけど。無理やり作った釈迦のような顔で俺がやっとのことで絞り出したのは「あ、……遠慮しとく」というなんの答えにもならない返事だった。我ながら人生最低点を更新だぜ。
「ふうん?気が変わったら教えてねっ!
……じゃあ、オークさん達にお肉届けに行こ!」
ラグナはくるっと回って走り出す。出発の準備をしに行ったんだろう。
なんだか、振り返った横顔が少しだけ、いつもより赤かったような気がした。
◇
やっぱり予想通り、付いてくるラグナを荷物の上にちょこんと座らせ、そのまま担いでオーク達の元へ向かう。
あんまり早く走ると荷物が大きく揺れてラグナが落ちるかも、と思ってたが、本人は大きく揺れるたびに「きゃ〜!」「落ちる〜!」と荷物の上で笑い転げている。
「楽しい〜!もっと速く〜!」
「落ちるなよ?」
「落ちないよ〜!舌は噛むけど!」
「じゃあ口閉じろって!本当にそのうち舌なくなるからな!?」
「うん!あははは!あてっ!ひた噛んだ〜!たのひい〜!」
「いわんこっちゃない!」
荷物の上で笑いながらバインバイン跳ねるラグナ……いや、今回のは本体の方だ。——を見上げて苦笑する。「またおっぱい見てるでしょー?」と言われるが、断固として違う。のはずだ。
……ラグナの舌が千切れる前にオーク村に着かなきゃ、な。
◇
「うええ、ベロから血が出てるよぅ……」
オークの村についた俺は、荷物を下ろし、バインと、いや、ぴょんと荷物から飛び降りたラグナの口の中を覗き込む。キバの後がくっきり残った舌からは血が滲んでいる。
「まだ舌が残っててよかったな。口の中の傷は治りが早いから我慢しとけ」
「食べ物が沁みるから嫌だよう」
涙目のラグナの頭をポンポンと叩き、
「食欲があるなら大丈夫だ」
「モガトシが意地悪だよぅ」
なんて会話をしていると、のそのそと建物の影から豚鼻を持つ影。——オーク達だ。
俺たちの姿を確認した一人の若いオークは、仲間を呼んだ。
「おおーい!肉だべ……あ、違ったべ。オーガ達だべー!」
「おお、肉……違うべ。オーガ達ほんとに戻ってきたべな」
「昨日ぶりだべ!待ちわびたべー!」
「おおー!元気な肉だべ、……っちが!」
口々にやかましいオーク達がゾロゾロと集まってくる。腹を空かせたゾンビ映画みたいな絵面だな……。
「オメ達!肉……お客人に失礼だべ!」
若オーク達の後ろからポカリとゲンコツを振るいながら一際大きいオーク長老の声。
長老まで肉の虜になっちまった。
思わず軽く吹き出してしまう。
……早く食わしてやりてえ。
「おう!今度はたくさん持ってきたからな!喧嘩するなよ?」
俺は、自分の身長ほどに膨らんだ袋を指差してオーク達に言うと、オーク達の目がギラリと光った。……ちょっと怖え。
「そ、それ……
まさか、全部肉だべか?」
「?おう。……そうだぞ?」
「アタシが座ってたから、きっと、ちょっとあったかいよ!」
余計なことを言うラグナだったが、そんなのオーク達はお構いなし。
「マジだべか……」「アレ、全部……肉?」「オラ、今日、死ぬべか……?」「死ぬやつに肉はもったいないべ」「取り分が増えるべ……」「お、おなごの尻の温もり付きの肉……」「へ、変態が一人いるべ……」「も、もう……食っていいべか……?」
「いやいや、待ってくれ!」
「ぶひぃいぃ!殺生だべ!」「そうだべ!オラ達も、もう……我慢の限界だべっ!」
「これは、お前達の作る野菜との交換をするために持ってきたんだ!」
「ううぅ……野菜なんて、好きなだけもって行けばいいべ……」
「おい!それはダメだ!」
「ぶひいぃ……オラ達の野菜じゃ足りないべか……?」
「そんなことはねえ。
お前達の野菜はどれもオーガの里じゃ食えないもんばかりだ」
「そ、それじゃ、なんでだべっ!?」
「自分達の作ったもんを安売りするんじゃねえよっ!」
「ぶ、ぶひいぃ!?」
「よお、キャベツにほうれん草。あっちにはネギ……あれはにんじん、か?
おおっ!なんてこった!ブロッコリーまであるじゃねえか!?
……どれもこれも俺が食いてえもんばかりだ」
「あ、あんなの、肉に比べれば……」
「ダメだ。
肉一切れに、野菜一つ。……交換だ!」
再び俺は、オーク達の畑をぐるりと見渡す。ついでに深呼吸。コイツらの汗の染み込んだ土の匂い。……ああ、好きだ。
「……あとよ、自分のしてきたことを卑下するんじゃねえ!」
「……お前らの畑は俺には宝の山に見えるんだぜ!」
「お、オラ達は、……これしかできねぇがら、してるだけだべ……」「そ、それなのにごの人は!」「おなごの尻の温もりが……」「変態は黙るべ!」ゴツっ!「ま、魔王様……だべ」「そうだべ……ま、魔王様……」「お、オラの……畑が……宝……?」
「ああ。……これに勝るものはそうそうねえぜ」
俺がそう言うのとオークの長老が号泣し出したのはほぼ同時だった。
「わ、我らオークは、……魔王様に、一生の忠誠を誓うべぇぇぇ〜!」
「……そんなのいいから、交換しようぜ」
オーク達はボロボロと涙をこぼしながら、大事そうに野菜を抱えて交換の列に並ぶ。
一人ずつ、一人ずつ。
コイツらの顔を見ながら肉を渡し、代わりに野菜を受け取る。
一人だけ、ラグナばっかり見てぶひひと笑う奴もいたのが気にはなったが……。まあ、いろんな奴がいていい。
俺は、一気にコイツらが大好きになっちまった。
そんな様子を見てか、俺の後ろのラグナが、なんだか誇らしげに鼻をふっふーんと鳴らした。
……なんか、照れくせえな。




