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「干し肉だけじゃなく、小屋まで直してもらって悪いべ」
「いや、これ壊したのは俺だし……」
「そういや、そうだったべ」
ブヒブヒと鼻を鳴らして笑うオーク達に囲まれながら小屋の穴を塞いだ俺は、長老オークから麦を受け取って、来たとき同様にラグナを背負い、オーガの里に向かうことにした。鉄は逃げねえんだし、また来ればいいだけ。干し肉、干し肉と言いながらよだれを啜るオーク達に腹一杯食わせてやる方が先だろ。揺れる俺の背中ではラグナが上機嫌ではしゃいでる。
「速いぞ〜モガトシ〜いけいけ〜モガトシ〜♪」
「なんだその歌?」
「ん?モガトシの歌!今考えたの!」
「そっか……。舌噛むぞ?」
「もう何回も噛んでるよー、いたっ!……今も!」
「あっはっは!そのうち舌が無くなっちまうぞ!」
「それはヤダ!
……オークって、いい人ばっかりだったね!」
「ちょっと食い意地が張ってるけどな!いい奴らだったな!」
「ね!畑で色々作ってたね!」
「ああ!干し肉と交換してもらおう!」
「うん!いろんなの食べたい!」
「だな!尾根が見えた!跳ぶぞ!」
「やったー!モガトシ〜ジャンプ!」
山の尾根を蹴り上げ空へと飛び出す俺と背負われたラグナ。山の斜面に生える木々より高く、雲に突っ込んでびしょびしょになるが、ラグナは上機嫌のまんま。
「涼しい〜!」
「口閉じろよ!ほんとに舌なくなるぞ!」
「お風呂入りたい〜!」
「帰ったら入るか!」
「やった〜!モガトシとお風呂!」
「いやいや、一緒じゃねえから!」
「え〜、この前は一緒に入ったじゃん!」
「それはお前が勝手に、ぐわっ!」
俺の反論と地面への着地が同時にやってきて、盛大に舌を噛む俺。舌がなくなるかと思った。
「どしたのモガトシ?」
「ひた噛んだ」
「あははは!アタシと一緒だー!」
◇
「なんじゃと!」
珍しく大声を出すのはオーガの里長老。
オーガの里にラグナと帰った俺は、まずは今回の報告を長老にしたんだが、オークと出会った、と言っただけで目をひん剥いて怒り出した。
「いや、だからよ、……オークに」
「あんの草食いブタどもがなんじゃって!?」
「おいおい、草食いブタって、そんな言い方はねえだろう?」
「あいつら、草ばっかり食っとるもんだからワシらが肉を分けてやろうとしたら、「そんなもん臭くて食えんべ」ってその辺に放りよったんじゃぞ!」
「そうじゃそうじゃ!」「ひと噛みもせんで捨てよった!」「その上、草を食えと渡してきよった!」「ワシらを馬鹿にしとる!」
一気に火がつくジジババ達。
せっかく作ってやった一人一人のケツに合わせた椅子にも座らず、作ってやったテーブルを叩く。
「座れ!そして叩くな!……壊れても直してやんねえぞ?」
「……婿殿のいじわる」
「……」
「そうじゃ、婿殿はいじわるじゃ」「そうじゃそうじゃ」
「服も織れんくせにのう」「そうじゃそうじゃ」
「じゃけども……」
「どうせ、壊れたら直してくれるんじゃろ?」
「もー、いい!絶対直さんし、新しくも作らん!」
「それは困るのう」「いけずじゃ」「そこをなんとかならんかのう」「悪いのは長老だけなんじゃ」「そうじゃ、ワシらは悪くないのじゃ」「そうじゃそうじゃ」
「えー?でも、ジジババ達、みんなで騒いでたよね?」
「……」
「……ちょっとはオーク達の言い分も聞いてやったらどうだ?」
「でも、あいつらはワシらに「草食え」って言ったんじゃぞい?」
「……どんな草だったんだ?」
「……なんか、枯れたよう黄色いつぶつぶがいっぱいついたひょろながい草とか、まんまるに葉っぱがぎゅっと丸まった草とかじゃった」
「……麦に、……キャベツとかかな?どっちもちゃんとした食いもんだ。
それにあいつら、干し肉食って喜んでたぞ?」
俺は、オークの長老が干し肉を「噛むほど味が出るべ」って喜んだ話や、その後の若オーク達が「オラにも!」って揉めてた話をジジババ達に聞かせる。
「……え?」「ほ、本当に食うたんか?」「肉を……?」
口々に疑問を口にするジジババ達に俺は続ける。
「俺は、干し肉と、あいつらの作った野菜を交換しに行こうと思う。……今度はジジババ達もあいつらの作った野菜を食ってみろよ。きっと、美味いと思うぞ?」
ジジババ達は少しだけ考えるが、「まあ、婿殿の言うことじゃ。やるだけやってみよう」「結局ワシらも肉が取れんで豆ばっかり食ってたからのう」「苦くなきゃいいんじゃが」なんて言い出し、干し肉と野菜の交換に少しだけ前向きになり、その様子を見ていたラグナはふひひと笑い出した。
「突然笑い出してどうしたんだよ?」
「だってさ、これでお肉も野菜も食べられるようになるんだよね?……なんだか嬉しくなっちゃった」
これには長老も目を細める。
「ラグナには苦労をさせておったからのう。……今度はワシらが折れる番なのかものう」
「そんな大袈裟なことじゃねえだろ?」
「ほ?」
「美味いもんを食う。……ただそれだけだぜ」
「ぶっひゃっ、ひゃ!そりゃあそうじゃ!
うまければ食う!不味けりゃ吐けば良い!」
「いや、吐くなよ……」
「ぶっひゃっひゃ、ひゃ!」
長老は顔中の皺をくしゃくしゃにして腹を抱えて笑った。
「……それに、じゃ。
里の肉はそもそも婿殿が獲ってきたものじゃ。オーク達にやるでも、自分で食うでも、好きにするとええ」
「わかった。
……ちゃんとジジババ達の分も今から獲ってくるからな」
俺はそれだけ言うと立ち上がり、集会場を後にする。
「ほっほ。
婿殿に任せれば安心じゃわい。
……って、今から獲ってくるって言ったかの?」
「まさか、明日とかじゃろ。長老の聞き間違いじゃよ」
「婿殿はついさっき遠出から戻ったばかりじゃ。流石に今日はくたびれたろうて」
そんなに簡単に獲物が獲れるわけないと笑うジジババ達。
まさか、その小一時間後にはデカいイノシシを三頭担いで戻ってきたモガトシを見て、ジジババ達が揃って腰を抜かすことになるとは、——この時は誰も思っていなかった。




