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数日が経った。
ラグナが言った、お試し滞在の3日なんてあっという間に過ぎ去ったが、俺はまだオーガ達の里にいる。
それというのも、ジジババ達のわがままだ。
外用のくつろぐための椅子と思って石で椅子を作ってやったが、集会場の中でも使いたいと言いだし、運ぼうとしだしたので、しょうがなく一人一人の尻のくぼみに合わせた木の椅子を作った。
すると、次はテーブルが欲しいと言う。
これも作った。
風呂に入ってみたいと言う。
くり抜いた岩で風呂を作った。
水を汲むために井戸も作った。
その合間に俺は俺自身の家を作り、山の棲家から荷物を何往復もかけて運び、タネを探し、田を耕して植え、なんだかんだ忙しくしている間にあっという間に時間が経ってしまったのだ。
「モガトシー!ごはーん!」
集会場から飛び出てくるラグナ。
ラライが出歩けるようになったことで、今では全員揃って集会場で飯を食うようになった。
「おう。今行く」
「……あのタケノコってやつ、すっごい苦いよ?」
「アク抜きしなきゃダメって言ったろ?」
「あー……」
「まあいいさ、次ちゃんと覚えれば。
それは今食わないで水に漬けとけ」
「うん!」
それにしても、自分で飯作らないってのはなんだかむず痒いな。すげえ楽だし、いいことなんだけど、な。
集会場で飯を食う。相変わらずのグリーンピースメインの飯だが、数日前に比べたら食材の種類は激増した。……といっても、山菜や木の実など、拾い集めたものばかり。農作物が育つようになればもっと彩りが増えるだろう。
「俺、飯食ったらちょっと出てくるよ」
「うん!……どこ行くの?」
「あっちの山の方」
俺は霞がかる遠くの山を指差す。
「へえ?何しに?」
「長老がよ、あの辺で鉄が取れたことがあるって言ってたからよ。……ちょっと見てくる」
「……鍋が?山に生えてんの?」
「いや、鍋は生えてない。……鉄の元になる石があるかもしれないってことだ」
「ふうん」
「……生えてたら便利だけどな」
「じゃあ、支度してくるねー!」
タッと家に向かって走るラグナ。
俺一人で行くつもりだったのに、どうやらついてくるつもりらしい。
……おぶってくか。ラグナの足じゃ時間かかっちまうからな。
「モガトシー!準備できたよー!」
「おお、早えな」
「干し肉持ってきただけだから……って、なんで服脱いだの?」
「ん?……ああ、オババが作ってくれた服、破っちまったら悪いから脱いだ」
オーガの里の蚕から生まれた肌触りのいい絹の服。
なんとパンツまで絹。……いや、パンツは履いたままだぞ?
腰蓑と絹パンツのみになった俺は「おぶされ」とラグナに指で指示する。
「……で、でも、えっと……」
珍しく赤面するラグナ。「どうした?」すかさず聞く俺。
「早く乗れよ」
「あ、う……うん」
いつもと違ってなんだか大人しいラグナ。
……正直言ってすげえ違和感がある。
のそのそ、恐る恐る、という感じで俺の背に乗るのにも時間をかける。
「お、重くない、かな?」
「そんなこと気にしてたのか?……大丈夫だ」
身長が200センチを超えるようなオーガがなに気にしてるんだ?ラグナは俺よりは小さいし、重さなんて大したことはない、が。
背負ってみて一番気になったのは、背中に伝わるラグナの柔らかい腹の感触だ。
俺の背中とラグナの腹が素肌同士触れ合った瞬間、「やっぱり置いていこうかな」という考えが浮かんだほど異次元の感触にのけ反りそうになる身体を必死に抑え込んで、俺は、目的地の山だけを睨みつける。
「よ、……よし。行くぞ。しっかり掴まれよ」
「……うん」
俺は駆け出した。
ラグナが落ちないように気を払いながら徐々にスピードを上げていく。
「うわぁー!すごい!モガトシ速い!」
全開の半分ほどの力に到達した時、背中のラグナが騒ぎ出す。……やっといつもの調子に戻ったかな。
「あんまり喋ると舌噛むぞ!」
「あははは!もう何回も噛んでるよ!」
「じゃあ喋るのやめろ!」
「だってぇー!……イタッ!楽しいんだもん!」
「舌が千切れてもしらねぇぞ!?」
「……それはヤダなぁ。……でも楽しい!」
異変が起きたのは、俺とラグナがこんな調子でキャッキャウフフしながら目的地までの行程を4分の3ほど消化した時だった。
突然に森が切れ、目の前が開け、木造建築を見つけた俺は両足を踏ん張り急ブレーキ。足裏は地面を削りながら土煙を立てる。
あ、これ、止まれねえやつだ。
一瞬で思考が巡る。
俺はぶつかっても無傷だとして、ラグナはどうなるかわからん。壁への激突より、落とした方がマシか。
そう判断した俺は、背負ったラグナをなるべく後ろの方に放る。少しは相対速度が落ちるだろ。
——勢い余った俺は、土煙を上げながら木の壁に激突した。




