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朝日のアキナ ー 救済の勇者 ー  作者: 丸いタマゴ
天の十二支争奪戦編
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桜の理想、銃声の現実②

 アキナ ― 森吉山・川沿いの桜並木 ―


 桜並木の風がひゅうっと吹き抜けて、川沿いの空気が一瞬だけ冷たくなった。

 でも、その冷たさとは裏腹に――

 男たちの声は、胸の奥をざらざらと削るように響いた。


 ごろつきA「いいっすね~!破壊神アキナを抱けるなんて最高じゃないっすか!!」


 ごろつきB「滾ってきたぁああああ!!」


 男たちの下卑た声が、桜の影を汚すように響いた。


 トウカちゃんが怒りで震えた声を上げる。


 トウカ「貴様……!!」


 私は胸の奥がぎゅっと痛くなった。

 怖い。でも――桜を泣かせたくない。


 だから、私は言った。


 アキナ「分かりました。抱くだけなら..……いいですよ」


 トウカちゃんが叫ぶ。


 トウカ「ですがアキナさま!!」


 アキナ「大丈夫だよトウカちゃん。私が我慢すれば、もうこの人たちは来ないから」


 私は手を広げた。桜の花びらがひらりと落ちて、掌に触れる。


 アキナ「さぁ、私を抱いて」


 男たちが歓声を上げる。


 ごろつきF「それじゃあ、お言葉に甘えて..……」


 リーダー格の男が近づいてきた。その顔は、獣のような欲望で歪んでいた。

 そして――

 彼はポケットからナイフを取り出した。銀色の刃が、朝の光を反射してきらりと光る。


 ごろつきF「まずは丸裸になって貰おうかな!?」


 ナイフが振り上げられた瞬間――


 私は息を呑んだ。

 そのまま抱かれるかと思ったら、裸にされるとは予想外だった。

 トウカちゃんが叫ぼうとした。

 桜の影が揺れた。


 そして。


 パァンッ


 乾いた銃声が、桜並木に響いた。


 次の瞬間――

 リーダー格の男の頭が、撃ち抜かれた。


 男の身体が、糸が切れたように崩れ落ちる。桜の花びらがひらりと舞い、その上に、ゆっくりと倒れた男の影が重なった。


 世界が一瞬、止まった。


 風の音も、川の流れも、

 男たちの叫びも、

 全部が遠くなった。


 胸の奥がぎゅっと締め付けられて、息ができなくなる。


 アキナ(まさか..…!)


 トウカちゃんが私を抱き寄せる。その腕は震えていた。


 アサヒ ― 森吉山・深部 ―


 森吉山の湿った土の匂いと、針葉樹の影が濃く沈む。その中で、俺はギンジロウから借りた双眼鏡を覗いていた。

 ごろつきどもの声は風に乗ってかすかに届く。アキナとトウカから別れた場所から、かなり距離を取った。あの子が俺たちの“ごろつきの始末”を止めに来ないように。


 ギンジロウは猟銃を構えたまま、微動だにしない。山の男は、こういう時に本当に静かだ。呼吸の音すら、森に溶けていく。


 狙撃手はスコープの中の世界しか見えなくなる。だから周囲の状況を読むのは観測手の役割だ。


 敵の動き。

 風向きと風速。

 地形の癖。

 標的の心理。


 周囲の敵の動き、風向きや風速、地形の癖、標的の心理。

 これらを一瞬で読み取り、狙撃手に必要な情報だけを渡す。また、狙撃は長時間続けると集中力が削られる。だから観測手と狙撃手は、状況によって役割を交代する。

 二人で負担を分散し、二人で生き残る。それが狙撃班の基本構造だ。


 アキナが囲まれている。

 ごろつきのリーダーがナイフを抜いた。

 刃が光った瞬間、俺は判断した。

 俺は状況を読み、ギンジロウに伝える。


 アサヒ「距離四二〇。風左から三。

 ……〇・二ミル上げて、撃て」


 ギンジロウは短く息を吐き、引き金を絞った。


 パァンッ


 乾いた音が森に吸い込まれる。リーダー格の男が、糸が切れたように倒れた。


 ごろつきどもは、スマホを構えていた。その映像を歪めてSNSに流されたら、日本はどうなるか分からない。

 破壊神アキナに何かあれば、国は揺らぐ。邪神王がその隙を突けば、日本は崩壊する。

 日本には旭軍の秘密基地が多くある。これらが東南アジアとオセアニアに移転するまでは、アキナに何かあってはいけない。

 勿論、創造神であるトモエも同じだ。


 だから――


 ごろつきどもは、生かして帰す理由がない。

 皆殺しにする。


 ギンジロウが静かに言った。


 ギンジロウ「……次、どれからいく?」


 俺は双眼鏡を覗いたまま、淡々と答えた。


 アサヒ「動きの速い順からだ。逃げ足の速い奴を先に落とす」


 森吉山の風が、俺たちの判断を肯定するように吹いた。


 アキナ ― 森吉山・川沿いの桜並木 ―


 ごろつきA「…え?先輩?」


 男たちの動きが止まった。空気が、桜の影ごと固まったみたいだった。

 私は、遠くの草むら――

 アサコさんとギンジロウさんがいる方角を見た。


 胸の奥が、ぎゅっと痛くなる。


 アキナ(ギンジロウさんは……ここにいる男の人たちを、全部殺すつもりだ。止めないと……!)


 私はトウカちゃんの腕からそっと離れ、鬼神の力を呼び起こした。身体の奥が熱くなって、視界が少しだけ赤く染まる。


 アキナ「皆さん!すぐに伏せて下さい!!」


 声は震えていた。でも、届いてほしかった。

 だけど――

 届かなかった。


 ごろつきB「うっ…うわぁああああ!!」


 ごろつきC「にっ、逃げろぉおおおお!!」


 男たちは、蜘蛛の子を散らすみたいにバラバラに逃げ始めた。桜の花びらが舞う中で、その逃げ方はあまりにも無秩序で、あまりにも弱くて、あまりにも怖かった。

 私は苦渋を飲むように、トウカちゃんへ駆け寄った。


 アキナ「トウカちゃん!この人たちを守って!!その間に私はギンジロウを止める!!」


 トウカちゃんは、逃げていく男たちを見つめていた。その瞳は、怒りでも憎しみでもなく――

 ただ、冷たかった。


 トウカ「アキナさま。申し訳ありません。私は…そのご命令には従えません」


 その言葉が胸に刺さった瞬間――


 パァンッ


 銃声が、桜並木を裂いた。

 私は反射的に振り向いた。草むらへ逃げ込もうとした男が、後頭部を撃ち抜かれて倒れていた。


 アキナ(また死んだ!!)


 胸の奥がぎゅっと縮んだ。息が詰まって、世界が一瞬だけ白くなる。

 トウカちゃんを見る。彼女は逃げ惑う男たちを、冷たい瞳で見つめていた。


 その瞳は――

 怒りでも憎しみでもなくて。ただ、静かで、冷たくて。まるで「見殺しにする」と決めているみたいだった。

 桜の影が揺れる。その揺れが、私の心をさらに締め付けた。


 パァンッ


 銃声が、川沿いの空気を裂いた。


 川の中へ逃げようとした男が、頭を撃ち抜かれて倒れた。


 アキナ(トウカちゃんを説得していたらみんな死んじゃう!!速く助けないと!!)


 私は駆け出そうとした――その瞬間。


 ガシッ


 足に違和感。下を見ると、男が必死に私の足にしがみついていた。


 ごろつきC「何やってんだよ!!お前、破壊神で神祓特務隊なんだから俺を守れよ!!!」


 怒鳴り声が、胸の奥に突き刺さる。

 怖い。

 でも、助けたい。

 でも、どうすればいいのか分からない。


 私は必死に声をかけた。


 アキナ「分かっています!そのまま伏せて下さい!!」


 男は伏せた。


 パァンッ


 伏せていた男の頭が撃たれた。


 アキナ(伏せていても、当てられるの!?)


 世界が、私の理想を嘲笑うみたいだった。

 私は周りを見渡した。アサコさんとギンジロウさんと別れた場所からは、伏せている人は見えない。

 つまり――


 アキナ(移動してる……撃ちやすい場所に、移動してる……)


 桜の花びらが舞う。その一枚一枚が、「もう守れないよ」と囁いているみたいだった。


 胸が痛い。

 苦しい。

 怖い。

 でも――止めたい。


 私は震える手で、次の一歩を踏み出そうとした。


 アキナ「どこにいるの!?」


 声が震えていた。桜の影が揺れて、世界がぼやけて見える。

 私は必死に目を凝らした。アサコさんとギンジロウさんを探す。でも――鬼は目がいい妖怪じゃない。だから、見つかるはずがない。


 アキナ(どこ……どこにいるの……?お願い、もう撃たないで……)


 私は駆け出した。逃げようとする男の身体を抱きしめるように覆いかぶさる。その勢いで地面に倒れ込んだ。


 パァンッ


 乾いた銃声が、桜並木を裂いた。弾丸は私のすぐ横を通り抜けて、地面に深い傷を刻んだ。

 間一髪だった。

 男の身体が震えている。

 私の腕も震えている。


 アキナ(これなら、撃たれない…!私が覆っていれば……!)


 私は男に笑顔を向けた。私は男に笑顔を向けた。怖いのに、必死に笑った。


 アキナ「安心して下さい!私が、何があっても守りますから!!」


 男は震える声で、困惑しながら言った。


 ごろつきD「どうして、俺を守るんだよ……?俺は、あんたを..……」


 私は優しく微笑んだ。胸の奥が痛いのに、微笑んだ。


 アキナ「もう..…誰かが悲しむ顔は見たくないから。だから..……」


 男は泣きながら、私にしがみついた。


 ごろつきD「うぅ..……ありがとう..……!さっきはごめん..……!!」


 しばらくしても、銃声は聞こえなかった。


 アキナ(もう一人の男の人は、ちゃんと逃げ切れたみたい。それなら……この人だけなら……守れる)


 胸の奥が少しだけ軽くなった。そう思った矢先――

 胸の奥が、ひゅっと冷たくなった。


 魔物の気配。


 トウカちゃんが叫ぶ。


 トウカ「アキナさま!!前に魔物がいます!!」


 私は男を抱きしめたまま、前を見た。


 そこにいたのは――


 身体は大きな猿。

 顔は黒く、長い髪の女。

 目が、たくさん。

 その全部が、鋭く笑っている。


 熊よりも大きい。

 影が、桜の並木を飲み込むみたいに揺れた。


 そして――

 その手には、逃げ切ったと思っていた男の“下半身”がぶら下がっていた。


 血が、ぽたぽたと地面に落ちる。魔物の口元には、真っ赤な血が垂れていた。


 アキナ(食べた……あの人……食べられたんだ……)


 胸がぎゅっと痛くなる。

 息が詰まる。

 世界が、少しだけ白くなる。


 魔物は、ゆっくりと笑った。


 その笑みは、

 私の優しさを嘲るみたいで。

 私の心を壊そうとするみたいだった。


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