桜の理想、銃声の現実①
アサヒ ― 森吉山・川沿いの桜並木 ―
ギンジロウが胡坐をかいたまま、俺を凝視する。
ギンジロウ「ほう、それでどうして女装なんかしてアサコと名乗っているんだ?趣味ではないだろ?」
その言い方は軽いが、探りの鋭さは本物だ。俺は肩をすくめ、木にもたれた。
アサヒ「当たり前だ。俺はただトモエとアキナの行動を監視していただけだ。そしてギンジロウ。お前とコンタクトを取るためでもある」
ギンジロウの口角が上がる。
ギンジロウ「ほう..…俺に何か頼み事かな?」
アサヒ「そうだ。ギンジロウ。お前には旭軍に入り、狙撃兵の育成に協力して欲しい」
ギンジロウは鼻で笑い、桜の枝を見上げた。
ギンジロウ「旭軍、確かお前さんが旧日本兵を集めて結成し、世界に喧嘩を売った軍隊だったな?俺は猟師だそ?元とはいけ、兵隊さんが猟師に教えてもらうなんて、兵士としてのプライドが傷付くんじゃないか?」
俺は首を横に振る。
アサヒ「問題ない。旭軍には魔族に勝てるならどのような屈辱も耐える兵しかいないからな。それにプライドに拘っていたら戦には勝てない。戦とは、それを耐えたものが勝利することができる。狩りと同じだと思わないか?ギンジロウ」
ギンジロウの目が細くなる。その表情は獣が“同類”を見つけた時の顔だ。
ギンジロウ「戦の哲学は獣の理と同じということか、気に入ったぞ。アサヒ」
ギンジロウはふっと笑った。それは、俺を“仲間”として認める笑みだった。
そして俺は――
その笑みに、静かに笑い返した。
アキナ ― 森吉山・川沿いの桜並木 ―
桜並木の影が揺れて、川沿いの光がきらきらと反射していた。その中を、私はトウカちゃんと並んで進んだ。河原の石が足元でジャリジャリと音を立てる。六人の男たちがこちらを振り向き、動きを止めた。
ごろつきA「おっ!?超カワイイ子接近中!!」
ごろつきB「神祓特務隊じゃん!ヤバッ!!生初めて見た」
ごろつきC「破壊神のアキナじゃね!?生で見るの初めて見たわ〜」
軽い声。
軽い笑い。
軽い視線。
その全部が、私の肌をざわっと撫でるようで気持ち悪かった。男たちは私とトウカちゃんを囲むように集まり、上から舐めるような視線を向けてくる。
怖い。
でも――言わなきゃ。
私は勇気を振り絞って声を張った。
アキナ「山でのBBQとポイ捨て、騒音は法律で禁止されています!綺麗にして下山して下さい!!私も、掃除をお手伝いしますので!!」
男たちは面倒くさそうに笑った。
ごろつきD「は~?掃除とか面倒くさいわ~」
ごろつきE「別にいいじゃん。人に迷惑かけてるわけでもないし」
私は首を振った。
アキナ「ですが、ここに咲いている桜は、少女たちのお墓でもあるんです!今まで、この土地を守ってきた少女たちが安らかに眠れるようにって、たくさんの人が祈って作った場所なんです!!」
その瞬間、リーダー格の男が呆れたように肩を組んできた。
ごろつきF「いやいや、昔のことなんか関係ないから。大事なのは今でしょ?過去のことばかり考えていたら、人生楽しくならないよ?」
そして耳元で囁く。
ごろつきF「今が楽しければいい。それでいいじゃん。俺が気持ち良くさせてやるからさ。みんなで楽しもうよ?」
その声が、桜の影を汚すように感じた。
トウカちゃんの叫びが、空気を裂くように響いた。
トウカ「アキナさまから離れろ!!このクソオスがぁああ!!」
次の瞬間、彼女はリーダー格の男を突き飛ばした。
ドカッ!
男が地面に倒れ、私はよろけた。けれど、トウカちゃんが抱きとめてくれた。その腕は細いのに、驚くほど強かった。
トウカちゃんはモンハナシャコを召喚し、拳銃を形成する。銃口が男たちに向けられた瞬間、ごろつきたちは一斉に後退りした。
ごろつきC「ひっ……!」
ごろつきD「やべぇ……!」
ごろつきE「本物だ……!」
トウカちゃんは私を庇うように立ち、鋭い目で男たちを睨みつけた。
トウカ「やはり言葉では話は通じません!!こいつらはクズ!!力で分からせるしかないんです!!」
その声は震えていなくて、怒りだけでできていた。
私は思わず叫んだ。
アキナ「だけど……!」
でも、その声は男たちの嘲笑にかき消された。
ごろつきC「あー!いいのかなぁ!?神祓特務隊が善良な市民を突き倒して拳銃で脅してぇ~!!」
スマホを構えた男が、ゲラゲラ笑いながら撮影していた。そのレンズが、私とトウカちゃんを冷たく切り取る。
ごろつきA「この動画がネットでばら撒かれたら、世間の印象は最悪になっちゃうね~!」
トウカちゃんが怒りで震えた声を上げる。
トウカ「ふっ、ふざけるな!誰がお前らの言葉なんか信じるか!!」
男たちはさらに嘲笑を重ねた。
ごろつきB「それはどうかな?ただでさえ魔族を殺しまくっているのに、民間人に暴力とかしたら、逮捕されるね~!人生終了じゃん!!」
ごろつきD「それにお前が突き落とした男は、アカデミー賞で多くの賞を取った俳優だぜ?それにたくさんの女性ファンがいる!言わば全ての女を敵に回すことに等しいんだよ!!」
トウカちゃんの目が怒りで揺れる。
トウカ「アキナさまは破壊神なのよ!?彼女の方が凄く、物凄く価値がある!!」
リーダー格の男は鼻で笑った。
ごろつきE「破壊神であっても俺にとっては普通の女の子なの。それに、神祓特務隊の仕事は市民を守ることだろ?それなのに市民を傷付けるなんて、駄目だよな?」
トウカ「さっきから不敬だよお前ら!!アキナさまは破壊神でありこの世界を救った英雄なのよ!!なのに..……!!」
その叫びは、怒りと悲しみが混ざって震えていた。そしてリーダー格の男が、一番冷たい声で笑った。
ごろつきF「は?誰もお前らのことなんか敬ってねぇよ。寧ろ、ただのクソガキだとみんな思ってるわ」
その言葉が、トウカちゃんの胸を刺した。
トウカ「え?」
ごろつきF「知ってるか?みんな、ただ声に出さないだけで、神祓特務隊が魔族に降伏すればいいのにって思ってるぜ。お前ら神祓特務隊は無駄にプライドが高いから、無駄に犠牲者が増えるってな」
トウカ「そっ、そんなこと………」
トウカちゃんの声が震えた。怒りじゃない。傷ついた声だった。男はさらに追い打ちをかける。
ごろつきF「世間が全てだからな?動画が拡散されれば、政府がまた神祓特務隊の解体に動くんじゃない?そうなればお前らも終わりだね~。神使を没収されればただのクソガキになるもんな!?」
トウカ「くっ..……!」
トウカちゃんの拳が震えた。銃口も揺れていた。男はその震えを楽しむように笑った。
ごろつきF「だけど俺たちは善良な市民だからな。あることをさせてくれれば、動画も消して大人しく帰ってやるよ。それに、もう二度とここに来ないって約束してやる」
私は息を呑んだ。
アキナ「あることって?」
男はニヤリと笑い、最悪の言葉を吐いた。
ごろつきF「決まってるじゃん!抱かせろよ!!」




