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朝日のアキナ ー 救済の勇者 ー  作者: 丸いタマゴ
天の十二支争奪戦編
56/77

温泉脱出作戦①

 アサヒ ― 神祓高等学校・寮 99号室 ―


 女風呂という最大の死地に向かう準備をしながら、俺は震える心臓を必死に押さえ込んでいた。


 アサコ(アサヒ)(落ち着け……大丈夫だ……大丈夫じゃないけど大丈夫だ……)


 策はある。

 けれど成功率は、宝くじの当選確率より低い気がする。

 そんな俺の背中に、気まずそうな声が落ちてきた。


 アキナ「アサコさん……?」


 振り返るとアキナが指先をもじもじさせて立っていた。


 アサコ(アサヒ)「何かしら?」


 アキナ「パンツ……貸して?」


 パンツゥウウウウウウウウッ!?


 脳が一瞬でフリーズした。


 アサコ(アサヒ)(待て待て待て!!パンツ貸すって……つまり俺が履いたパンツを履くの!?

 いやいやいやいや!!無理だろ!!いやでもアキナをノーパンで歩かせるわけにもいかない!!

 でも俺のパンツを履かせるのも嫌だ!!でも洗濯したし……いやそういう問題じゃない!!

 考えるな!考えたら死ぬ!!)


 思考が爆発しそうになった結果――


 俺は棚から、“個人的に一番可愛いパンツ”を差し出していた。


 アキナの顔がぱぁっと明るくなる。


 アキナ「わぁあ!赤いリボンが可愛いね!!

 アサコさんってカッコイイ女性だから、大人っぽいの履いてるのかと思ったよ!!」


 嬉しそうに抱きしめるな!!

 それ俺のパンツだぞ!!

 精神が削れる音が聞こえる!!


 アサコ(アサヒ)(女風呂に入る前にこんなに疲れるとは……先が思いやられる……)


 でも――


 アキナは俺のパンツを見ても嫌がらない。むしろ喜んでいる。


 普通、男が履いたパンツなんて女性にとっては災厄だ。それを笑顔で受け取るということは……


 アサコ(アサヒ)(アキナはまだ俺を“アサコ”だと思ってる……!

 つまり、バレてない!!)


 胸の奥でかすかな希望が灯る。


 アサコ(アサヒ)(このまま……乗り越えてやるぜ!!)


 女風呂という地獄の門が開く音が、聞こえた気がした。


 アサヒ ― 寮の温泉・脱衣所 ―


 ムワッ――


 脱衣所に足を踏み入れた瞬間、熱気が顔にぶつかってきた。


 アサコ(アサヒ)(うわ……本当に混んでる……!なんで今日に限って満員なんだよ……!)


 周囲からは運動部らしい元気な声が飛び交っていた。


 女子A「今日の筋トレ、マジでキツかった~!」


 女子B「ねぇ見て、肩まわりちょっと締まってきてない?」


 女子C「ほんとだ!でも明日絶対筋肉痛だよ~」


 女子D「アイス食べたい……風呂上がりのアイス……」


 健康的で明るい声。

 普通の男なら天国だろうが、俺にとっては地獄の鐘の音にしか聞こえない。


 なぜなら――

 この敵地のど真ん中で俺も“裸になる”必要があるからだ。


 アサコ(アサヒ)(ここで全員を欺けなければ……終わる。終わるどころか人生が詰む……!)


 そんな俺の腕をアキナが容赦なく引っ張る。


 アキナ「凄い混んでるね。さすが大人気の温泉!さぁ!早く入ろう!アサコさん!!」


 笑顔がまぶしい。

 天使のような笑顔……のはずなのに、今の俺には“地獄へ誘う悪魔”にしか見えない。


 アサコ(アサヒ)(やめろアキナ……!その純粋な笑顔で俺を女風呂に連行するな……!俺は今、人生最大の危機なんだ……!)


 さらに、近くの運動部らしき女子たちがこちらを見てひそひそ話す。


 女子D「ねぇ、あの人、アサコじゃない?噂の王子さま。スタイル良くない?」


 女子E「わかる。きれい……」


 女子F「てか肩幅しっかりしてるのに細いってどういうこと……?」


 アサコ(アサヒ)(やめろおおおおおお!!核心に迫るな!!肩幅はどうしようもないんだよ!!)


 アキナはそんな俺の心の叫びなど知らず、楽しそうにタオルを抱えている。


 アキナ「アサコさん、早くしないと洗い場空かなくなっちゃうよ!」


 アサコ(アサヒ)(……覚悟を決めるしかない。ここを乗り越えなきゃ、俺の平穏は戻らない……!)


 俺は震える手でタオルを握りしめた。


 収納棚に辿り着いた瞬間、アキナがぱっと振り向いた。


 アキナ「それじゃあ、着替えよっか!!」


 アサコ(アサヒ)「そうね……」


 声だけは落ち着いて返す。

 心の中では、もう戦場に向かう兵士のように鼓動が鳴り響いていた。


 アサコ(アサヒ)(やるぞぉおおお!!やってやるぞぉおおおお!!ここでビビったら終わりだ……!)


 アキナが服を脱ぎ始める。俺は視線を逸らしつつ、平常心を装いながら――


 服を、全部脱いだ。


 そして、準備していた“切り札”を発動する。


 ぎゅっ、と。


 アキナ「それじゃあ、行こ……」


 アキナが固まった。


 完全に固まった。


 目がまん丸になって、俺を見つめている。


 アキナ「アサコさん……どうしてバスタオルを……?」


 そう……既に俺はバスタオルを身体に巻いていたのだ。

 周囲では運動部の子たちがわいわい話している。


 女子G「ねぇ、あの人タオル巻いてるよ」


 女子H「珍しいね、ここタオル巻き禁止じゃないけど……」


 女子I「でもあれ、逆に目立つよね」


 女子J「確かに……」


 アサコ(アサヒ)(やめろぉおおお!!目立つとか言うな!!俺だって分かってるんだよ!!)


 俺は恥じらいを隠しつつ、気不味そうにアキナに答える。


 アサコ(アサヒ)「ほら……私、太ったって言ったでしょ?それに胸も無いし、スタイルもどちらかといえば男よりでしょ?だから、あまり肌は見せたくないの」


 自分で言ってて胸が痛いが、これしか言い訳が思いつかなかった。


 アキナは、ぱっと目を丸くして、すぐに首を横に振った。


 アキナ「そんなことないよ!!アサコさんは可愛いよ!!ほら、腕細いし、肌も綺麗だし……全然気にすることないよ!だけど、無理に見せなくていいよ?」


 アサコ(アサヒ)「ありがとう、アキナ」


 微笑んで返す。

 だが内心は――


 アサコ(アサヒ)(やったぁああああああああ!!何とか誤魔化せたぁあああああああああ!!!)


 心の中でガッツポーズ。

 勝利のファンファーレが鳴り響いていた。


 ……その瞬間。


 トウカ「いやいや、変ですよアキナさま?」


 背後から聞きたくない声が降ってきた。


 アサコ(アサヒ)(来やがった……!!最悪のタイミングで来やがった……!!)


 トウカは腕を組み、完全に“正論モード”で俺を見下ろす。


 トウカ「いつも温泉に入らないアサコがいたので、心配になってこっそり話を聞いていたら……

 タオル巻いて温泉に入るなんて誰もやりませんよ?

 周りを見て下さい。みんな裸です。

 それに衛生面も考えたら駄目ですよ、アキナさま」


 アサコ(アサヒ)(うるせぇええええええ!!アキナがいいって言ってんだからいいんだよ!!なんでこういう時だけアキナの言うこと聞かないんだよ!!)


 心の中で机をひっくり返したい勢いだった。


 アキナは困ったように眉を下げる。


 アキナ「トウカちゃん……アサコさんが恥ずかしいって言ってるんだから、いいんじゃないかな……?」


 アサコ(アサヒ)「そうよトウカ。ほら、アキナがいいって言ってるんだからさ」


 トウカは眉を吊り上げ、完全に“教師モード”で俺を指さした。


 トウカ「アキナさまは優しいから許してるだけです!アサコ、あなたはもっと自覚を持ちなさい!」


 アサコ(アサヒ)(自覚持ってるよ!!誰よりも持ってるよ!!だから命がけでタオル守ってるんだよ!!俺が裸になったらいろんな意味で全部終わるんだよ!!)


 心の中で土下座しながら叫んでいた。


 アキナは困ったように笑い、トウカをなだめようとする。


 アキナ「トウカちゃん、そんなに怒らないで?アサコさん、恥ずかしいだけなんだよ」


 しかしトウカは胸を張り、堂々と宣言した。


 トウカ「恥ずかしいならなおさらタオルを外すべきです!慣れれば平気になります!」


 その胸が、主張するように揺れた。


 アサコ(アサヒ)(外せるかぁあああああああ!!!お前みたいに自信満々な人間と一緒にするな!!その胸のメロン潰すぞ!?)


 そこへ――


 アカリ「どうかしたのアキナ、トウカ」


 新たな影が差し込んだ。


 アサコ(アサヒ)(今度はアカリかよ!!もうやめてくれ……俺の心臓が死ぬ……)


 しかし次の瞬間、俺は目を疑った。


 アカリは――

 バスタオルを巻いていた。


 しっかり、堂々と、自然に。


 トウカはさっきまでの勢いが嘘のように弱まり、恐る恐るアカリに尋ねた。


 トウカ「その……身体にタオルを巻くのは、駄目だと思いますが……」


 アカリは一瞬だけ目をそらし、頬を赤くしながら言った。


 アカリ「しっ、仕方ないじゃない!!みんな胸が大きいのに……私だけ、胸無いし……」


 その声は小さくて震えていた。

 トウカは一瞬で黙り込む。


 トウカ「そっ、そうですか……すみません」


 さっきまでの強気はどこへやら、心苦しそうに頭を下げた。


 アサコ(アサヒ)(よし……!トウカの正論砲が止まった!アカリ、お前は今日の救世主だ!!)


 俺は思わずアカリの肩に手を置いた。


 アサコ(アサヒ)「……ありがとう」


 アカリ「えっ!? な、何よ急に!!べ、別にアンタのためじゃないし!!」


 アサコ(アサヒ)(いやでも助かったよアカリィィィィ!!)


 心の中で土下座して感謝した。

 トウカは二人を見比べ、ついに観念したようにため息をつく。


 トウカ「……もう分かりました。アキナさまとアカリさまが良いと思うなら、私は何も言いません」


 アサコ(アサヒ)(よし!!勝った!!タオル防衛戦、第一ラウンド突破!!)


 アキナはほっとしたように笑った。


 アキナ「よかった。じゃあ、みんなで入ろっか」


 アカリも小さく頷く。


 トウカはまだ納得していない顔をしていたが、もう何も言わなかった。


 アサコ(アサヒ)(ふぅ……危なかった……

 でもまだ“本番”はこれからだ。

 どこでタオルが危機に陥るか分からない)


 俺はタオルを握りしめながら、女風呂の扉を見つめた。


 アサコ(アサヒ)(ここからが……地獄の第二ラウンドだ……!!)

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