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闇の支配者

 スカル ― 深淵大聖殿・玉座 ―


 深淵大聖殿《アビス・サンクティス》。

 この場所は、世界の理すら沈む“底”だ。黒曜石の床は俺の影を映し、背後の“闇の太陽”は、まるで俺の呼吸に合わせるように脈動している。


 玉座に腰を下ろした瞬間、空気が変わった。

 沈黙すら、俺の前ではひれ伏す。


 バタンッ


 スニーアが崩れ落ちるように倒れ込んだ。普段は他者を嘲ることしか知らない女が、今は震え、声すらまともに出せない。


 マーガレットが一歩前に出る。

 白いコートの裾が揺れ、サングラスの奥の瞳が冷たく光った。


 マーガレット「あなたの軽率さがアサヒを増長させたのよ。

 反省し、スカルさまに謝りなさい、スニーア。」


 その声音は、氷の刃のように鋭い。俺の意図を最も正確に読み取る女――だからこそ、世界との交渉はすべて彼女に任せている。


 スニーアの肩がびくりと跳ねた。


 スニーア「……っ、申し訳……ございません……我が王……」


 かすれた声。

 彼女は“恐怖”という感情をほとんど知らない。

 だが――俺の前では違う。


 俺はゆっくりと指を組む。

 ただそれだけで、スニーアの呼吸が止まりかけた。


 この世界で、俺の前に立って平然としていられる者など存在しない。


 それを理解しているからこそ、彼女たちは膝をつく。

 そして俺は、それを当然の光景として受け入れる。


 闇の太陽が脈動する。

 玉座の影が揺れる。


 ベリーが喉の奥で笑った瞬間、空気が震えた。

 破壊の吸血鬼――その名の通り、笑い声ひとつで世界を砕く女。


 ベリー「アキナとトモエを殺すこともできず、人間から逃げて帰るなんて、魔神十二使徒の面汚しねー!」


 黒いブラジリアンビキニに赤髪、巨大な悪魔翼。

 その姿は暴力そのものだが、俺の前では尻尾を振る獣にすぎない。


 スニーアは歯を食いしばる。

 反論できない。

 俺の玉座の前では、言葉すら許されない。


 メーニアが冷笑した。


 メーニア「ゾルナトもスニーアと同じ面汚しよ。人間に負けるなんて……情けない」


 古代魔術の狂気の魔女。

 世界を歪める呪術師。

 だが俺の命令だけは絶対に曲げない――その忠誠は本物だ。


 マシェリが胸に手を当て、聖女のように祈りながら叫ぶ。


 マシェリ「ご安心ください!

 新しく魔神十二使徒として選ばれたこの私、マシェリがゾルナトさんの代わりにスカルさまの名誉を挽回します!!」


 光を掲げながら闇に跪く狂信者。

 彼女の祈りは、すべて俺のためだけにある。


 フレイアが拳を叩きつけるように言った。


 フレイア「それよりも人間が魚人を滅ぼしたんだ!

 早く仇を取ってやらないと、死んでいった魚人が浮かばれないぜ!!」


 炎のドワーフ鍛冶姫。

 俺の武具を作る唯一の職人。

 彼女の怒りは、戦の鐘だ。


 シグナが瞳を輝かせ、尻尾を振りながら叫ぶ。


 シグナ「人間を殺せるの!?

 私、人間をたくさん殺したい!!」


 白虎獣人の戦闘狂。

 本能で俺を恐れ、本能で俺に惹かれる。

 その矛盾が、彼女を最強にしている。


 ルナティアが静かに制した。


 ルナティア「落ち着けシグナ。

 ここはスカルさまの御神託を待つのだ。全てにおいてスカルさまの決定が優先される」


 影森の魔女王。

 闇精霊と契約したダークエルフ。

 彼女は影そのもの――俺の影に溶ける女。


 ヴァルセリアが剣の柄に手を置き、怒りを露わにする。


 ヴァルセリア「スニーアの罰をマーガレットの鞭打ちだけで終わりにするのか!?

 もっと罰を与えるべきだろ!!」


 黒鋼の姫騎士。

 俺の剣であり、盾であり、忠誠の化身。


 そしてマーガレットが一歩前に出る。


 マーガレット「如何なさいますか?スカルさま」


 全員の視線が俺に集まる。

 スニーアは震え、床に額を押しつけている。


 その姿を見た瞬間――


 スカル(おお……!邪神王に怯える部下……!これは……最高のシチュエーション……!)


 胸が高鳴る。

 玉座の影が揺れる。

 闇の太陽が脈動する。


 スカル(ここは……“闇の王が部下を許す名シーン”だな)


 俺は玉座に座りながら、静かに考える。

 失敗?そんなものはどうでもいい。

 闇の王は些細なことを気にしない――そういう“格”が大事なのだ。


 スカル(ここで俺がカッコよく許したら……

 闇の王としての格が上がる……!)


 ゆっくりと立ち上がる。

 影が揺れ、闇の太陽が脈動する。

 部下たちの視線が一斉に俺へと吸い寄せられた。


 そして――

 低く、短く、意味深に。


 スカル「闇を払おうが、また深くなる」


 ……言った瞬間、自分で鳥肌が立った。


 スカル(なんかそれっぽい……!

 カッコいい……!

 よし、決まった……!)


 その一言で、場が爆発した。


 セラフィエルが感極まったように叫ぶ。


 セラフィエル「つまりスニーアを許すというのですか!?

 流石スカルさま!! 懐が大きいです!!」


 堕天した高位天使。

 光を捨て、闇に抱かれ、俺に救われた女。

 その翼は、俺の言葉ひとつで震える。


 ベルゼリアが妖艶に微笑む。


 ベルゼリア「それだけではない。

 旭軍の進撃は無意味だという意味でもある。

 一つの言葉に二つの意味を持たせるとは……

 やはりスカルさまは我々の想像の遥か先を越えている」


 高位悪魔の悪魔女王。

 破壊と誘惑の化身。

 俺の曖昧な一言を、勝手に深読みしてくれる便利な女。


 フェリシアが首を傾げる。


 フェリシア「ということは、このままアサヒの好きにさせるということ?」


 妖精の王女。

 可愛らしいが、最も残酷な守護者。

 玉座の影を守るのは彼女の役目だ。


 そして――


 マーガレットが一歩前に出る。


 マーガレット「如何なさいますか?」


 全員が息を呑む。

 スニーアは震えたまま、床に額を押しつけている。


 スカル(う〜ん……)


 正直、魚人が滅んだことなんてどうでもいい。

 そもそもアイツらは――


 俺が“悪を倒して闇のヒーローになるため”に用意した敵だ。


 だから滅んでも問題はない。

 ただ、旭軍が滅ぼしたのは少しだけ驚いた。


 スカル(まさかパワースーツを作るとは思わなかったな)


 魔法が使えないなら科学で戦う。

 そんな発想、この異世界では誰も持たなかった。


 スカル(まるで……俺がいた世界みたいだ)


 千年前に転生してから、こんな刺激は初めてだ。

 どいつもこいつも口だけの雑魚。

 一年で世界征服が終わり、そこからは退屈の連続。


 敵を作っては壊し、

 褒められては飽き、

 また敵を作っては壊す。


 そんな虚無の繰り返し。


 だが――


 その退屈は、終わった。


 春風旭。

 俺に初めて“恐怖”を与えた存在。


 その正体は――


 こ(・)の(・)異(・)世(・)界(・)の(・)俺(・)。


 世界に堂々と宣戦布告し、

 表舞台に立ち、

 魚人を滅ぼした。


 俺が闇なら、あの俺は光。


 つまり、俺を満たせるのは俺だけ。


 スカル(やはり、あの時に見逃して正解だったな。

 いいだろう。受けて立つぞ、異世界の俺。

 光と闇――どちらが最強か、勝負といこう)


 ふと笑った瞬間、マーガレットがわずかに目を細めた。


 マーガレット「なるほど、流石ですスカルさま。

 このままアサヒを暴れ回らせることで、大巫女の国と魔法少女の国を味方につけるという作戦ですね?」


 スカル(……は?)


 フレイア「共通の敵を作ることで世界をひとつにするってことか!?」


 スカル(えっ?)


 ルナティア「そして旭軍と戦わせて共倒れを狙う……

 流石スカルさま……! それは盲点でした……!!」


 魔神十二使徒が勝手に話を進め、勝手に盛り上がっていく。


 マーガレットが熱い眼差しで言う。


 マーガレット「それなら早速、大巫女と魔法少女の国を味方につける作戦を実行しましょう」


 全員の視線が俺に集まる。


 スカル(……まぁ、いいか)


 俺にとって重要なのは――


 カッコよくいること。


 そしてそれを叶えてくれるのが、

 旭という“もう一人の俺”。


 あとは巴の永祈の儀の阻止。

 それ以外は興味がない。


 闇の太陽が脈動し、玉座の影が揺れる。


 光と闇の王が、ついに動き出す。

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