↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/77

新たな時代へ②

 アキナ ― 神術団体総司令部・会議室 ―


 会議室に残ったのは、私とトモエさんだけだった。


 トモエ「ごめんねアキナちゃん。貴女だけ残ってもらって」


 アキナ「ううん、大丈夫だよ。でも……ちょっと気になってて。

 本当にアサコさんがアサヒ君なのかな?確かにアサコさんって男の子っぽいけど……女の子だよ?」


 私は首を傾げた。

 アサコさんのことを思い浮かべると、どうしても“女の子”の印象が強い。


 でも、トモエさんは指を鳴らして迷いなく言った。


 トモエ「それよ。アサヒは元から女の子みたいな男の子だったでしょ?

 それなら三年経って体つきが変わっても、ボーイッシュ女子になるだけだと思うの」


 アキナ(……あ、確かに。アサヒ君って、昔からちょっと中性的だったな……)


 そんなことを思っていると、トモエさんが続けた。


 トモエ「だからアキナちゃんには寮に引っ越して、アサコを監視してほしいの」


 アキナ「わ、私が……?」


 胸がドキッとした。

 驚きと、不安と、ちょっとだけ期待が混ざったような感覚。


 トモエ「実はそれをお願いしたくて残ってもらったの。

 アキナちゃんはアサコの隊長だから怪しまれないし、

 もしアサコがアサヒなら――激しく動揺するはずよ」


 トモエさんは、少し意地悪そうに笑った。


 トモエ「だってアサヒって、三年前アキナちゃんのこと好きだったでしょ?」


 アキナ「えっ……そ、そうかな……

 でも私、そういうの得意じゃないし……」


 胸が熱くなる。

 顔も熱くなる。

 トモエさんに背中を押されているけど、

 でも一歩踏み出すのが怖い。


 そんな私を見て、トモエさんは自信満々に言った。


 トモエ「大丈夫よアキナちゃん!実はアキナちゃんのためにマニュアルを作ったの!!」


 バンッ!


 トモエさんが冊子をテーブルに叩きつけた。


 トモエ「これを読めば、アキナちゃんも立派なスパイよ!!」


 アキナ「うわぁあ!!

 私のために作ってくれたの!?

 ありがとうトモエさん!!」


 胸がじんわり温かくなる。

 トモエさんが私のために何かをしてくれて嬉しい。こんなにも素直に感謝したのは久しぶりだ。


 私は夢中で冊子を読み始めた。その様子を、トモエさんは静かに、じっと見つめていた。


 トモエ「……アキナちゃん。幼稚園児のアサヒ、凄かったでしょ?」


 トモエさんの言葉は、胸の奥にそっと落ちてきた。


 アキナ「……え?」


 思わず声が漏れた。

 バレていた。

 でも、トモエさんは責めるでもなく、ただ――

 懐かしそうに、そして少しだけ悲しそうに微笑んでいた。


 トモエ「怯えないで。大丈夫よ。

 私も過去に行ってアサヒを連れ去ろうとしたわ。何度もね」


 アキナ「トモエさんも……?」


 トモエ「ええ。私は創造神よ?タイムスリップできる神使くらい作れるわ。

 でも、過去は変えられなかった。

 アサヒの“心”に勝てなかったの」


 その声は、静かだった。


 トモエ「あの子は優しすぎるのよ。本来なら大巫女が背負うはずの“世界”を、自分ひとりで背負おうとする」


 私は胸がぎゅっと締めつけられた。


 アキナ「……うん。アサヒ君は、ひとりで背負いすぎてるよね。私たちと同じ子供なのに」


 言葉にした瞬間、涙が出そうになった。

 アサヒ君の背中を思い出す。あの小さな肩に、どれだけの重さが乗っていたんだろう。


 トモエ「きっと、自分は罪人だと思っているのよ。世界が背負うべき罪を、アサヒはひとりで背負おうとしている……いずれ破滅するわ。だけど、アサヒはそれを“救い”だと思っている」


 その言葉は、胸の奥に深く刺さった。


 アキナ(そんなの……そんなの、絶対に違う)


 アキナ「そんなこと……させない」


 気づいたら、私は強く言い返していた。震えていたけど、迷いはなかった。


 トモエさんはまっすぐ私を見つめた。


 トモエ「その通りよ、アキナ。この世界は私たちが守ってきた。アサヒはただ巻き込まれた少年。だからこそ、この世界を変えて救うのは――私たちの役目」


 その言葉は、私の心に火を灯した。


 トモエ「そのためにもアサヒを捕まえ、永祈の儀を完遂しなければならないの。

 だから頼んだわよ、アキナ」


 私は深く息を吸って、頷いた。


 アキナ「……うん。分かった」


 アサヒ君を救うためなら、

 どんな痛みも、どんな恐怖も、きっと乗り越えられる。


 アサヒ ー 三日前 魚人王国オースィー・ズミィー城 ー


 東南アジアとオーストラリアを除くオセアニア州を奪還した後、俺たちは籠城していたズミィー城へ攻撃を開始した。

 戦場の空気は血と焦げた鉄の匂いが混ざり合い、肌にまとわりつくように重かった。


 ――そして、魚人王を追い詰めた。


 アサヒ「魚人王。貴様の負けだ。大人しく降伏をしろ。そうすれば命までは取らん。国民も助かる」


 俺は旭将軍の姿で、ゆっくりと魚人王へ歩み寄った。その距離が縮まるほど、魚人王の瞳から“威厳”というものが剥がれ落ちていくのが分かった。


 ――恐怖だ。


 支配者の顔ではない。

 捕食者でもない。

 ただ、自分の死を悟った生き物の目。


 魚人王「食材の分際でこの私に口を開くな!!貴様ら人間はただ食い物として喰われる為に生きていればいいのだ!!」


 怒鳴り声は大きいのに、その奥にある震えは隠しきれていなかった。そして魚人王は玉座へと走り出した。


 ガクッ


 魚人王「うがっ!」


 魚人王の足がもつれた。その瞬間、空気がわずかに揺れた気がした。転倒しかけた身体が、玉座の近くにあった大きな机へと手を伸ばす。


 ガタンッ!


 机が倒れ、その衝撃で布が滑り落ち、皿が床へ転がった。


 パリンッ!


 皿が転がる音が、やけに大きく響いた。


 サユリ「なっ!」


 アサガオ玖「まじかよ………」


 兵たちのどよめきが、遠くで揺れているように聞こえた。布の下から現れた“それ”を見た瞬間、俺の思考は一瞬だけ止まった。


 生焼けになった妊婦。


 皮膚は赤く縮み、焼かれた匂いが空気に溶けていく。


 アサヒ「………」


 俺は、ただ彼女を見ていた。


 高校生くらいだろう。


 ――この世界は、どこまで残酷になれるんだ。


 魚人王「何を怒っている人間!!」


 怯えながらも、必死に虚勢を張る声だった。


 魚人王は嘲笑を浮かべて俺を見る。その笑みは歪んでいて、自分の立場を理解した者の“最後の抵抗”にしか見えなかった。


 魚人王「お前たち人間も同じように命を食べてきたではないか!!だから我々も貴様らを食べるのだ!!だというのに、何故我らを攻撃するのだ!!お前たち人間は狂っている!!」


 叫びは大きいのに、その奥にある“怯え”は隠しきれていなかった。


 アサヒ「そうだな。お前たちへ仕掛けるのは戦争ではないな……生存競争だったな」


 その言葉を聞いた瞬間、魚人王の顔が歪んだ。


 理解したのだろう。

 自分たちがしてきたことを、

 今、自分がされているだけだと。


 アサヒ「アサガオ壱。本部へ魚人を皆殺しするように伝えろ。一匹も生かすな」


 サユリ「で、ですが……」


 アサヒ「構わん。ここからは食うか食われるかだ。人類という種族を存続させる為に魚人を滅ぼせ」


 俺の声は驚くほど静かだった。怒りはもう燃え尽きている。残っているのは、灰のような冷たさだけ。迷いはなかった。


 サユリ「りょっ、了解……」


 彼女の声は震えていた。


 魚人王「貴様!!」


 ガッ!


 魚人王が吠えた瞬間、俺はその顔を鷲掴みにし、床へ叩きつけた。


 ドシャッ!


 骨が砕ける鈍い音が響く。


 魚人王「ギャァアアア!!痛ぃいい!!」


 床に広がる血。

 潰れた頭。

 情けなく咽び泣く声。


 ――これが“捕食者”を気取っていた者の末路か。


 アサヒ「何を怒っているんだ魚人王。お前の考えに合わせて殲滅してやっているんだぞ?だから死体はきちんと食べてやる。魚が人の形になっているだけ。新鮮な内に食べないとな。

 哀れだな。お前たち魚人の考えが自身を滅ぼす結果になるなんてな」


 魚人王「にっ、人間だってやっているんだぞ!?なのに何故我らだけが!!」


 アサヒ「違うな」


 俺は刀を抜き、その首元へ静かに近づけた。


 アサヒ「喰われる順番が、お前たち魚人になっただけだ」


 ザンッ!!


 刃が走り、魚人王の首は空を舞った。


 アサヒ(魚人王……お前の考えは正しい。だからこそ魚人は滅ぶんだ。何も残らずに)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。