新たな時代へ①
日本武装テロ組織――旭軍。
その頂点に立つのは、一人の少年。
春風アサヒ。
彼は旧創造神唯一派を壊滅させ、
邪神王の魔神十二使徒の一人・ゾルナトを討ち取った。
そして世界へ宣戦布告した。
だが、世界は彼を嘲笑した。
「小さなテロ組織に何ができる」
「所詮、人間には何もできない」
「魔族の安寧は続く」
そう信じて疑わなかった。
――その平和は、三日で終わった。
魚人が住んでいた東南アジアとオーストラリアを除くオセアニア州が旭軍によって一瞬で制圧されたのだ。
魚人は人間より遥かに強靭で、水の魔法においては魔族最強と謳われた種族。
だが、旭軍は彼らを滅ぼした。
旭軍が開発した強化外骨格兵装――
旭人。
史上初の実戦投入は世界の予想を遥かに超えた。
わずか一週間。
魚人は絶滅した。
魚人は人間を“食材”として扱っていた。ゆえに旭軍は対話不可能と判断し、一切の情けをかけなかった。
この“人類初の勝利”に世界は震えた。
大巫女も、魔法少女もいない。
それでも人類は魔族に勝てる。
少年の戯言は現実へと変わった。
――たったひとりの少年によって、世界が動き始める。
トモエ ― 神術団体総司令部・会議室 ―
トモエ「…とまぁ、アサヒが大暴れしているわけね」
会議室の空気は静かだが、活気に溢れていた。
壁の古代神術の紋様が色濃く光り、天井の神鏡はこの場にいる者たちの“心の昂り”を鮮やかに映し出している。
そして、テーブルを囲むように神術監たちが並んでいた。
神術監――神術団体の官僚であり、
同時にそれぞれの一族の当主でもある少女たち。
彼女たちは神術団体の“頭脳”であり“心臓”だ。
そして、その頂点に立つのが神術総監である私。
創造神としての役割は面倒だけど……まぁ、慣れた。
そう思いながら、私は彼女たちを見渡す。
アキナちゃん、マカナ、ヒマリ。
そして他の四人の神術監。
彼女たちには特別に“精鋭部隊”を与えている。
理由は簡単。
もし邪神王と遭遇した時のため。私は一人で邪神王とは戦えるけど、彼女たちだけでは厳しい。だから私は彼女たちに特別隊を結成させた。
席には私を含めて七人の少女が座っていた。
アキナちゃん、マカナ、ヒマリ。
そして、各一族を背負う神術監たち。
アカリ「アサヒと決めつけるのは早いんじゃない?偽物である可能性もあるでしょ?」
橙色のおさげを揺らしながら、犬蔵アカリが噛みつく。
第四特別部隊の隊長であり、使命感とプライドが同じくらい強い子。
ミネコ「ですが…旧創造神唯一派の壊滅、ゾルナトの打倒、アキナさんからの逃走……そして魚人の殲滅。どれもアサヒさん本人しかできません」
水色の髪を揺らしながら、清水ミネコが静かに言う。目元が隠れていて引っ込み思案だけど、ここぞという時にメンタルが強い子。
ミア「ミネコの言う通りだ。旭軍はアサヒあっての組織。あれほどの統率力と成長……他にあり得ない。私たちが潰していた旭軍はダミーだろうね。自分たちを表舞台から消すための」
ヘッドフォンをした白髪青眼のエルフが淡々と告げる。彼女の名はミア・レコット・スニーファー・ペレントネック。名前が長過ぎるから、みんなはミアと呼んでいる。彼女は日本にいる唯一のエルフであり、魔法少女。
足まで伸びた長い髪で綺麗なストレートになっている。感情が希薄なタイプだけど、アサヒに興味津々。
アカリ「どうかしらね……」
アカリの声にはいつもの強気とは違う“揺れ”があった。
疑心。迷い。
彼女は強いけれど、こういう時は意外と脆い。
トモエ(まぁ、アカリは“確信”より“証拠”を欲しがるタイプだから)
私は視線をアキナちゃんへ向けた。
トモエ「それなら旭将軍と戦ったアキナちゃんに聞いてみましょうか」
その瞬間、会議室の空気が変わった。六つの視線が、一斉にアキナちゃんへ向く。
アキナちゃんは逃げずにその視線を受け止めた。
静かに、でも確かに。
アキナ「旭将軍と戦ったけど、戦い方はアサヒ君じゃなかった。
だけど……」
アキナちゃんは顔を上げ、真っ直ぐにみんなを見た。
アキナ「それが、アサヒ君らしいなって思った。だから、旭将軍はアサヒ君だと思う」
その言葉に、アカリが眉をひそめる。
アカリ「アサヒの戦い方じゃないのに、アサヒらしい?」
ミネコ「どういう意味ですか……?」
ミネコは純粋に疑問を抱き、アカリは理解できずに首を傾げる。
アキナ「あー…えっとぉ〜」
アキナちゃんは困り果てて、言葉を探していた。
トモエ(ああ……そうだったわね。
アキナちゃんは“感じたこと”を説明するのが苦手だった)
だから私は代わりに言葉を置いた。
トモエ「つまりアサヒの戦術の幅が大きくなっているということよ。
身体能力だけじゃなく、多才な戦術を学んでいる。その努力の方向がアサヒらしいの。実に厄介ね」
ミアがじっと私を見る。
ミア「そういう顔には見えないけど?」
疑うような、観察するような目。彼女特有の“洞察”が光っている。
トモエ(……うっかり笑みを浮かべてしまったわね。
でも、関係ない)
私は知っていた。
アサヒが生きていることも。
彼が動き始めたことも。
だから――
トモエ(探す手間が省けた。それだけの話よ)
静かにそう思った。
トモエ「アサヒは人類最強であるけど所詮は人間。創造神である私に、勝つことは無いわ。だからこそアサヒは多くの策を練る。それを潰すのが楽しみなの。
アサヒにはどんなことをしても私に勝てないって。私が世界最強だと証明しなくちゃね」
私はにっこりと笑う。その圧力に、みんなが圧倒されていた。
アカリ「すっ、凄い自信ね…」
トモエ「当たり前でしょ?私は、もうアサヒに守られてばかりの私じゃないわ。だから今度こそ、私がアサヒを守る。それができると証明する。その為に努力して創造神の力を完全にコントロールできるようになったのだから」
椅子にもたれかかり、自慢げにする。
トモエ(本当に……あの子には借りが多すぎるのよ)
そしてすぐに表情を引き締めた。
トモエ「とはいえ、アサヒが厄介なのは変わらないわ。
あの子はあらゆる手を使って私たちを潰しに来る。
まずは日本に蔓延る魔族の掃討とスパイの排除。それで日本が落ち着いたら旭軍を叩く」
ミネコが不安そうに眉を寄せる。
ミネコ「そんなに自由にして……大丈夫なんですか?
魔族共存連盟が黙っていないのでは……」
トモエ「安心しなさい。国会は私に任せると言っていたわ。
彼らは旭軍に狙われるのを恐れているのよ。
そのおかげで、私たちは自由に動ける」
アカリ「旭軍が眠れる獅子を起こしたってわけね。
これで好き勝手に暴れられるわ!」
トモエ「そうよ、アカリ。
だからまずは邪魔なものを消して土台を固める」
私は軽く指を鳴らした。
トモエ「あと――ここからが本題よ」
私は背後の巨大モニターに、ひとりの少女を映し出す。
秋山アサコ。
トモエ「彼女を監視対象にするわ」
アキナ「アサコさんを!?どうして……!?」
アキナちゃんの驚きは当然だ。
でも、私は冷静に答える。
トモエ「彼女には“春風アサヒである疑い”がある。そうでなくても、アサコの師匠は元日本軍人。アサヒと繋がっていても不思議じゃないわ」
私は淡々と続ける。
トモエ「だから少しでも怪しい行動をしたら――即捕縛しなさい」
その瞬間、マカナが立ち上がりかけた。
マカナ「何を言っているんだ?アサコはアサヒだぞ?」
アカリ「また変なこと言ってる………」
アカリが呆れたようにため息をつく。
トモエ「それで“実は違っていたら”どうするの?
その過ちでアサヒの手がかりを失うのが一番の失策よ」
私はマカナの目をまっすぐ見た。
トモエ「アサヒは三年間、自分と旭軍を完璧に隠し続けた。
そんな相手を見つけるのは至難よ。だからこそ慎重に進めるの」
マカナは唇を噛んだ。
マカナ「……わ、分かった」
トモエ(いい子ね。素直で、真っ直ぐで。だからこそ危なっかしい)
私は姿勢を正し、会議室全体を見渡した。
トモエ「それと同時に――“天の十二支”を集めてね?」
七人の少女たちが、一斉に頷いた。




