Truth Moves Me Forward
アキナ ー 九頭竜湖 上空 ー
アキナ「正直、生きていて嬉しいよアサヒ君。だけど、どうして仮面をしているの?」
問いかける声が震えてしまう。優しくしたいのに、戦場の風がそれを許してくれない。
アサヒ君は負傷した兵士Aを兵士Bに託し、静かに、でも確かな覚悟を持って私の前に立った。
アサヒ「知りたいか?ならば仮面を壊してみろ。そうすれば分かる」
指先で仮面をトントンと叩く。その仕草が、胸を締めつけた。
アキナ(私の力を……試してるんだね)
アキナ「分かったよアサヒ君。その仮面を壊して……アサヒ君の素顔を見る!!」
アサヒ「よく言ったアキナ!それでこそ救世主だ!!」
その声は、どこか嬉しそうで、どこか遠かった。アサヒ君が兵士Bに目配せすると、兵士Bは兵士Aを抱えて飛び去っていく。
そして——
アサヒ「旭道四段!」
赤いオーラが爆ぜ、アサヒ君は別方向へ飛び去った。ダイダラボッチから私を引き離すために。
アキナ(だから……自分を囮にしたんだ)
私の力を測りながら、同時に仲間を守るための行動。そんなところまで、変わってない。
アキナ(でも……逃がさない!!)
私は全速力で追いかける。旭道三段までしか使えないけど、大巫女の力と破壊神の力がある。
それに——
今はアサヒ君の背中が見えている。
アキナ(勝てる……ううん、勝つ!!)
追いつきそうになった瞬間、アサヒ君の背中に“見覚えのある武器”があった。
旭軍兵士が使っていたライフル。
アキナ(まさか……)
アサヒ君は背中からライフルを抜き、迷いなく私へ銃口を向けた。
アキナ「しまった!!」
ビュビュンッ!!ビュンッ!!ビュンビュンッ!!
光線が空を裂く。
私は必死に避ける。
でも——
アキナ(避けるのに必死で……気づかなかった)
気づいた時には、アサヒ君は私の“前”ではなく“後ろ”にいた。
アキナ(誘導されてた……!?)
ライフルの射線で私の動きを誘導し、アサヒ君は私を“自分の正面”に誘い込んでいた。
アキナ(アサヒ君……やっぱり、戦い方が……上手い……)
空が震えていた。私の胸も、同じように震えていた。
——だけど、もう逃げない。
三年前の、あの弱い私じゃない。
両手に集めた破壊神の力が、空気を割っていく。バキバキと、世界の骨が軋むような音が響いた。
光線が曲がる。
射線が逸れる。
アサヒ君の攻撃が、私の意思に従って歪んでいく。
アキナ「炎鬼弾——!」
寿量を込めた息が、鬼の形をした炎へと変わる。
いくつもの“炎の鬼”が、叫びながらアサヒ君を追った。
ビュビュビュッ……!
アサヒ君は全部を撃ち落とそうとしていく。
でも——
ドガァンッ!!
爆発の光が森を照らし、アサヒ君の影が落ちていった。
アキナ「……やった!」
そう言った瞬間、胸が熱くなった。勝った嬉しさじゃない。ただ、アサヒ君に届いた気がした。
落下地点に降り立つ。
そこには、割れた仮面だけが残っていた。
アキナ「アサヒ君……?」
胸が締めつけられる。
まさか——また失ってしまったの?そこには壊れた仮面があったけど、アサヒ君はどこにもいなかった。
アキナ「……爆散しちゃったの?」
胸がぎゅっと縮んだ。
息が苦しい。
また——また私は、大切な人を。
その瞬間。
アサヒ「その思い込みは直せ。アキナ」
風が揺れた。
声が落ちてきた。
アキナ「え……?」
振り向くより早く、光が降ってきた。
ドドドドドドドドッ!!
アキナ「きゃあああああっ!!」
光線が雨みたいに降り注いで、
身体が動かない。
空が遠ざかっていく。
そして——
ドォオオンッ!!
地面に叩きつけられた衝撃で、神仏合体も旭道も、全部がほどけていった。
アキナ(寿量……沖縄から戻ってくるのに使いすぎた……)
立ち上がるだけで精一杯。
それでも、私は空を見上げた。
そこに、アサヒ君がいた。
アサヒ「その仮面は予備の仮面。そして、さっき爆散したのは予備のカートリッジだ。この二つを囮にしたんだよ」
淡々とした声。
でも、その奥にあるものは、私には分かる。
アサヒ「戦いの中でも冷静であること。それが人間の戦いだ。アキナ」
破壊神でも、大巫女でもなく——
“人間の私”に向けられた言葉。
アサヒ「お前は破壊神であり、大巫女でもある。だが、人間でもあることも忘れるな。勝ちたければ、人間の戦い方もしろ」
赤い光が尾を引いて、アサヒ君は空の向こうへ消えていった。
私は、その光が消えるまで見つめていた。
アキナ「人間の……戦い方……」
力が抜けて、地面に倒れ込む。
バタン、と情けない音がしたけど、
もうどうでもよかった。
アキナ「負けちゃったな……」
でも、不思議と涙は出なかった。
胸の奥が熱くて、痛くて、
それでもどこか嬉しかった。
アキナ「だけど……分かったよ。本当に……アサヒ君なんだね」
あの優しさも、
あの強さも、
全部、アサヒ君のままだった。
私は空に向かって拳を突き上げた。
アキナ「絶対に勝ってみせる」
悔しさじゃない。
泣きたいほどの嬉しさでもない。
ただ——
アサヒ君の隣に立ちたい。
そのために、強くなりたい。
それだけだった。
これからアサヒ君は世界を変えていく。
その背中は、もう誰にも止められない。
だから——私も変わらなきゃいけない。
心も、体も、戦い方も。
全部、強くしなきゃいけない。
いつかアサヒ君に勝って、
証明するために。
アサヒ君の“恩送り”が、
私たちを未来へ連れていってくれたんだって。
私たちの魂を、救ってくれたんだって。
その証拠を——
私が見せる。
風が吹いた。
森の匂いが胸にしみて、
痛みと一緒に、少しだけ温かさが広がった。
倒れたままの身体は重いのに、
心だけは、どこまでも軽かった。




