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最強の神、創造神降臨

 アキナ ー 廃墟の旅館・1階ロビー ー


 天陽地照――根源を切り裂く抜刀術。

 神武剣流の師範はそう言っていた。でも、そんな言葉じゃ足りない。あれはただの速さじゃない。


 刀身の光が視神経を焼き、抜刀の振動が鼓膜を通して敵の脳を直接揺らす。


 それでも、私はまだ分からない。


 ゴブリンマスターは蒸発した。何が起きたのか、誰にも分からない。


 私はアサコさんを見る。


 両目も、両耳も使えないのに――


 それでも彼女はゴブリンマスターの位置を正確に捉えていた。


 アキナ(殺気で感知したんだ)


 武術を極めた者は視覚も聴覚も必要としない。殺気の流れを読むことで敵の位置も動きも、すべてが見える。


 実際、アサコさんの師範は目も耳も不自由な老人だった。それでも彼はアサコさんと剣を交えていた。まるで何も問題がないかのように。だから目も耳も関係ない。


 それが“極めた者”の世界。


 こんなに距離を取っているのに、私の身体はまだ震えている。

 一閃だけで眩暈と吐き気が起きた。

 だけどそれだけじゃない。あの一千には、もっと深い、何かがある。


 でも分からない。ゴブリンマスターは蒸発した。検証する余地もない。

 ただ一つ、確かなことがある。


 私は、あの技に勝てる気がしない。


 私は破壊神。それでもあの一閃の前では、ただの観測者に過ぎなかった。


 まるで、神を超えた武術。


 あれこそ、本当の“神術”なのかもしれない。


 もちろん、弱点もある。


 神速ゆえに代償も大きい。一度放てば身体は動かなくなる。読み違えれば不発。つまり、外せば即死。

 発動には覚悟と冷静さが必要。命を懸ける覚悟がなければ、あの技は成立しない。


 だからこそ、私は――


 アサコさんのあの技が、好き。


 魔法でも神術でもない。人が鍛錬と経験だけで辿り着いた“限界のその先”。本来なら私たちが目指すべき場所。

 だけど私たちは、神に縋った。神の力がなければ、戦えない。


 アキナ(アサヒ君はそれを嘆いた。だから人類を進化させたかったんだよね……)


 私は神になったのに。それでも、あの光に手が届かない。


 アサコ「……もう、無理ぃ……」


 バタンッ


 アサコさんが垂直に倒れた。棒が倒れるように。


 グサグサッ!! 


 倒れた拍子に身体中に刺さっていた武器が深く突き刺さり、そのまま身体を貫通した。


 ブシャァアアアアアアアッ!!!


 血が噴水のように噴き出す。


 トウカ「ぎゃああああああっ!!倒れて自分でトドメ刺してんじゃないわよアサコォオ!!」


 アキナ(ヤバい!天陽地照に見惚れてる場合じゃなかった!!)


 アキナ「わ、わわっ!! 私ゴブリンの死体から回復薬かき集めてくるから!!

 トウカちゃんはアサコさんが気を失わないように声をかけ続けて!!」


 トウカ「は、はいっ!!」


 アサコ「……ああー……三途の川の向こうに……パパとママが……」


 トウカ「死ぬんじゃないわよバカアアア!!」


 アサコ「……あれ? パパとママ、なんか若返ってない……?」


 トウカ「幻覚見てんじゃないの!?しっかりして!!」


 私とトウカちゃんは慌ててアサコさんの治療に取りかかった。

 ゴブリンの死体からかき集めた回復薬をアサコさんの口に流し込む。

 トウカちゃんにも一本飲ませて、ついでに私も一本キメておいた。


 アサコ「……あ、ちょっと生き返ったかも」


 トウカ「“ちょっと”じゃダメなのよ!!」


 ― 1時間後 ―


 ゴブリンの殲滅が完了したことを神術団体総司令部に報告した。応援が来るまで廃墟の旅館で待機するように指示が出た。

 私たちは1階ロビーの死体を地下に運び、人質たちを一室に集めた。


 見張りは1時間交代。

 最初は、私の番。


 アキナ ー 廃墟の旅館・屋上 ―


 屋上に立ち、海風に髪をなびかせながら私は空を見上げた。


 アキナ「……懐かしいな」


 ここには2年前にも来たことがある。中学生の頃、神術中学校の合宿で。

 神仏合体を会得するための厳しい訓練。でも先生たちが遠足の時間を作ってくれたから、凄く楽しかった。


 みんなで笑って、走って、いろんな美味しい物を食べて、たくさん遊んで、何もかもが眩しかった。


 その中に、アサヒ君もいた。まだ、魔王になる前の彼が。


 アキナ(あの頃は、何もかもが楽しかった……)


 狂い始めたのは、私とトモエさんがテロリストに攫われたあの日から。


 私たちを助けるために、

 アサヒ君は――


 ダイダラボッチと契約した。


 そして、消えた。


 アキナ(私が、もっと強ければ……

 アサヒ君が、あんなものに手を伸ばす必要なんて、なかった)


 彼の未来を壊したのは、私の弱さだ。


 アキナ(もし、やり直せるなら……)


 もう一度、あの時に戻って、私が彼を守りたい。


 アキナ(でも、そんなことはできない)


 私は自分の拳を見る。


 アキナ(だから私は、

 この手で、彼を――)


 アサコ「交代だ、アキナ」


 ドアが開いてアサコさんが顔を出した。思っていたより、ずっと早い。

 私はスマホを取り出して時間を確認する。


 アキナ(……まだ、1時間経っていない)


 アキナ「え?交代にはまだ早くないかな?」


 アサコ「泣いてる少女たちを慰めてたらトウカに怒られて追い出された。ナンパするなって。電話番号を教えたのが駄目だったらしい。

 いつでも相談に乗ってあげたかっただけなんだけどなぁ」


 アキナ「あははは……」


 アサコさんは肩を落としながらトボトボと歩いて来る。でも、私は彼女からどこか“無理をしている”気配を感じた。


 アキナ「アサコさんって、どうしてそこまでお節介なの?」


 アサコ「女の涙に弱いのさ」


 即決め顔でそう言って笑った。そして私の前でしゃがみ込む。


 アサコ「だからアキナの力になりたいかな~」


 アキナ「……私?どうして?」


 その言葉の意味がすぐには理解できなかった。

 でも、アサコさんは――

 ほんの少し、悲しそうに笑った。


 アサコ「泣いてるから……心が」


 一瞬、胸の奥がざわついた。


 アキナ「……え?いきなりおかしなこと言わないでよぉ~」


 笑って誤魔化そうとした。でも、アサコさんは目を逸らさなかった。


 その瞳はまるで――


 私の奥底にある“何か”を、最初から知っていたみたいだった。


 アサコ「女の涙には敏感なんだ。だから分かる。そしてアキナが泣いているから、トウカも泣いている。トウカが私を置いて1階ロビーへと向かったのは、アキナを心配していたから。

 だから少しでも2人を元気にさせたいんだ」


 アサコさんは立ち上がり、何もない平地とその先の海を見つめた。


 アサコ「そのためにさ、この任務が終わったら――

 3人でお出かけしない?」


 その言葉に、胸が少しだけ痛んだ。


 お出かけ。


 そんなことでアサヒ君を失った溝が埋まるわけがない。

 あのとき、私たちは何もできなかった。彼の手を取ることも、彼の叫びに気づくこともできなかった。

 そして今さら、「お出かけ」なんて言葉で、あの喪失を塗り替えられるはずがない。


 アキナ(……でも、断れば更にアサコさんに気を遣わせてしまう。だったら――)


 アキナ「……そうだね。3人で行こっか。お出かけ」


 できるだけ、自然に。

 できるだけ、笑顔で。


 そう言った私に、アサコさんは微笑んだ。


 その笑顔が、

 ほんの少しだけ、眩しかった。


 アキナ(……優しいな、アサコさんは。

 でも私は――

 まだ、笑えない)


 だって、私は知ってる。

 あの人を失った痛みは、

 こんな言葉で癒えるほど、

 軽くなんかないってことを。


 アサコ「あっ。ちなみにゴブリンの軍勢が来てる」


 アキナ「えっ!? どこどこ!!」


 空気が一瞬で凍りついた。私は反射的に立ち上がり、周囲を見渡す。

 さっきまでの静けさが急に不気味に思えてくる。


 アサコ「あそこ。あの丘の向こう。ゴブリンたちがこっち向かってる」


 アサコさんが指差す先に馬に乗ったゴブリンの軍勢が迫っていた。


 アキナ「騎馬隊か……。増援を呼ばれていたみたいだね」


 私はすぐに頭を切り替え、アサコさんに指示を出す。


 アキナ「私とトウカちゃんで迎撃するから、アサコさんは人質のみんなを守っててね。

 だけど無理はしないで。まだ天陽地照の負荷は治ってないし、刀も無いでしょ?」


 アサコ「ふふん。心配ご無用。もう戦えるほど回復したし、神武空手も教わってるからね。素手でもいける」


 そう言って笑うアサコさんに私はうなずきながらも、心の奥で不安が渦巻いていた。


 アキナ(……アサコさんを、これ以上戦わせたくない。だったら、私とトウカちゃんで――)


 その瞬間だった。


 ドガァアアアアンッ!!


 丘が爆ぜた。


 アキナ「うえっ!?」


 次々と爆発が起き、ゴブリンたちがまるで紙くずのように吹き飛んでいく。


 アキナ「この大きな寿量……トモエさんだ!!」


 彼女が来た。


 私の同期で、

 信頼できる――


 ……大親友。


 アサコ「……逃げます」


 その一言を残してアサコさんは突然、全力で駆け出した。


 アキナ「えっ!? なんで!?」


 私は思わず手を伸ばしたけど、指先が触れる前に彼女は風のように遠ざかっていった。


 そして――


 ドォオオンッ!!


 空から何かが落ちてくる。それはただの質量じゃなかった。

 空気が震え、地が軋み、

 世界が一瞬、誰かの意志に支配されたような感覚。


 アサコ「いでででで……」


 倒れたアサコさんの背中に、誰かが降り立った。


 トモエ「助けに来てあげたのに逃げようとするなんて。何か疚しいことでもしたのかしら?ねぇえ……ア・サ・コ」


 その声は、笑っていた。


 けれど、目は笑っていなかった。


 創造神、桜山トモエ―――日本を統べる、神となった少女

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