復活の夜明け②
アキナ ― 現代 首里城 ―
守礼門の赤瓦が、淡く光っていた。潮の匂いが風に混じり、どこか懐かしいような、胸の奥をくすぐるような感覚がした。
アキナ「あれ……?」
気づけば私は、首里城の前に立っていた。どうしてここにいるのか、思い出せない。
ただ、胸の奥がざわついていた。
トウカ「アキナさま!!」
駆け寄ってきたトウカちゃんの声が、現実へ引き戻す。その顔は驚きと安堵が入り混じっていて、少しだけ震えていた。
アキナ「トウカちゃん……どうして私たち、沖縄に?」
問いかけながらも、自分の声がどこか遠く感じた。トウカちゃんは慌ててスマホを取り出し、画面を見せてくる。
トウカ「私たち、いつの間にか現代に戻ったんです!!」
今日の日付。
確かに“現代”だった。
バチッ!!
突然、画面が白く弾けた。
トウカ「あれ……?」
不安そうにタップする指先。その向こうで、じわりと映像が浮かび上がる。
――旭将軍。
アキナ・トウカ「旭将軍……!?」
胸が跳ねた。でも、その次の言葉で、世界が止まった。
旭将軍「大巫女よ……世界よ!そして闇に沈むすべての者たちよ!!聞くがいい!!私は――春風アサヒ!!今ここに“復活”を宣言する!!」
トウカちゃんが、震える声でつぶやいた。
トウカ「はるかぜ……あさひ……?」
その名前を聞いた瞬間、
胸の奥が、きゅっと縮むように痛んだ。
春風アサヒ。
かつて私が、この手で終わらせた子。
――なのに。
アキナ(生きてた……
あの時、確かに……私が殺したはずなのに……
でも、生きてた……)
守礼門の赤瓦が、淡く光る。その静けさとは裏腹に、周囲はざわめき始めていた。
観光客A「春風アサヒ!?前創造神さまを殺したクソガキじゃないか!!」
観光客B「嘘でしょ?だってアキナさまが殺したんだから」
その言葉は、まるで刃物のように胸へ突き刺さる。
でも――
トウカちゃんは、私の顔を見た。
ほんの一瞬だけ、目が揺れた。
そして、何も言わなかった。
その沈黙が、
私には救いだった。
アキナ(……気づいてくれたんだ。
今、私が何を言われたら壊れてしまうか……
トウカちゃんは分かってくれたんだ)
私は、安堵した。
アサヒ君が生きていたからじゃない。
旭将軍がアサヒ君かもしれないからでもない。
“誰かが、私の痛みに気づいてくれた”
その事実が、胸の奥をそっと支えてくれた。
スマホの画面の中で、旭将軍が両手を広げる。
旭将軍「なぜ私が戻ったのか?それは、力無き者たちが望んだからだ!
声を奪われ、希望を失い、それでも“生きたい”と願った者たちが、私を呼び覚ましたのだ!!」
旭将軍の声が、スマホ越しに響く。
私は、画面の中の男を見つめる。
少しでもアサヒ君だと思いたくて、
声の端、仕草の癖、言葉の選び方――
どこかに“あの子”の面影を探した。
でも。
旭将軍「今の世界は腐っている。
少女を利用し、真心を消費し――
これが生きると言えるか?
否!!
これは、生きているふりをした“死”だ!!」
その叫びは、
あまりにも鋭くて、
あまりにも冷たかった。
アキナ(違う……
私の知ってるアサヒ君じゃない……
優しさが、感じられない……)
胸の奥が、ひりひりと痛む。
“アサヒ君のフリをした別人”
そんな不安が、静かに身体を締めつけた。
旭将軍「祈りに縛られた牢獄を破壊し、本来あるべき姿へと――復活させるのだ!!
その第一歩として、魔神十二使徒ゾルナトを倒し、
旧創造神唯一派を壊滅させた!!」
映像が切り替わる。
燃える金華山。
崩れ落ちる岐阜城。
炎の中に横たわる麗羽議員たちの姿。
大巫女たちの姿は――どこにもなかった。
トウカ「魔神十二使徒ゾルナトを……倒した……!?」
トウカちゃんの声が震える。あの透明化したゾルナトを、私たちは一度も捉えられなかった。
トモエさんでも勝てない。
そんな相手を――旭将軍は倒した。
アキナ(どうして……
どうしてこんなに……胸が痛いの……?)
もし、あれがアサヒ君なら。
どうして、こんな形で戻ってくるの。
どうして、こんな言葉を叫ぶの。
どうして、こんなに遠いの。
アキナ(会いたい……
でも、怖い……
確かめたい……
でも、知りたくない……)
胸の奥で、
矛盾した感情が渦を巻く。
“生きていた”という安堵。
“変わってしまった”という恐怖。
“本当にアサヒ君なのか”という疑念。
“もしそうなら救いたい”という願い。
全部が混ざって、
息が苦しくなる。
私は、画面の中の男を見つめ続けた。
旭将軍の声が、空気を震わせるように響いた。
旭将軍「選ばれた少女だけが戦う世界など、間違っている!選ばれなかった者は、ただ傍観していればいいというのか!?
ならば私が、その平和を壊そう!!
祈りだけでは届かぬ世界に、私は拳を叩きつける!!」
拳を掲げるその姿は、まるで祈りを拒絶するのようだった。
旭将軍「絶望に屈した者には誇りを!!
弱さに打ちのめされた者には志を!!
愛する者を守りたい者には――大いなる力を!!
私が授けよう!!」
その言葉は、
誰かを救おうとしているようで、
誰かを断罪しているみたいだった。
旭将軍「現実に抗う術を欲する者、
高みを目指す者、
真の平和を望む者は、私のもとへ集え!!」
旭将軍が、両手を広げる。
旭将軍「私が証明しよう!
我々には限界など無い!
世界を救う力は、神ではなく“人”にこそあると!!」
その声は、
強くて、鋭くて、
どこか悲しげだった。
旭将軍「ゆえに私は、世界に対して戦線布告をする!!
子供を兵器にする巫女政治を打倒し、虐殺を続ける魔族を駆逐する!!
これは、人類の自由と平和を取り戻す戦いである!!」
そして、最後に。
旭将軍「我が名はアサヒ!
闇を裂き、光を導く者!!
夜明けを告げる魔王にして、革命の旗手!!
世界よ、目を覚ませ!!
未来は――俺たちの手で奪い返す!!!」
その叫びは、世界の終わりと始まりを同時に告げる鐘の音のようだった。
胸の奥が、じわりと濁った水で満たされていくようにモヤモヤし始めた。
旭将軍の声は、あまりにも遠かった。
結局、私には分からなかった。
あれがアサヒ君なのか、別人なのか。ただ、分からないまま立ち尽くすのが、何よりも怖かった。
アキナ(分からないままなんて……嫌だ。
逃げたくない。
もう二度と……あの時みたいに後悔したくない)
胸の奥で、静かに、確かに火が灯る。
アキナ「よし……確かめに行く!!」
その言葉は誰に向けたものでもなく、自分自身への宣言だった。
私は神仏合体して鬼神に変身し、旭道三段を発動した。緑のオーラが身体を包み、風が渦を巻く。
久しぶりに感じる“戦う自分”の感覚。
アキナ「ごめんねトウカちゃん!!私、岐阜城へ行って…旭将軍が本当にアサヒ君か確かめに行くよ!!だから待ってて!!必ず向かいに行くから!!」
宙に浮かびながら、手を合わせて謝る。トウカちゃんは一瞬だけ固まったけれど、すぐに、あの頃のような笑顔を見せた。
トウカ「はい!!私、いつまで待っていますから!!だから、自分を取り戻す為に行って下さい!!アキナさま!!」
その笑顔を見た瞬間、胸が少しだけ軽くなった。
アキナ(そうか……
トウカちゃんは、本気で誰かを救おうとする私が見たかったんだ)
アキナ「うん!行ってくるよ!!」
私は空へ駆ける。
風が頬を切り、胸が高鳴る。
アキナ(ああ……久しぶりだな。この感覚)
怖い。
でも、会いたい。
確かめたい。
逃げたくない。
アキナ「今度こそ……救いたい」
アサヒ君は、大巫女たちの恩送りのために戦っている。
それなら私は――
アサヒ君の恩送りが報われるために戦う。
それが、私の答えだった。




