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Truth Changes Nothing ②

 ゾルナト ― 岐阜城・地下3階広場 ―


 破壊神アキナと創造神トモエの暗殺――邪神王さまから下された命令は明確であり、迷いようがない。

 私はスニーアと共に日本へ降り立ったが、あの女の嗜好は相変わらず任務遂行を妨げる。

 少女の心を壊すことに異常な価値を置き、余計な寄り道を繰り返す。本来ならば、任務を終え、邪神王さまからの評価を得ることが最優先であるはずだ。


 しかし、予期せぬ存在が現れた。

 旭軍――壊滅したはずの組織が、旧創造神唯一派に攻撃を仕掛けてきた。

 その中心に立つ男、旭将軍。


 春風アサヒ亡き後、旭軍は瓦解したと聞いていた。それを立て直すなど、常識的に考えて不可能だ。だが、目の前の男はその“不可能”を成し遂げたとしか思えない。


 ゾルナト(この男が、組織を再興させたというのか?)


 疑念はすぐに確信へと変わった。私とスニーアの攻撃を魔法も神術も使わずに見切り、さらに、私の魔法を一度見ただけで看破した。


 これは偶然ではない。

 積み重ねられた技術と経験、そして異常な洞察力によるものだ。


 恐るべき剣術。

 驚異的な分析能力。


 この男は、単なる人間ではない。

 “脅威”として認識すべき存在だ。


 私は目を凝らし、旭将軍のステータスを見る。


 名前:旭将軍

 レベル:1

 HP:9

 MP:7

 攻撃:8

 防御:6

 魔力:5

 霊格:3


 どれも驚くほどの最弱の数値。

 スライム以下と言って差し支えない。

 いや、人間の子供以下だ。

 レベル100である私の敵ではない。

 だが――それでも、この男からは覇王のような圧が放たれている。


 ゾルナト(この男…アキナとトモエよりも厄介な存在になる)


 その確信は理屈ではなく、“観測した事実”から導かれた結論だ。


 ゾルナト「スニーア!アキナとトモエの暗殺は後にし、今はこの男を殺す!!」


 私の声は自然と強くなる。

 判断を誤れば、後に取り返しのつかない事態になる。それほどの危険性を、この男は持っている。


 スニーア「こんな雑魚モンスター以下の為に邪神王さまの最優先事項を勝手に変えていいの!?」


 スニーアが怯えたように私を見る。

 当然だ。邪神王さまの命令は絶対であり、変更は許されない。


 だが――


 ゾルナト「この男はいずれ我々に災いをもたらす!!例え我が身に代えても、この男を殺さなければならない!!

 この男は…かつて邪神王さまに恐怖を与えた、春風アサヒに近しい人間だ!!」


 スニーアの表情が揺らぐ。

 理解したのだろう。

 この男が“例外”であることを。


 ゾルナト「何よ、それ…」


 その疑問に答えるように、旭将軍が口を開いた。


 旭将軍「流石だなゾルナト。お前の判断は正しい。私が春風アサヒへと至る前に、亡き者にした方が賢明だ」


 男は手を広げる。

 その動作には無駄がなく、恐ろしいほど自然だった。


 旭将軍「さぁ…始めよう。少女を見殺しにしてきた者と少女を殺してきた者…罪人たちの殺し合いを」


 仮面の下の表情は見えない。

 だが、声の調子だけで分かる。


 この男は――

 この状況を楽しんでいる。


 真心を持つ者が一人もいないこの空間で、

 ただ一人、戦いそのものを愉悦として受け入れている。


 その事実が、私の背筋を冷たく撫でた。


 スニーア「人間風情が調子に乗るなし!!」


 スニーアの怒号が広場に響き渡る。


 スニーア「ジャグリング・ボム!!」


 大量のナイフ、玉、輪が空中に生成され、即座に旭将軍へと向けて放たれた。

 スニーアは口元を歪め、勝利を確信したように笑う。


 スニーア「避けてみろ!!とは言っても無駄だけどね!!」


 当然だ。

 あれは爆発系魔法。スニーアが投げた瞬間から、爆発のタイミングは彼女の掌中にある。回避も防御も無意味。魔法少女ですら木っ端微塵になる威力だ。


 旭将軍は――沈黙したまま歩き出した。


 ザッ…ザッ…ザッ…


 そのまま、爆発の中心へ。


 ドォオオオンッ!!


 爆炎が広場を覆い、衝撃が地面を揺らす。


 スニーア「そのまま突っ込む奴がいるかバァカ!!私が戦って来た奴で一番頭悪いわね!!」


 スニーアは高らかに笑い、勝利を確信していた。その余裕は、彼女がこれまで積み重ねてきた殺戮の経験から来るものだろう。


 スニーア「ビビり過ぎよゾルナト!コイツは大したことないわ!そこら辺の人間と一緒よ!もしかしてそれ以下…」


 ザッ…ザッ…ザッ…


 煙の中から、足音が聞こえた。


 スニーアの笑みが凍りつく。

 旭将軍が、何事もなかったかのように歩いてきたのだ。


 スニーア「嘘でしょ…魔法少女を木っ端微塵にできるほどの威力があるのよ?レベル1が、こんな強いわけないじゃない…」


 その呟きは、恐怖を隠しきれていなかった。


 旭将軍は淡々と答える。


 旭将軍「少女と比べては困るな。俺は大人だぞ?」


 その声音には、冗談めいた軽さすらあった。

 だが、その軽さこそが異常だ。

 常識的な反応を一切示さない。


 この男は――

 “人間”という分類に収まらない。


 ゾルナト(やはり、この男は只者ではない)


 私は即座に判断し、魔法を発動する。


 ゾルナト「コンシールメント」


 爆発で生じた煙に紛れ、透明化した。視界から消えると同時に、気配も極限まで薄める。


 旭将軍は、まるで当然のように言った。


 旭将軍「また消えたか。さて、どう仕掛ける?魔族」


 挑発ではない。

 ただの事実確認。

 その態度が、逆に不気味だった。


 スニーア「スプリット・スマイル!!」


 スニーアが笑顔の形をした“切断線”を三つ描き出す。

 触れたものを切断する、彼女の得意魔法だ。


 スニーア「それはあらゆるものを切り裂く斬撃!防御したり受け流すのも無駄よ!!」


 スニーアは自信に満ちていた。その魔法は、確かに強力だ。魔法少女どころか、女神すら切り裂いた実績がある。


 だが――旭将軍は静かに応じた。


 旭将軍「それが本当か、試してみようか」


 男は刀を構え、淡々と技名を告げる。


 旭将軍「星月斬せいげつざん


 放たれたのは、ただの空気の斬撃。

 魔法でも神術でもない。

 純粋な技術だけで生み出された斬撃。


 ドドドォンッ!!


 衝突の瞬間、スニーアの“最強の斬撃”が相殺された。


 旭将軍「ほぉう…俺の斬撃を相殺するとは驚いた」


 旭将軍は軽く驚いた程度だった。

 対して、スニーアは明確に怯えていた。


 スニーア「そんな、あらゆるものを切り裂く、最強の斬撃が…消えた?」


 彼女の声は震えていた。

 その反応を見て、旭将軍は首を傾げる。


 旭将軍「そんなに怯えてどうした?魔族は人間を痛ぶるのが好きなのだろ?」


 そして、低く静かな声で告げた。


 旭将軍「笑えよ」


 その一言は、魔法でも技でもない。

 ただの言葉。

 だが、スニーアの心を確実に凍らせた。


 この男は――

 恐怖を与えることに、何の感情も抱いていない。


 それが、最も危険だ。


 スニーア「このゴミカスが…!死んで後悔させてやる!!」


 スニーアの叫びは、怒りと恐怖が混ざったものだった。

 命を弄び、少女の心を壊すことを愉しんできた彼女が、ここまで感情を乱すのは初めてだ。


 スニーア「サーカス・ビースト!!」


 スニーアがスカートの中からピエロの笛を取り出し、勢いよく吹く。


 スニーア「プーッ!!」


 ライオン、象、虎――いずれも“サーカス獣”と呼ばれる召喚獣が次々と現れる。

 どれもホラーめいた外見で、見る者に不快感を与える。


 スニーア「あの男を喰らい尽くせ!!」


 サーカス獣たちが一斉に旭将軍へ襲いかかる。


 旭将軍「巌壊弦破」


 旭将軍が広範囲の斬撃を放つ。

 サーカス獣たちは次々と切り裂かれ、肉片となって散った。


 ゾルナト「コンシールメント」


 私はその斬撃の隙間を抜け、サーカス獣を透明化させる。視覚情報を奪い、死角からの攻撃を可能にするためだ。


 旭将軍「消えた?いや、透明化か」


 旭将軍は即座に状況を把握した。その反応速度は、魔族の中でも上位に位置する私から見ても異常だ。


 ゾルナト「ファントム・バインド」


 透明な鎖、縄、針を生成し、旭将軍を拘束する。針は肉体と精神に直接ダメージを与える呪いを帯びている。


 ズガガガッ!


 針が旭将軍の身体を貫く。

 だが――彼は微動だにしない。


 スニーア「透明の鎖に透明のサーカス獣!!身動きできず、どこから喰われるか分からない恐怖に怯えながら死んでいけぇええ!!」


 スニーアが怒りに任せて叫ぶ。

 私は鎖を強く握り、拘束力を最大まで高める。


 その瞬間――


 旭将軍「フンッ!」


 ザザザッ!


 ゾルナト「ぬっ!?」


 私の身体が宙に浮き、そのままサーカス獣たちへ叩きつけられた。


 ドガァッ!!


 衝撃で手綱を離してしまう。


 ズバァンッ!!ダァンッ!!ザァンッ!!


 旭将軍は手綱を鞭のように扱い、透明化したサーカス獣を次々と叩き伏せ、全滅させた。


 ジャラジャラ…


 旭将軍は鎖と縄を自ら解いていた。


 旭将軍「無茶な使い方をして、鎖と縄が緩んでしまったな」


 ゾルナト(緩むだと?

 あの鎖と縄には呪いが込められている。拘束中に動けば、肉体と精神に甚大なダメージが入るはず。それを“緩むまで動かす”とは……この男、本当に人間なのか!?)


 この強さには、必ず理由がある。

 秘密がある。

 それを暴けば、弱点を突ける。

 如何なる強敵にも弱点は存在する――邪神王さまの教えだ。


 ゾルナト(秘密を暴くには…)


 ゾルナト「こうなれば、仕方あるまい」


 私は両腕をクロスさせ、魔力を体内に集中させる。


 スニーア「ゾルナト。まさか…」


 ゾルナト「ああ。本来の私に戻る。

 そう……ドラゴンの力を使う。

 そうでなければ、この男には勝てない」


 旭将軍「ドラゴンの力?龍か?面白い。見せてみろ」


 旭将軍は、まるで期待するかのように言った。


 その声音には恐れも焦りもない。

 ただ――戦いを楽しむ者の声だった。


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