Truth Changes Nothing ①
アキナ ― 大規模公園 ―
あの後、私は破壊神の力でアサヒ君とミドリちゃんの頭に触れて
“私とトウカちゃんと出会った記憶”をそっと壊した。
ガラス細工みたいに。
静かに、跡形もなく。
もう二度と、思い出すことはない。
アキナ「……恩送り、か」
夜空は深く澄んでいて、星がひとつ落ちそうだった。噴水の水音が遠い昔の祈りみたいに響いている。私はベンチに座り、隣にはトウカちゃんがいた。
トウカ「アキナ……私ね……
アサヒの“恩返し”と“恩送り”の話を聞いたら……
なんだか……胸があったかくなっちゃって……」
恥ずかしそうに笑うトウカちゃん。その横顔が、少し泣きそうに見えた。
アキナ「……わかるよ。
私も……報われた気がしたんだ。
ずっと、誰にも届かないと思っていたものが……
ようやく誰かに触れたみたいで」
トウカ「求めてた……ってこと?」
アキナ「うん。
私たちの犠牲を……終わらせてくれる誰かを」
言葉にした瞬間、胸の奥がじんわりと熱くなった。それは痛みとも、救いともつかない感情だった。
この世界は、神に選ばれた少女が戦うのが理。
だから――
私たちの優しさは返ってこない。
私たちの祈りは届かない。
私たちの痛みは理解されない。
私たちの未来は守られない。
それが“使命”という名の呪い。
でもアサヒ君はそれを全部受け取って、返す側に回った。
優しさは届いた
祈りは無駄じゃなかった
犠牲は意味を持った
未来は、アサヒ君が守ろうとしてくれた
まるで、止まっていた時計が動き出したみたいに。
アキナ「アサヒ君の恩送りは……世界を変えるよ。
でもそれは、今までの少女たちの優しさがあったからこそなんだ」
トウカ「……それなら、どうしてアサヒは魔王に……?」
トウカちゃんの声は、夜風に溶けるみたいに震えていた。
私はそっと彼女の手を握る。
アキナ「それはね……」
星がひとつ、流れた。誰かの祈りが落ちていくみたいだった。
私は語り始めた。
三年前の真実を。
アサヒ君が“魔王”にならざるを得なかった理由を。
彼が、誰より優しいまま壊れていった過程を。
旭将軍 ― 岐阜城・地下3階広場 ―
スニーアとゾルナト。魔神十二使徒の中から邪神王が選んだ刺客。
アキナとトモエの殺害が目的であり、大巫女にとっては二人は相性は悪い。
大巫女は優しさがあるが故、スニーアの暴露とゾルナトの暗殺は効く。
旭将軍(だが、運が悪かったな)
お前たちの目の前にいるのはエゴイスト。目的の為なら手段は選ばない。
俺の心を理解したところで止めることはできない。
暗殺するなら適応してみせる。
アマネ母「バァカ!!」
汚い大声が広場を響かせる。
旭将軍(麗羽タエコか)
麗羽アマネの母。有力な政治家であり、旧創造神唯一派のトップ。組織を作り上げるカリスマ性はあるが、自身の計画失敗と命の危機で冷静さを失っているようだ。
旭将軍(惜しいな。狂っているこの世界でなければ、優秀な政治家になれただろうに)
だが躊躇わない。タエコを人質として利用する。政治家なら使い道はある。
タエコ「お前が戦うのはあの神界と人界の支配者である邪神王さまの魔神十二使徒よ!?それにゾルナトさまとスニーアさまは何百人の魔法少女と何十人の女神を殺した魔人の最高位!!人間であるお前が勝てる訳無いだろうが!!」
旭将軍(知っている。部下に調べさせたから)
俺は表情を変えなかったが、内心ではタエコの発言に呆れていた。
ゾルナトとスニーアはタエコの仲間になったわけではない。春風アサヒの暗殺という一点で利害が一致しただけだ。それを“誇り”のように語るのは、状況判断として不適切だ。
しかし、魔神十二使徒とは初戦闘。しかも二人同時。油断はできない。
旭将軍(普通なら、恐怖を抱くのだろうが…)
俺の内部では恐怖よりも別の反応が生じていた。強敵と対峙することで、自分の技術を試せる。その機会が訪れたというだけの話だ。敵が強ければ強いほど、技術の精度は上がる。
旭将軍「百も承知。むしろ我が好敵手として申し分ない。魔神十二使徒の力、見せてもらおうか」
言葉は淡々としているが、判断は明確で行動方針はすでに固まっていた。
スニーア「生憎、私はアサヒをぶち殺したいの。人間に構っている暇なんて一秒もないわよ」
スニーアの声は軽薄だが、殺意は相変わらず強い。
ゾルナト「スニーア。私が片づけておく。タイムスリップは任せた」
スニーア「マジで!?やった!!了ぉ解ぃい!!」
スニーアの満足した笑顔と同時に、ゾルナトの姿が掻き消えた。
旭将軍(瞬間移動か、空間移動か——)
思考は一秒もかからない。
瞬間移動なら移動前後に“空間の歪み”が残る。
空間移動なら動きの軌跡が僅かに発生する。
どちらも——ない。
旭将軍(ならば、別の手段か)
背後の空気がわずかに沈む。
俺は振り向きざま、刀を振り抜いた。
ガキンッ!!
金属音。火花。
不可視の刃が、俺の刀に触れた。
旭将軍「透明化だな」
結論を口にしながら力任せに振り払う。見えないゾルナトの身体が、空気を裂いて吹き飛ぶ。
ザザァーッ
地面を擦る音。
旭将軍(壁に叩きつけられる寸前で踏みとどまったか。姿は見えないが、殺気の流れで位置は把握できる。暗殺型としては優秀。そして奴らは魔神十二使徒。他に何か仕掛けるのは確実。用心せねば)
スニーア「はぁ!?何で分かるのよ!!暗殺スキルレベル100よ!?」
旭将軍(暗殺スキル?)
ゲームのような言葉。
魔神がそんな低俗な概念を口にする理由が分からない。
旭将軍(まさか——こいつらと俺が見ている世界は違うのか?)
邪神王だけが異質だと思っていたが、どうやら違うようだ。
旭将軍(興味深い。この戦い、得るものが多そうだ)
胸が高鳴る。
未知を解明するのは、戦いの中で最も愉しい瞬間だ。
俺は刀を構え直し、次の一撃を迎える準備を整えた。
静かに。
冷たく。
確実に。
——狩るために。




