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魔族でも神でもない第三の存在

 アサヒ ― 11年前 ショッピングモール ―


 倒れていた。

 血だらけで。

 だけど、それは知らない人じゃなくて――幼稚園でよく遊んでくれた“お姉ちゃん”だった。

「私も面頬仮面が大好き」って言ってたから、良く覚えてる。


 床に広がる赤い色が、僕の靴の先まで来ていて、怖くて、手に持っていた面頬仮面の人形を落とした。


 カシャン


 白かったはずの面頬仮面が、赤く染まっていく。僕の大好きなヒーローが、まるで“間違い”みたいに見えた。


 面頬仮面は弱い人を助ける。悪い怪物を倒す。絶対に諦めない。そういうヒーローだ。


 でも、現実は違った。


 戦っていたのは、神様に選ばれた“女の子”だけだった。


 大人たちは、ただ見ていた。応援して、喜んで、でも負けそうになったら怒って、悪口を言って――そして今日、僕の知っているお姉ちゃんは負けた。


 後から来た別のお姉ちゃんたちが怪物を倒したけど、僕は何もできなかった。僕は弱いし、選ばれてないから。


 泣きながら怪物を倒したお姉ちゃんたちが駆け寄ってきて、負けたお姉ちゃんの手を握っていた。


 でも――負けたお姉ちゃんは、笑っていた。


 どうして。どうして笑えるの。


 僕は声に出してしまった。


 アサヒ「負けたのに、どうして笑ってるの…?」


 その時、水色の髪をした大巫女のお姉ちゃんが僕の前にしゃがんだ。


 水色の髪の大巫女「それはね…君を守れたからだよ」


 泣いているのに、笑っていた。悲しいのに、優しかった。僕を責めなかった。何もできなかった僕を。


 胸がぎゅっと痛くなった。


 でも、もしもっと強い怪物が来たら?このお姉ちゃんたちはどうなるの?


 頭の中に、防衛団の人たちが浮かんだ。面頬仮面に助けられてばかりでも、それでも怪物に立ち向かっていた人たち。


 弱くても、逃げない人たち。


 面頬仮面は、そんな人たちと一緒に戦っていた。それが“世界を守る”ってことじゃないの?


 なのに――どうして神様は女の子ばかり選ぶの?どうして僕たちは、それを当たり前だと思ってるの?


 僕は血だらけの面頬仮面を拾った。赤い色が、手にべったりついた。


 ヒーローが間違ってるんじゃない。この世界が、ヒーローを必要としていないんだ。


 そう思った瞬間、胸の奥が熱くなった。


 水色の髪のお姉ちゃんが、僕の顔を覗き込んだ。


 水色の髪の大巫女「君?どうしたの?」


 その優しい顔が、驚きに変わる。


 アサヒ「お姉ちゃん。僕は……僕は、この世界をぶち壊す!!」


 ヒーローを否定する世界なんて、いらない。でも僕は面頬仮面じゃない。神様に選ばれた女の子でもない。


 だから、ヒーローにはなれない。


 なら――“防衛団の隊員”になってやる。


 弱くても、立ち向かう。逃げない。諦めない。


 アサヒ(そのためには、まず……ヒーローを否定するこの世界を壊す!!)


 血で赤く染まった面頬仮面を、ぎゅっと握りしめた。


 僕が面頬仮面を好きになったこの気持ちが、間違っていないって証明するために。

 そうすれば、今を生きているお姉ちゃんたちを守れる。

 戦って、泣いて、それでも笑おうとするお姉ちゃんたちを。


 それがきっと、

 もう恩を返せなくなった“あのお姉ちゃん”への恩返しになる。


 アキナ ― 岐阜城・地下3階広場 ―


 旭将軍「確かお前たちはアサヒが生きている過去に戻りたいのだったな」


 旭将軍がスニーアとゾルナトに刀を構える。


 アキナ「そうですけど…」


 私は、取り敢えず返事をした。そしたら、旭将軍はとんでもないことを提案して来た。


 旭将軍「ならばアサヒの近くに大空ミドリと言う不死鳥の力を持つ大巫女がいる。彼女はあらゆる怪我や病を治すことができる。タイムスリップをして彼女と合流しろ。もし彼女がアサヒと出会っていない時間なら富士山へ行け」


 アキナ「えぇ!?」


 思わず大声で驚いてしまった。でも、旭将軍は冷静だった。


 旭将軍「この状況で友を救うにはそれしかない。やれ。過去を変える為ではなく、世界の為でも無い。今を生きる友の為に。君の力は、本来その為のものだろう?」


 今の生きる友の為に。


 その言葉が、グサリと胸を指す。


 アキナ「違う…私は、そんな優しくて強くない。本当の私は、臆病で、弱くて……」


 旭将軍「そんなこと知っている。人とはそういうものだ。しかし、君は死ぬことを前提に動いている。死のうとすることは許さん。如何なることがあっても君が人々を守っていたことは事実。ならば報われなければならない。その為なら、俺は外道になろう」


 アキナ「外道?」


 ガシッ


 突然、旭将軍が私の腕を掴んだ。


 旭将軍「その歪んだ精魂。過去のアサヒに叩き直して貰うといい」


 アキナ「それって、どういう…」


 旭将軍「友を離すなよ」


 旭将軍が、トウカちゃんごと私を投げた。


 アキナ「ことぉおおおおお!?」


 スニーア「なっ、投げたぁあ!?」


 その場の全員が驚いていた。


 ゾルナト「いや、あの投げた先は…タイムスリップの切れ目だ!!」


 研究員「キャアアアッ!!」


 研究員の叫び声が響いた。


 髪喰いババァ「髪髪!!」


 アキナ「髪喰いお婆さん!?」


 突然出て来た髪喰いお婆さんに驚く。


 アキナ(確かアサコさんと一緒にどこかへ行ったって聞いたけど、ここに来ていたの!?でもどうして!?)


 研究員「何コイツ!?髪引っ張らないで!!」


 研究員がタイムスリップの操作盤から手を離した。その時、タイムスリップできる空間の亀裂が、塞がっていく。


 スニーア「しまった!!早く私も行かないと!!」


 スニーアが空間の亀裂に走る。


 旭将軍「させんよ」


 でも、一瞬でスニーアの前に立ちはだかる。


 スニーア「いつの間に!?」


 ゾルナト「まさか、神速か!?」


 何が何だか分からないけど、とにかく私は、トウカちゃんを抱き締めたまま、空間の亀裂の中へ入る。その刹那、旭将軍を見た。


 旭将軍「どうせ過去は変わらん。アサヒを狂わせたのは、君たちの存在なのだから」


 仮面で見えなかったけど、彼は笑っているように見えた。


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