歪み、堕ちていく
アキナ ― 岐阜城・地下3階広場 ―
スニーアの笑顔を見て、胸からジワジワと黒いものが広がった。
この子は私を苦しむのが大好きなんだ。だから、きっと何かを企んでいる。
だけど私は逆らえない。逆らえば、過去に戻ってアサヒ君を救えない。
スニーア「その子ってアキナの友達よね?どうして神使を出して隠れていたのかしら?もしかして、裏切るつもりだったの?」
アキナ「ちっ、違う!私は、トウカちゃんとは、もう……」
友達じゃない。
そう言いかけた時、ズキリと胸が痛んだ。あんなにも私を慕ってくれた友達を、私は否定しようとしている。
スニーア「言い訳は無駄だよ?だって、アキナはトウカを抱き締めているんだもの。それでも私たちの味方だと言うのなら…トウカを殺してよ」
アキナ「え……?」
耳を疑う私に、スニーアが顔を近付ける。
スニーア「当たり前でしょ?だって私はトウカを仲間にしていないよ?それなら敵だよね。敵は排除しないと」
アキナ「だっ、だけど…!トウカちゃんは……」
トウカ「ゴフッ……」
トウカちゃんが血を吐き出す。背中からも大量の血が溢れている。このままだと、死んでしまう。
アキナ「トウカちゃん!!」
私はトウカちゃんに呼びかける。彼女が気を失わないように。
スニーア「馬鹿でしょお前ぇええ!!」
ガッ!!
スニーアが笑いながら私の顔を蹴った。私はトウカちゃんを抱き締めたまま倒れ込んだ。
アキナ「うぅ…」
そして彼女は私の背中を蹴り続けた。
スニーア「何泣いてるのよ気持ち悪い!!まさかトウカちゃんは友達だから傷つけたくないってこと?
今更良い子ちゃんヅラしないでよ!!お前はもう神祓特務隊の裏切り者なんだからさぁあ!!」
私はただ泣いていた。破壊神や天乃家の当主、神術監になっても、私は泣くことしかできない。
スニーア「へぇ〜。どうしても退かないんだ?だったら…過去へ戻れなくなってもいいのかな?」
過去へ戻れなくなる…その言葉に、一瞬固まる。
スニーア「アキナ。貴女はアサヒを救いたいんでしょ?それなら…分かるよね?」
アキナ「アサヒ…君……?」
アサヒ君の名前が耳に入った時、アサヒ君と一緒に過ごした日々が頭の中を駆け巡る。
短かったけど、アサヒ君と一緒にいた頃は楽しかった。
そして、過去に行けば、またあの頃に戻れる。
今の私は、三年前みたいに強くなれない。
私は鬼さんと神仏合体をして、トウカちゃんの顔を両手で包んだ。
アキナ「トウカちゃん、ごめんね……私、アサヒ君に会いたいの。だから……」
私は涙声で言う。泣く資格なんて無いのに。両手に力を入れて、トウカちゃんの顔を潰そうとする。
トウカ「ヒュー…ヒュー…」
トウカちゃんが苦しそうに呼吸をする。そして、私を睨んだ。
トウカ「……この、疫病神」
ドガァアアンッ!!
天井が、まるで紙のように裂けた。
光と影が渦を巻き、
何かが真上から落ちてくる。
スニーア「何!?」
神父の魔族「むっ!」
二人の声が重なる。
空気が震え、広場全体が一瞬静止したように感じた。
???「巌壊弦破」
その声は、
落ちてくる瓦礫よりも重く、
しかし不思議なほど澄んでいた。
ズバァンッ!
広い範囲に“衝撃の線”が走り、スニーアと神父さんの魔族が一斉に距離を取る。
二人の表情が険しくなる。
スニーア「ゾルナト!誰よこいつ!?」
ゾルナト「分からん。しかし……先程の太刀筋、神霊クラスだと見ていいだろう」
スニーア「神霊クラス!?こんな魔力を感じないただの人間が!?」
スニーアの声が震えていた。ゾルナトは真剣な表情で男を見つめている。
スニーア「ゾルナト。君が人間にそんな過大評価するなんて珍しいね」
ゾルナト「だが、スカルさまには到底及ばない」
スニーア「それなら大丈夫だね」
二人が構えを取る。
しかし――
男はまるで興味がないかのように、
ただ静かにタイムマシンを見ていた。
アキナ(……誰?)
私は、彼の背中を見つめる。
赤い鬼の面頬。
白い獅子の頭。
緑の道着に、赤い法被。
そして――
黄色い目。
アキナ(見覚えが……ある)
アサヒ君の師匠である白山サイモリ先生の格好。でも、声は高木ユウマさんに似ていた。
高木ユウマさんは、六年前に当時の創造神を守った大巫女のユミコさんのお父さん。軍人で旭道を軍事転用させる為にクーデターを起こした首謀者でもある。
だけど、二人とも、もうこの世にいないはずなのに……
アキナ「誰なの……?」
気づいたら、口が勝手に動いていた。
知りたかった。
この人が何者なのか。
アサヒ君の“未来”に関わる人なのか。
男はゆっくりとこちらを振り返り、静かに名乗った。
旭将軍「俺の名は旭将軍。神話に終止符を打ち、新たな世界を創造する男だ」
その言葉が落ちた瞬間、広場の空気が変わった。
まるで、
“物語そのものが書き換わる音”がした。




