変わりゆく戦術
長拓 ― 金華山 ―
ドドドドドドッ!!
山が震える。
だが、私の心は静かだ。
バァンッ!!バァンッ!!バァンッ!!
支援型の射線が交差し、少女の動きがわずかに乱れる。
マカナ「くっ……しつこい!!」
その声は、戦場の雑音の一つに過ぎない。だが、興味深い“揺らぎ”ではある。
長拓(……良い反応だ。恐れではなく、苛立ちか)
私は部隊に指示を送る。
長拓「神術を使わせるな!!彼女の“間”を奪い続けろ!!」
マカナは射線を読み、身を翻す。その動きは確かに鋭い。
長拓(やはり……目白ほどの精度は望めんか)
目白ならばこの制限された動きの中で“どこを狙えば最も効果的か”を即座に見抜き、マカナを撃ち抜くだろう。
三人の強襲型旭人が砲撃と狙撃の網をすり抜けるように前へ出る。
ドドドドドッ!!
バァンッ!!バァンッ!!
大剣とライフルを構えた一体がマカナへ向け、光の奔流を放ちながら距離を詰めてくる。
マカナ「このっ!」
黒い羽根が展開し、迫る衝撃を受け止める。だが、衝撃の重さに羽根が軋む。
マカナ「獄刀火纏!!」
太刀に炎が走り、マカナは一気に踏み込み、旭人を斬る。
ザンッ!
そして炎の奔流が強襲型の装甲を包み込み、爆風が山肌を揺らす。
ドォオオオンッ!!
強襲型の一体が後方へ吹き飛ばされていく。
マカナ「硬い!」
その背後でもう一体の強襲型が両手に大剣を構え、影のように迫る。
マカナ「くっ……!」
振り向きざま、右手に太刀、左手に薙刀。二つの刃が交差し、迫る大剣を受け止める。
バチィイイッ!!
火花が散り、空気が震える。
しかし――
マカナの視界の端で砲撃の光が再び収束し、三体目の強襲型が距離を詰めてくる。
マカナ(このままでは……!)
多方向からの圧力。回避の余地が削られていく。紫の光が、少女の周囲に立ち上がった。
マカナ「温存したかったのだが…仕方がない!
旭道初段!!」
長拓(……やはり、追い詰めれば出してくるか)
マカナ「ふんっ!」
ドカッ!
強襲型旭人「ぬっ!」
マカナは強襲型旭人を蹴り、砲撃の盾にする。
ドガァンッ!!
マカナ「これで!」
彼女は三体目の強襲型旭人に向け、薙刀を投げる。
カキンッ!
薙刀は大剣により弾かれる。だが、その隙をマカナは見逃さなかった。
マカナ「はぁあっ!!」
ザンッ!!
炎の太刀が煌めき、強襲型旭人を斬る。
ドガァアアンッ!!
炎の爆発が巻き起こる。
強襲型旭人「まだだぁあ!!」
しかしその爆発の中から、斬られたはずの強襲型が背後からマカナの動きを封じる。
マカナ「なっ…何だ!?」
マカナは踠くが、三体目の強襲型は離さない。
長拓(……良い。“役割”を果たしたな)
長拓「よくやった!!今だ!!」
凡庸型の三体がシールドを展開し、マカナの動きを押し留める。
バチィイイッ!!
紫の光が重なり、マカナの表情がわずかに揺れた。
マカナ「この程度…! 雷神―――」
長拓「撃てぇええ!!」
マカナ「……え?」
その一瞬の“理解の遅れ”を、私は確かに見た。
ドドドドドドッ!!
支援型は味方の凡庸型ごと戦場を飲み込むように砲撃を放つ。
マカナ「まさか…味方ごと撃つのか!?何故こんなことを!?」
私は静かに答える。
長拓「こうでもしなければ、貴女たちには勝てないからだ」
ドガァアアンッ!!
光が収まり、凡庸型の三体が落下していく。
だが――
少女はまだ空にいた。
マカナ「ハァ…ハァ…ハァ……」
装束は乱れ、呼吸は荒い。
それでも、落ちていない。
長拓(……やはり強い。だが、強さとは“個”ではない。戦場とは、形を与える場所だ)
長拓「流石、神術監。一筋縄ではいかない」
マカナ「当たり前だ。大巫女を、舐めるな!」
マカナの威圧が空気を震わせる。しかし、私は静かに笑った。
長拓「舐めないで頂きたいのは、そちらも同じことだぞ?」
マカナ「何を言って…」
パァンッ!
乾いた銃声が山に響く。マカナの動きが一瞬止まった。
長拓(……来たか)
視線を巡らせるまでもない。この精度、この間合い。目白が合流したのだ。
マカナは頭を撃たれ、静かに落ちて行った。
私は味方の生命反応を確認する。
混乱の中でも、冷静に。
長拓「全員……無事か」
反応はすべて生きている。マカナの攻撃も、支援型の砲撃も受けてなお。
長拓(……死者が出ないとはな)
思わず、感心すら覚える。
長拓(旭人の頑丈さは、やはり規格外だ)
そしてその頑丈さを“設計した”人物を思い浮かべる。
長拓(これほど素晴らしい兵器を作るとは……
旭将軍は何でもできるな)
戦闘、指揮、兵器開発。
どれも一流ではなく、頂点。
新人類――エヴォルヴァーとなったとはいえ、これは常識の範疇を超えている。
長拓(神ですらも、ここまで“戦場”を作れはしない)
私は静かに息を吐く。
長拓(あの子は……天才だ)
その事実が、私の背筋を震わせる。
恐怖ではない。
畏敬でもない。
ただ――
“この戦場は、あの子が創った舞台だ”
という確信。
トウカ ― 岐阜城・地下3階広場 ―
トウカ(……入れた。本当に、ここまで来てしまった)
炎の匂いがまだ衣に残っている。山火事の混乱に紛れて潜り込んだはずなのに、胸の奥は妙に静かだった。
スニーア「予想だけどさぁ、攻撃してきたの旭軍だよ。
岐阜城にも侵入してるみたいだし、早くタイムスリップした方がいいよ?」
スニーアの声が響く。軽くて、薄くて、どこか嘘みたいな声。
トウカ(……スニーア!?
“歩く生ゴミと一緒にしないで”って言ってたくせに!
なんで、あんたがそこにいるのよ!!)
胸の奥がざわつく。
怒りとも、嫌悪とも違う。
もっと、黒くて重いもの。
スーツの女性が不安げに首謀者を見る。
スーツの女性「麗羽先生……」
トウカ(麗羽……
どこかで聞いたことがある……
でも、思い出せない)
麗羽「そっ、そうね!早くタイムマシンを起動して!!」
麗羽は焦ったように研究員へ指示を飛ばす。
巨大な鋼鉄の柱が光を帯び、空間がゆっくりと歪み始めた。
ジジジジ……
空気が裂けるような音。
視界の中心に、黒い穴が開く。
トウカ(あれが……タイムマシン……?あそこに入れば、過去に……)
ズバンッ!
世界が、一瞬で静かになった。
トウカ「……え?」
音が遅れて届く。
自分が倒れたことに、しばらく気づけなかった。
トウカ「な、に……が……?」
背中に走った痛みを感じて、やっと自分の背中が斬られたのだと分かった。
???「見ない顔だな。つまり、敵か」
輪郭が滲むように、スキンヘッドの神父が現れた。その男からは、禍々しい魔力を感じた。
トウカ(……魔族……?どうして……ここに……)
男は憐れむような目でこちらを見下ろす。
???「哀れな少女よ。この城にいなければ、死なずに済んだものを」
男の右手は、血で濡れていた。
トウカ(……手で……?
私の身体を……?
そんな……)
思考が追いつかない。
世界が遠ざかる。
色が薄くなる。
モンハナシャコが前に出る気配がする。
でも、その姿も揺れて見えた。
トウカ「こんな……ところで……!」
アキナ「トウカちゃん!!」
その声だけが、鮮明だった。
世界の色が戻るほどに。
アキナ「そんな……!トウカちゃん!?大丈夫!?ねぇ……!」
アキナの手が震えている。
その震えが、胸に刺さる。
???「ん?」
男がアキナを見る。興味とも、警戒ともつかない視線。
そしてスニーアが、まるで新しい玩具を見つけた子どものように笑って近付いて来た。
スニーア「ありゃりゃ〜?これはどういうことかな〜?アキナ〜?」
その声を聞いた瞬間、私は理解した。
スニーアはまた、アキナを壊そうとしている。その確信だけが、意識の底に沈んでいく私を繋ぎ止めていた。
エヴォルヴァー
新人類の呼称。肉体と脳が強化されており、危機察知能力もあると思われる。しかし、覚醒が確認されたのはアサヒ一人だけなので詳細は分かっていない。




