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狙撃兵vs大巫女

 目白(めじろ) ― 遠目影山 ―


 目白「ふぅー……」


 木の枝にもたれ、息を吐く。

 さっき撃ったラボコートの少女は殺してはいない。威力を落とした弾で身体中を纏っていた“寿量”を砕いただけだ。そしてその反動で気を失った。


 目白「……まあ、いい気分じゃねぇな。当たり前か」


 エネルギーを静かに装填する。手つきは慣れているのに、胸の奥は妙にざらついていた。


 目白(子供をいじめたくて兵士になったわけじゃないしな……

 みんなも、同じ気持ちなんだろう)


 スコープを覗き、次の標的を探す。


 サァ……


 風が吹く。

 支援型旭人のおかげで寒さは感じない。

 だが、悪寒だけは誤魔化せなかった。


 ライフルを下ろし、遠くを見渡す。木々が揺れる中で一つだけ“揺れ方の違う”影がある。


 目白「はぁ……

 一人の狙撃兵のために大巫女がわざわざここまで来るか。

 俺の実力が、やっと認められたってことかな?」


 口元が勝手に歪む。

 通常兵器が化け物に通じず、誰にも相手にされなかった俺が――

 今は“神の力を持つ少女”に狙われている。


 それは、皮肉にも誇らしかった。


 目白「いいぜ。少しだけ遊んでやる」


 プランDの信号を全隊に送る。

 逃げる選択肢はあった。

 だが、俺は動かなかった。


 向かってくる大巫女を、ただ静かにスコープの中心へ迎え入れる。


 ヒマリ ― 新開洞 ―


 私の神使は狐。

 能力は変化。


 今は神仏合体の姿のまま、細長い蛇へと変化して、

 マヤを狙った狙撃手のもとへ向かっていた。


 ヒマリ(アマネたちは、マカナが来てくれたから大丈夫。私は、あの狙撃手を止めないと)


 マヤを撃った人は炎の中でも正確に狙ってきた。きっと、ただの兵士じゃない。

 だからこそ、先に動きを封じなければならない。


 ヒマリ(マヤが撃たれた方向……あの山の方。

 狙撃手は接近戦が苦手なはず。できるだけ近付いて――)


 バァンッ!


 目の前に光が走った。

 銃弾……?いや、エネルギー弾。


 ヒマリ(もう……気づかれたの?)


 あと一歩速ければ、私は倒れていた。

 寿量の気配は感じない。

 魔力の反応もない。


 ヒマリ(……感知は頼れない。

 だったら――)


 私は神仏合体の姿に戻る。

 白無垢に、狐の耳と九つの尻尾。

 どう見ても、的になる姿。


 でも。


 ヒマリ(……それでいいの。

 私が囮になれば、みんなが助かる)


 私は周囲の草をむしり取る。

 それらを掌で包み、息を吹きかける。


 すると草は、

 隼に、チーターに、ダチョウに――

 速さを象徴する動物たちへと変化していく。


 ヒマリ(お願い。

 あの人の注意を、少しだけ……私から逸らして)


 私は彼らを撃ってきた方向へ走らせた。


 目白 ― 遠目影山 ―


 目白「変化した……ってことは、山吹ヒマリか」


 声に出した瞬間、空気がひりついた。

 山吹ヒマリ。

 山吹家当主で神術監のひとり。

 大巫女の中でも最上位――創造神に最も近い存在。


 そんな相手が俺ひとりを追ってきている。


 目白(……ずいぶん買われたもんだな)


 周囲の茂みが揺れる。足の速い動物たちが四方からこちらへ向かってくる。


 目白(囮か。まあ、無視すれば面倒なことになる)


 バァン、バァン、バァン、バァンッ!


 淡々と引き金を引く。

 撃たれた動物たちは草へと戻っていく。


 目白(足止めが狙いってわけだ)


 ピピピッ


 レーダーが反応する。

 寿量の気配――背後。


 俺は迷わず振り向き、銃口を向けた。


 ヒマリ「バレた!?」


 目白「その格好、目立つんだよ」


 白無垢に九つの尻尾。

 狙ってくださいと言わんばかりだ。


 バァンッ!


 撃ち抜いた――はずだった。


 目白「……木の枝?」


 撃ち抜かれたのは、ヒマリに化けた枝だった。


 目白(いや……枝を自分に化けさせたのか。じゃあ本体は――)


 蛇「シャーッ!」


 足元に蛇。

 反射的に撃つ。


 だが、何も起きない。


 目白(違う。ただの蛇だ。どこだ…?)


 ひらり、と葉っぱが落ちる。

 その瞬間――


 ポンッ


 葉っぱがヒマリへと変わった。


 目白(葉っぱに化けてたのか……やるな)


 思わず口元が歪む。

 苛立ちと、認めざるを得ない感情が混ざった笑い。


 目白「……流石、神術監だな」


 ライフルを構え直す――

 が、遅かった。


 ヒマリが長距離用ライフルを掴み、手に持っていた枝を刀へと変化させ、俺の首元へ静かに添えた。


 目白(妖刀・龍王丸……旭将軍の武器にまで化けさせるのか。

 本当に、なんでもありだな)


 ヒマリ「動かないでね?私、命を奪うことはしたくないから」


 その表情は脅しではなかった。悲しみを含んだ、お願いの顔。


 ……やりにくい。


 白無垢に狐の耳と九つの尻尾。

 戦いとはかけ離れた、柔らかい存在。

 だからこそ―――


 目白「……解せんな」


 口から漏れたのは怒りでも焦りでもない。ただ、胸の奥に沈んだ“呆れ”だった。

 眉がわずかに動く。

 それだけで十分だった。


 ヒマリが小さく首を傾げる。


 ヒマリ「え?」


 その隙に旭道を使う。


 目白「旭道初段」


 俺が言うと、スーツのAIが即座に反応した。


 AI「旭道システム起動」


 紫の光が皮膚の下から滲むように立ち上がる。次の瞬間には、俺はヒマリの前から“抜け落ちて”いた。

 足音も、気配も残さず。


 ヒマリは驚いたが、すぐに理解したらしい。


 ヒマリ「……旭道」


 目白「ご名答。そんな驚くほどじゃないだろ。お前だって使えるんだからな」


 ヒマリは静かに息を吸い、俺を見つめた。


 ヒマリ「旭道はアサヒの血を飲まないと使えない。でも……あなたのスーツからアサヒの寿量を感じた。旭道が“システム”として組み込まれてるんだね?」


 目白「……ふっ」


 喉の奥で笑いが漏れた。

 声にならない、乾いた笑いだ。


 目白(ヒマリは勘が鋭く、状況把握が早い。旭将軍の言った通りだな。こういうタイプは、狙撃兵にとって一番やりにくい)


 俺は両手を軽く広げた。

 降参でも挑発でもない。

 ただ、“そういうことだ”という合図。


 目白「流石だよ、山吹ヒマリ。十三歳で山吹家当主、神術監。肩書きだけじゃないってことだ」


 ヒマリは視線を落とし、胸の奥に沈む悲しみを隠しきれずに言った。


 ヒマリ「こんなことができるのは旭軍だけ。アサヒの死で壊滅したって聞いたけど……まだ残っていたんだね」


 目白「当たり前だろ。少女を戦わせるのが正しいなんて間違っている。

 戦場は俺たち兵士の場所だ。少女が立つ場所じゃない」


 言葉は平坦。

 だが、その奥には“諦め”のような静かな怒りが湧き上がった。


 俺は長距離用ライフルを静かに構えた。


 目白「賢いお前なら分かるだろ。いずれ、兵士は国を守る存在に戻る。

 なのに……どうしてお前たちは俺たちの存在意義を奪う?お前たちは戦わなくても人を救えるだろ?それなのに、お前たちは…少女は何のために戦ってる?」


 ヒマリは迷いなく答えた。


 ヒマリ「守りたい人がいるからだよ」


 その目は真っ直ぐで揺らぎがなかった。だからこそ胸の奥がざらついた。


 痛みを抱えて、それでも笑う。

 怖いのに、前に出る。

 自分より他人を優先する。


 目白(お前たちの生き方は正しい)


 しかし、そういう目は、戦場では脆い。


 目白「アサヒのことか。

 だが、アサヒはそれを望んでいない。それなのにお前たちはアサヒを苦しめるかように戦い続ける。

 矛盾してるだろ」


 ヒマリ「そっ、それは……」


 ヒマリの目が揺れた。

 やはりアサヒに何か思うことがあるのだろう。その一瞬の迷いが、戦場では致命的になる。


 バァンッ!


 引き金を引く動作は呼吸と同じくらい自然だ。迷いも、感情もない。


 ドサッ…


 ヒマリは倒れた。

 だが命は奪っていない。

 ただ気を失わせただけだ。


 目白(……思っていたより早く終わったな)


 プランDをキャンセルし、プランAへ戻す。その操作も淡々と行う。


 目白(精神が不安定とはいえ……寿量が硬すぎる。調子が良かったら、俺が負けていたかもな)


 だが、それは彼女が弱っている証拠でもある。


 目白(それでも戦うなんてな。世界は残酷だ。だからこそ――)


 夜空を見上げる。

 星と月が静かに瞬いていた。


 目白(夜明けが必要なんだ。

 これは、そのための戦いだ)


 神仏合体が解け、制服姿に戻ったヒマリを見下ろす。

 その表情には怒りも喜びもない。

 ただ、淡々と。


 目白「……悪く思うなよ」


 そして、金華山へ向けて飛び立った。

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