理の反逆者達
??? ― 洞窟内 ―
洞窟は息を潜めていた。湿った岩肌に灯るわずかな光が、緑の道着と赤い法被を纏う男の影をゆらりと揺らす。
男の赤鬼の面頬と白獅子の兜が、素顔を闇に沈めていた。その視線の先、岩壁に固定された甲冑――緑のパワースーツが、静かに佇む。
それは古の武者鎧を未来素材で再構築したかのような異形の兵装だった。
曲線と装甲板は生き物の筋肉のように連結し、頭部のデュアルアイは感情を排した一条の光のみを宿す。人の顔を模さぬその造形は、近づくほどに“兵器”としての冷たさを露わにする。
肩と脚には重装甲が集約され、逆三角形の威容を形づくる。
巨兵のように戦場を踏みしめ、武者のように舞う――そんな矛盾を抱えた存在感が、洞窟の空気を震わせた。
背には二対の推進器官。
肩には翼のように展開する巨大な盾。それはただの兵装ではなく、一つの“戦力概念”だった。
男は低く呟く。
???「……遂に完成した」
三年。
その歳月を費やし、誰もが旭道を扱える兵装を作り上げた。
その名は―― 旭人。
???「この甲冑を着れば、誰もが旭道を使い、魔族を討てる。大巫女と魔法少女の時代は終わる。これより先は、我らの時代だ」
歓喜は一瞬。
男の黄色い眼光はすぐに戦場の指揮官のそれへと変わる。
???「だが、それもこの戦に勝てばの話だ。そうだろう?長拓少佐、川波少佐」
振り返ると二名の将校が直立不動で待機していた。
サユリは静かに答える。
サユリ「左様でございます、旭将軍。兵たちは、この刻を三年待ち続けました」
長拓が続ける。
長拓「大巫女と魔族が旧創造神唯一派と手を組んだ今こそ、一網打尽にする好機。舞台は整っております」
旭将軍は妖刀・龍王丸を抜き、冷たい光を洞窟に走らせた。
旭将軍「ならば歴史に刻むぞ。我々が太陽となり、世界に夜明けをもたらす。――諸君らの死力、決して無駄にはせん」
その声音は戦端を開く鐘の音のように洞窟へ響いた。
スニーア ― 岐阜城・最上階 ―
タイムスリップの準備は、静かに淡々と進んでいた。まるで誰かの運命を壊す儀式みたいに。
アキナの目的は分かっている。
――アサヒを守りたい。
その願いは、きっと綺麗で、真っ直ぐで、救いを求める祈りみたいなもの。
でも、叶わない。
だって、アサヒは私が殺すから。
アキナに気づかれないよう、そっとマーキングしておいた。こっそり一緒に時間を越えれば、すぐに彼女の元へ行ける。この計画を知っているのは私とゾルナト、それから旧創造神唯一派の一部だけ。
私は胸の奥がふわふわして、思わず笑ってしまう。
スニーア「楽しみだなぁ……。また目の前でアサヒが死んだら、アキナはどんな顔をするんだろう?どんなふうに壊れるんだろう?」
狭い部屋の中で私はくるくると踊る。新しいおもちゃをもらった子どもみたいに。
ゾルナトが言う。
ゾルナト「アキナだけでなく、ヒマリとマカナも堕とすとは、驚いた」
その言葉に、私はぴたりと動きを止めた。
スニーア「違う。ヒマリとマカナは勝手に来ただけ」
私は不機嫌なまま夜景に視線を落とす。だって、私はまだ二人に触れていない。壊してもいない。なのに、彼女たちは勝手にこちら側へ来てしまった。
スニーア(アサヒを守りたいのは分かる。でも、どうして……?)
記者が意地悪で情報を漏らしたらしいけど、
どうして記者が知っていたのか。
どうしてそんなことを言ったのか。
“意地悪”だけでは説明できない違和感が胸に残る。
でも――
スニーア「ま、いっか」
どうせ救われない。
もう一度、愛する人を失って、もっと深く壊れる。
スニーア(そしたら、今度はどんなふうに壊してあげようかな)
月を見上げる。
魔法少女たちは壊し尽くして飽きてきた。
だから、大巫女がどんな絶望を見せてくれるのか、楽しみで仕方ない。
少女の絶望は、世界でいちばん甘い。
スニーア(これからも、もっともっと、壊し――)
ドガァアアアアンッ!!
スニーア「きゃっ!」
突然の爆音。
床が跳ね、空気が震え、私は木の手すりにしがみつく。岐阜城の下から、黒い煙がゆっくりと立ち上る。
スニーア「もしかして、トモエ!?」
ゾルナトが首を振る。
ゾルナト「いや、トモエは魔族共存連盟の会議で動けない。他の大巫女も岐阜には来ていない」
スニーア「じゃあ誰の攻撃なのよ!」
ゾルナト「分からん……だが、魔力も寿量も妖量も感じない」
魔法少女でも、大巫女でもない。
つまり――
スニーア「この攻撃って……」
ゾルナトが静かに言う。
ゾルナト「ああ。ただの“人間”が、我々に戦いを挑んできたのだ」
その瞬間、胸の奥がぞくりと震えた。世界のルールがひっくり返る音がした気がした。
旭将軍 ― 水風呂谷 ―
見回りをしているアサヒクローンが、ロープウェイを見つめる。
アサヒクローン「ロープウェイが、動いてる…?」
金華山を登るロープウェーのゴンドラは最早観光客を運ぶための箱ではなかった。
内部にはぎっしりと詰め込まれたミサイル。山頂駅に到着した瞬間、自動発射されるよう細工済み。
そして――
ドガァアアアアアアンッ!!
夜空を裂く爆音。
山頂駅に着いたゴンドラから放たれたミサイルが岐阜城の石垣を揺らし、闇の中に巨大な火柱を咲かせた。
その煙は“狼煙”のように夜空へ昇る。
旭将軍はその光景を見届け、ゆっくりと振り返り、兵士たちへ声を放つ。
旭将軍「狼煙は上がった!
闇を裂く我らの一撃に、敵はすでに恐慌状態だ!
聞け、兵たちよ!
旧創造神唯一派は、歴史そのものを捻じ曲げ、未来を私物化しようとしている。
だが――我々は違う。
我々は、世界の夜明けを奪還する者だ!
今この瞬間こそ、立ち上がる時!
旧創造神唯一派が体勢を整える前に、一気に叩き潰す!
恐れるな!迷うな!
我らの進撃こそが、正しき未来を証明する!
全軍、前へ!
世界に示せ――
“太陽”は、我々の手で昇るのだ!!」
兵士たちの返答は夜気を震わせるほど力強かった。
兵士たち「了解!!」
その瞬間、
旭人たちのデュアルアイが一斉に光を灯す。
水風呂谷の闇が、低く唸り始めた。
地中に埋め込まれた発電機が起動し、金属の震える音が谷全体に伝播する。まるで巨大な心臓が脈動を始めたかのように。
格納庫のシャッターが、
ギギギギ…… と重々しく開いていく。
内部から現れたのは――
緑の装甲を纏った“旭人”たち。
闇の中に整然と並ぶ姿は、“革命の兵器”そのものだった。
キィン……!
推進器官が起動し、背部の羽盾が展開する。金属の羽ばたきが、夜風を切り裂いた。世界を変えるための破壊が、静かに、しかし確実に始まる。
まるで――
“反逆の序曲”が、ここから奏でられるかのように。




