表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/46

世界が軋む音

 アサコ ― 八幡山公園 ―


 ヒマリがスマホを耳に当てて、眉をひそめていた。


 ヒマリ「う〜ん…アキナ電話に出ないなー」


 アキナが電話に出ない。それだけで空気がじわっと不穏になる。


 アサコ「アキナは電話を無視するようなめんどくさがり屋じゃない。きっと何やかんやあったんだろう」


 マカナ「アサヒの言う通りだ。まずはアキナを探す方が優先だ」


 真剣な顔で言ってるのに、名前だけは絶対に間違える。


 アサコ「だからアサヒじゃないって言ってるでしょ!?

 ていうか!私を襲って置いてよく平然と仲間のように振る舞えるわね!?」


 マカナ「ふふっ、恥ずかしやがり屋なのは相変わらずだなアサヒ。大丈夫だ。もう意地悪なことはしない」


 キメ顔。

 なぜかキラッと光る。

 ……怖い。


 アサコ(せっかくカッコ可愛い顔してるのに、私をアサヒに投影しているせいで普通に怖い)


 ほんと、惜しい。顔面偏差値は高いのに、言動が全部ホラー。


 アサコ(はっきり言ってアマネたちに裏切られても仕方がない)


 そんなことを考えていたら――


 ズサァッ!!


 地面を滑るような音とともに髪喰いババァが飛び出してきた。しかも肩に男を担いでいる。そしてよく見たらその男はカズオだった。


 アサコ「髪喰いババァ!カズオを持って来てどうする!!私たちはトウカを探しているんだぞ!!」


 マカナ「髪喰いババァ?」


 ヒマリ「えーとぉ〜…アサコの友達みたい」


 マカナ「と、友達か…」


 マカナが引いた。

 露骨に引いた。


 アサコ(お前は引くな!!)


 お前にだけは言われたくない。

 お前の方がよっぽど変だ。


 髪喰いババァはそんな私の心の叫びなど気にせず、“意味ありげな表情”でカズオを地面に下ろした。


 アサコ(いやその顔やめて!?なんでそんな“重大発表があります”みたいな顔してんの!?こっちはトウカ探してんのよ!?)


 公園の空気が一瞬だけ静まり返る。


 マカナは引いてる。

 ヒマリは困ってる。


 アサコ(なんだこのカオス)


 そして私は悟った。


 アサコ(……トウカより先に、この状況をどうにかしないといけない気がする)


 カズオ「全く、いきなり連れ去られたかと思えば、まさかお前に会わせられるとはな。だが丁度いい」


 髪喰いババァに肩から降ろされたカズオは土埃を払うように立ち上がった。

 その顔は最初こそ不機嫌だったが、すぐにいつもの嫌味ったらしい笑みに変わる。


 カズオ「お前たちに耳寄りな情報がある。記事の公開前だ。喜べよ」


 その言葉に、胸がざわついた。

 “耳寄りな情報”――

 もしかしたら、トウカの行方に繋がるかもしれない。


 アサコ「耳寄りな情報?気になるわね。聞かせてよ」


 迷いはなかった。今はどんな可能性でも掴みたい。だが、ヒマリが私の前に一歩出た。


 ヒマリ「ちょっと待ってアサコ。その人、信用するには早過ぎるよ」


 ヒマリの声は低く、警戒が滲んでいた。その視線は、完全に敵を見る目だ。


 ヒマリ「貴方が、アキナが宇都宮に行くと記事に書いたせいで、敵に合流地点がバレた。そして多くの民間人の負傷者が出た。その責任を取らず、何か悪巧みをしている人なんて、信用できないよ」


 カズオはその非難を真正面から受けても、眉ひとつ動かさない。


 カズオ「信じるか信じないかはお前らで決めろ。俺にとってはどうでもいいことだ。ただ、俺は知り合いに頼まれたことをしに来ただけだ」


 ヒマリとマカナの視線が鋭く突き刺さる。それでもカズオは平然としていた。この男は、こういう時に動じない。


 アサコ「…いいや。私はカズオの情報を信じる。だから話してくれ」


 ヒマリ「だけどアサコ」


 アサコ「大丈夫だ。カズオは私が漏れそうになった時、トイレの場所を教えてくれたんだ。意地悪だけど、嘘を吐く奴じゃない」


 ヒマリとマカナが、同時に微妙な顔をした。


 マカナ「あー…それは信じる判断材料になるのか?」


 アサコ「なるに決まってるだろ!!漏れそうな時にトイレが爆発した時の絶望感って半端ないんだぞ!?」


 マカナ「そ、そうか…それは、悪かった」


 マカナが申し訳なさそうに頭を下げる。ヒマリはまだ疑いを捨てていないが、少しだけ表情が緩んだ。


 アサコ「それに僅かでもトウカの目撃情報や旧創造神唯一派の情報が欲しいわ。信じるか信じないかは、その後で考えればいいじゃない」


 ヒマリ「そうだね。まずは、情報だね」


 ヒマリが納得したのを確認して、私はカズオに向き直った。

 空気が張り詰める。風が止まり、木々のざわめきすら消えたように感じた。


 アサコ(頼む……何でもいい。トウカの手がかりを)


 私は息を呑み、カズオの口が開くのを待った。


 カズオ「アキナが魔神十二使徒のスニーアと手を組みやがった」


 その言葉が落ちた瞬間、公園の空気がひやりと冷えた。


 マカナ「ばっ、馬鹿な!!そんなわけ…」


 マカナが詰め寄ろうとしたが、ヒマリが腕を伸ばして制した。


 ヒマリ「落ち着いてマカナ。最後まで、聞いてみようよ」


 マカナ「くっ…!分かった」


 カズオは二人の緊張を楽しむように、淡々と続けた。


 カズオ「どうやら、旧創造神唯一派には秘密兵器があるらしい。それを使って天の巳で過去に戻り、アサヒに何かするらしい」


 アサコ(過去に戻る……?)


 そんな手段があったのか。

 でも――なぜアキナが過去に戻りたいのか。


 胸の奥に、嫌な予感がじわりと広がる。


 ヒマリとマカナを見ると、二人とも悲しそうに俯いていた。


 アサコ「どうしたんだ二人共。暗い表情になって」


 ヒマリ「アキナはね…きっとアサヒを戦わせない為に、過去に戻って連れ去るつもりなんだよ」


 アサコ「戦わせない為?」


 ヒマリ「うん。私たちはアサヒを愛している。だから、アキナがすることは分かるし理解できる」


 アサコ「理解、できる…?つまり、ヒマリとマカナは…」


 マカナ「ああ。アキナを見逃す。いや、協力したいと思っている」


 その言葉を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になった。


 ヒマリとマカナの瞳は真剣で、迷いがなかった。

 冗談でも、軽口でもない。

 本気だ。


 アサコ「マカナは、分かるけど…唯一まともそうなヒマリも、アサヒのことが好きだなんて意外ね」


 声が震えた。

 自分でも驚くほどに。


 ヒマリ「うん。アサヒのこと、大好きだよ。全部お世話してあげたいほど」


 アサコ「おっ、お世話?」


 ヒマリ「アサヒが駄目人間になって欲しいくらいだよ。それなら、アサヒは私とは離れられないでしょ?」


 アサコ「そぉですかぁ…」


 ヒマリの笑顔は優しいのに、どこか壊れていた。


 アサコ(アキナとマカナとは違う方面でヤバい奴だ!!)


 ヒマリ「でも分かってる。アサヒは絶対にだらしないニートになんてならない。だって、彼は真面目で優しいから。カッコ悪いから嫌だって言いそう…だから、ひとりで全部抱え込むんだよね」


 アサコ「…」


 ヒマリ「頼って、欲しかったな…」


 夕日の光がヒマリの横顔を照らす。その瞳から、静かに涙が落ちた。

 私は、ただ見ていることしかできなかった。


 カズオ「それと旧創造神唯一派の拠点は岐阜城だ。アイツら、あそこを要塞に改造しているって噂だ。トモエは魔族共存連盟とガタついてる。だから助けは来ない。アキナが敵になった以上、アンタらに勝ち目は無いな。とはいっても、ヒマリとマカナはアキナと協力すると言っている。どうするんだアサコ?」


 カズオは、まるで他人事のように笑った。胸の奥が、すうっと冷えていく。


 アサコ「そうね。私だけで何とかできるわけないし、ひとりで寂しく観光してるわ」


 その言葉を残し、私は髪喰いババァを連れて歩き出した。

 もう、私の声は誰にも届かないと悟った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ