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期待外れ

 トウカ ― 路地裏 ―


 路地裏の空気がひどく冷たかった。いや、冷たいのは空気じゃない。私の中で何かが凍り始めている。


 ヒマリ「ごめんねトウカ。いきなりで状況が分からないよね。実は私とサユリさんは…」


 その声は優しい。優しいのに、どうしてこんなに胸を刺すのだろう。


 トウカ「共犯者でしょ?」


 ヒマリ「え?」


 ヒマリさまの目が揺れた。驚きの色が浮かんだその顔が、私には――

 裏切りを隠す仮面にしか見えなかった。


 私は彼女を睨みつける。


 トウカ「ヒマリさまは!いいえ…お前はテロリストと戦わずに故意に見逃した!!この裏切り者!!」


 言葉を吐き出した瞬間、路地裏の影が一斉にざわめいた気がした。


 ヒマリ「ち、違うの!彼女は私より強いの!!だから…」


 トウカ「黙れ!!」


 怒鳴った瞬間、世界の色が一段階、暗く沈んだ。


 胸の奥から黒い炎が噴き上がる。怒りが、憎しみが、私の視界を青黒く染めていく。


 トウカ「お前は強いくせ、そんなつまらない嘘を吐く!信用するわけないだろ!この、裏切り者!!」


 ヒマリ「そ、そんなこと…」


 ヒマリさまの声が震える。その震えが、私の怒りをさらに煽った。


 アキナ「二人とも、どうかしたの?」


 アキナさまが追い付いて来た。こっちに近づいてくる。

 その顔が視界に入った瞬間――

 胸の奥の黒い炎が一気に膨れ上がった。


 トウカ「出たわね軟弱者!!」


 アキナ「な、軟弱…者?」


 アキナさまの瞳が揺れる。その揺れが、私には“弱さ”にしか見えなかった。


 トウカ「そうよ!!たかがアサヒクローンを見ただけで怯えて、情けない!!お前は破壊神に相応しくないわ!!!

 それもそうね!お前はアサヒに惚れた馬鹿な女…恋は盲目とはよく言ったものよ!!

 あんな男のどこがいいのか、神経を疑うわ!!

 だけどどうして殺すことができたの!?ねぇ!?どうしてよ!!」


 叫んだ瞬間、胸の奥で何かが“ぱきん”と割れた。


 音はしない。

 でも、確かに割れた。


 私の中の“憧れ”が死んだ音だった。


 ヒマリの沈黙。

 アキナの弱さ。

 サユリを逃した事実。

 アサヒへの好意。


 全部が、

 全部が、

 私の心を黒く染めていく。


 許せない


 許せない


 許せない……!!


 怒りが、

 世界の色を奪っていく。


 路地裏の影が伸びる。

 音が遠のく。

 光が消える。


 まるで、

 私の心がそのまま世界に反映されているみたいに。


 トウカ(コイツらは……私たちの憧れを裏切った)


 その瞬間、私の中で“何か”が完全に壊れた。


 アキナ「私は、殺そうなんて思っていないよ?ただ…救いたかった。だけどアサヒ君は、自分が討たれることで、私を守ろうとしたの。

 創造神を殺した私を、守るために…」


 トウカ(……創造神を、殺した?)


 その言葉が落ちた瞬間、

 世界の色が一段階、暗く沈んだ。


 創造神を倒したのはアサヒじゃない。

 アキナ――お前だった。


 その真実が、

 私の中の“信じていた世界”を一瞬で破壊した。


 トウカ(こいつは……私たちを、世界を……騙していた)


 ヒマリ「違うよアキナ!創造神とアサヒは私たちで倒したんだよ!!一人で罪を背負わないって、みんなと約束したでしょ!?」


 トウカ「私たち…?」


 “私たち”

 その言葉が、胸の奥で黒く反響する。


 アキナ「だけど殺したのは私だよ!!今でも腕の感触が残ってる!私が、二人を殺したんだ!!」


 その瞬間、

 胸の奥で何かが“ぷつん”と切れた。


 トウカ「アハハハハハハッ!!」


 笑った。

 笑い声が自分のものじゃないみたいに響いた。

 路地裏の影が震え、音が遠のく。


 笑い終わったら、世界が静かになった。


 トウカ「私たちってことは、トモエさまもマカナさまも、みんな私たちを騙していたってことでしょ!?

 お前たちはアサヒの仲間で、アサヒの代わりにこの世界を支配するのが目的なのね!そんなことさせない!!」


 二人を睨みつける。視界の中心だけが異様に鮮明で、周囲の色がどんどん落ちていく。


 トウカ「私が…真の英雄になる」


 ヒマリ「トウカ?何を言って…」


 ドバァアアアアッ!!


 モンハナシャコが巨大化し、口から水を噴き出した。

 水しぶきが光を奪い、路地裏が青黒く染まる。


 ヒマリ「キャッ!」


 アキナ「トウカちゃん!?」


 私はモンハナシャコの背に飛び乗った。その瞬間、胸の奥の黒い炎が確信に変わる。


 トウカ「さよなら偽物たち。この世界は私が救う」


 モンハナシャコが走り出す。路地裏の影が後ろへ流れ、アキナの声が遠ざかる。


 アキナ「待ってトウカちゃん!!」


 その声は、もう届かない。


 トウカ(もう、引き返さない)


 胸の奥で黒い光が脈打つ。


 トウカ(私は決意した。真の英雄…この世界を救う救世主になると)


 その瞬間、

 世界が完全に“私の色”に染まった。



 アサコ ― 八幡山公園 ―


 チーン


 マカナが静かになった。


 アサコ「はぁ、はぁ……」


 全力で抵抗した結果、マカナは地面にぺたんと座り込んでいる。なのに頭には立派なたんこぶがいくつも並んでいるだけ。

 頑丈すぎる。何で生き物ってこんなに強いの。


 アサコ「何だったんだ一体……」


 さっきまでのマカナの暴走を思い出す。

 アサヒと勘違いされて追いかけ回され、訳の分からないテンションで抱きつかれそうになり、スカートに手を伸ばされかけた瞬間は本当に終わったと思った。


 アサコ(頭壊れたらどうしよう……いや、元からおかしかったな……

 むしろ叩いたら治るタイプ……?)


 そんなことを考えていたら――


 ヒマリ「トウカ、どこへ行ったの?」


 ばったりヒマリと遭遇した。


 ヒマリ「……」


 ヒマリが固まった。完全に“見てはいけないものを見た顔”だ。


 アサコ「ち、違うんだ!これは正当防衛だ!!」


 私は反射的に叫んだ。


 アサコ「私は死んでいたと思っていたマカナにアサヒと勘違いされて襲われそうになったんだ!

 だからちょっとだけ反撃しただけなんだ!!

 私も何を言ってるのか分からないけど、とにかく私は悪くない!!

 だから絶対にごめんなさいとは言わない!!」


 ヒマリ「そ、そうだったんだ……マカナが無事で良かった……」


 ヒマリは胸を撫で下ろしている。

 いや、そこ!?私の精神の方は!?


 アサコ「そんなことより、アキナとトウカは?髪喰いババァもいないけど?」


 ヒマリ「実はね……」


 ヒマリから事情を聞くと、

 どうやらトウカが感情的になって飛び出したらしい。


 ヒマリ「神使を使うと旧創造神唯一派の人たちにバレるから、探すのに手間取ってて……」


 アサコ「分かった。私も探すわ」


 アサコ(よし、このままマカナをどこかに置いてこよう)


 ヒマリはトウカのことで頭がいっぱいでマカナの存在を完全に忘れている。


 アサコ(今のうちにこの恐ろしいモンスターを公園の落とし物コーナーにでも……)


 マカナ「うぅん……ここは?」


 ヒマリ「良かった!マカナ!?大丈夫!?」


 マカナが目を覚まし、ヒマリが支える。


 マカナ「そうだ!アサヒ!!」


 マカナがまた私に向かってくる。


 アサコ「いい加減抱きつくのやめろ!!話が進まない!!」


 私はビンタでマカナを気絶させ、反射的に距離を取った。


 ヒマリ「アサコ……すごく強いんだね……」


 ヒマリが若干引いている。


 アサコ「違うのよヒマリ……私はただ、“命の危機に対して反射的にツッコミを入れるタイプ”なだけなのよ……」


 ヒマリ「そっ、そうなんだ〜…」


 ヒマリは更に引いた。

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