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死線と狂気の交差点

 アマネ ― 宇都宮城址公園・本丸跡 ―


 ナミカ「どっ、どういうことアマネ!!貴女はマカナを始末したと言っていたじゃない!!」


 ナミカの声が震えている。その震えが、私の背筋にも伝染した。


 アマネ(確かに、私はマカナ隊長を始末した。殺したんだ)


 旧創造神唯一派の鎮圧で混乱している最中、背後からシンバルで――。


 マカナ「あれは私の分身だ」


 アマネ「分身?つまり、マカナ隊長は…」


 マカナ「そうだ。既に君たちが旧創造神唯一派と裏で繋がっているのは分かっていた。これは裏切り者を炙り出す為に、トモエが考えた作戦だ」


 チハヤ「それじゃあ、私たちは…まんまと罠にかかったってこと?」


 チハヤの笑顔が、音もなく消えた。


 アマネ(駄目だ……私たちには、マカナ隊長と戦う寿量までは残っていない。それにマヤは気絶したまま、ナミカの方は神使の再生が終わっていない。

 私とチハヤだけでは……勝てない)


 マカナ隊長が太刀を抜く。その金属音が世界の色を一段階暗くした。


 マカナ「思っていたより、よく戦ったなアサコ。ここからは、私に任せろ」


 マカナ隊長が、静かに、しかし確実に殺気を放ちながら歩いてくる。


 アマネ(マカナ隊長は……本気で私たちを殺す気だ)


 その瞬間、私の身体はまるで自分のものではないみたいに固まった。


 足が動かない。

 呼吸が浅い。

 心臓だけが、やけにうるさい。

 逃げ場のない恐怖が、同時に押し寄せる。


 マカナ隊長が一歩踏み出すたび、地面が“死”の色に染まっていくように見えた。


 アマネ(ここで……私たちは終わる)


 喉がひりつく。

 視界が狭まる。

 自分の鼓動だけが、耳の奥で反響する。


 アマネ(怖い……)


 その一言を認めた瞬間、足元が崩れ落ちるような感覚がした。


 アサコ「だからさ…女の子同士の殺し合いは見たくないって」


 マカナ「何…?」


 アサコの呟きに、マカナ隊長が振り向く。その一瞬の静寂が、逆に耳を刺した。


 アサコ「フンッ!!」


 ドンッ!


 アサコが胸を拳で叩く。その音は鼓動ではなく“宣戦布告”のように響いた。


 ドンッ!!


 細菌に苦しんでいるはずなのに、アサコは笑っていた。その笑顔が、逆に不気味で、強くて、眩しい。


 ドンッ!!!


 太鼓のような音が城跡に轟き、私たちは思わず息を呑んだ。


 アサコ「マカナ!この子たちは強い!!死ぬには惜しいほどに!!ここで殺せば、必ず後悔するぞ!!」


 その叫びはトモエさまへの反逆そのもの。アサコは迷いなく踏み越えた。


 アマネ(アサコ、マカナ隊長も敵に回すつもり!?)


 胸がざわつく。いや、ざわつくなんて可愛いものじゃない。

 死ぬための舞台のど真ん中で、アサコだけが堂々と立っている。その場違いな強さが、恐ろしくて、眩しくて、理解できない。


 アマネ(どうして……どうしてこんな状況で笑えるの?どうして、胸を張れるの?)


 マカナ隊長の殺気が空気を切り裂く。その殺気の中でアサコだけが“生”を主張していた。まるでそれを楽しむかのように立っている。


 アマネ(怖い……でも、目が離せない)


 その矛盾が、胸の奥で軋んだ。


 私は恐る恐るマカナ隊長を見る。

 彼女は目を見開き、震えていた。


 マカナ「…アサヒ?」


 アマネ「え?」


 耳を疑った。

 いや、耳だけじゃない。

 世界の方が一瞬、軋んだように感じた。


 チハヤ「アサヒ?」


 ナミカ「アサヒって、あの魔王アサヒ?」


 私とチハヤ、ナミカが同時にアサコへ顔を向ける。


 アサコ「…は?アサヒ?私が?」


 アサコの顔が引き攣る。その反応があまりに“普通”で、逆に現実感が揺らぐ。


 マカナ「ああそうだ!間違いない!!今の顔はアサヒだ!!まさか、生きていたなんて!!」


 マカナ隊長がアサコへ抱き締めようと飛び込む。アサコは掻い潜るように避け、落ちていた刀を拾った。


 アサコ「冗談じゃない!私はアサヒじゃない!アサコだ!!しかも女だぞ!?」


 アサコが刀を構えた瞬間、マカナ隊長がその両手を押さえ込む。


 マカナ「ふふっ、そうか。アサヒは女の子になったんだな。弟から妹になったのなら、たくさんの可愛い服が着れるようになるな」


 アサコ「ひぃー!こいつ頭おかしいよ!!狂ってる!!」


 マカナ隊長の表情は、恍惚。

 その目は獲物を見つけた捕食者のようで――

 でも、どこか“愛情”にも似ていて、余計に気味が悪い。


 アサコ「助けてぇえええ!!!」


 アサコがマカナ隊長の腕を振り解き、全力疾走で逃げていく。


 マカナ「待てアサヒ!!君は体調が悪いのだから看病をしないと!!」


 マカナ隊長が飛び立つ。その姿は追跡者というより“執着の塊”だった。


 アマネ「……」


 私は何が起きたのか理解できず、ただ呆然と立ち尽くしていた。


 アマネ(……なんなの、これ)


 さっきまで“死”が迫っていたはずなのに、今は“狂気”が追いかけている。


 アマネ(まるで……急にコントが始まったみたい)


 死ぬか生きるかの舞台のど真ん中で、突然ジャンルが変わったような、そんな場違いな違和感。


 アマネ(……ついていけない)


 心臓はまだ“死の気配”に怯えているのに、目の前の光景は“理解不能”で頭が追いつかない。


 アマネ(アサコ……貴女は一体、何者なの)


 その問いだけが、胸の奥で静かに燃えていた。


 ナミカ「アサコをアサヒと思うなんて、貴女の隊長、頭おかしいんじゃないですか?」


 アマネ「そうだよ。マカナ隊長は、狂っているんだ」


 私は淡々と言った。でも胸の奥では別の感情が渦巻いていた。


 鷲宮マカナ。

 三年前、彼女は親から虐待を受けていた。

 大巫女なのに神仏合体ができないことを嘆いた両親が、未熟なまま強制的に神仏合体させた。


 その結果、暴走。

 両親は命を落とした。


 虐待されていたことで彼女はとある男性に預けられた。

 そこには――魔王アサヒもいた。


 弟のように可愛がった。

 けれど世界のために、アキナさまとトモエさまと共にアサヒを討伐した。


 家族を二度失い、弟を救えなかった罪悪感で、

 彼女は壊れた。


 表では凛々しく振る舞う。

 裏ではアサヒクローンを買い、弟のように愛し、正気に戻っては“偽物”と断じて処分する。


 哀れな獣。


 アマネ(男なんてものに情を持つからそうなる)


 やはり男は女を腐らせる。

 だから排除する。

 そうすれば世界は平和になる――

 お母さんがそう言っていた。


 チハヤ「アマネ、これからどうするの?」


 アマネ「とにかくアジトに戻って休もう。みんな、ボロボロだ」


 ナミカ「ですけど、このままアジトに戻ったら隊長を始末できなかったことを問い詰められます」


 アマネ「大丈夫。私が責任を取るから」


 チハヤ「アマネ…」


 二人の心配そうな顔が胸に刺さる。でも、今は立ち止まれない。


 ???「貴女一人で責任は取れるのかな?」


 背後から少女の声。その声は軽いのに、底が見えなかった。


 アマネ「!?」


 振り向くと道化師のような少女が笑っていた。


 ナミカ「だ、誰ですか!?」


 スニーア「私の名前はスニーア」


 チハヤ「スニーアって……魔神十二使徒!!」


 魔神十二使徒。

 邪神王に選ばれた最強の十二神。

 私たちが絶対に敵わない存在。


 その魔力は禍々しいのに神々しくて、呼吸すら忘れるほどだった。


 スニーア「あっ!大丈夫だよ?殺しに来たわけじゃないよ?ただ、仲間に入れて欲しいだけ」


 アマネ「仲間に?」


 唇が震える。

 恐怖か、緊張か、それとも――期待か。


 スニーア「そう!貴女たちにいい話があるの。今回の失態も消えちゃうほど、嬉しい話!きっと貴女のお母さんも喜ぶよ!!」


 スニーアが明るく笑いながら飛び跳ねる。その笑顔はチハヤのような太陽ではない。光の形をした“闇”だ。


 アマネ「何が、狙い?」


 スニーア「それはね。前創造神の復活だよ」


 ナミカ「なっ!そんなことが本当にできるんですか!?」


 スニーア「できるよ!!もし私と手を組めば、そのやり方を教えてあげる!」


 アマネ「分かったわ。貴女と手を組む」


 スニーアが微笑む。その笑みは獲物を見つけた捕食者のようだった。


 でも――

 断る選択肢なんて、最初から存在しない。


 アマネ(それに……前創造神の復活方法を知れば、お母さんたちも喜ぶし、チハヤたちが助かる。断るわけにはいかない)


 胸の奥がざわつく。


 アマネ(……でも、これでいい。

 私は正しい。

 私は――世界を救う)


 その確信だけが、静かに熱を帯びていた。


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