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死にたがりな少女

 アキナ ― 廃墟の旅館・1階ロビー ―


 ドォオオオオオオンッ!!


 ゴブリン強襲騎士団「ぎやぁああああああっ!!」


 爆風に巻き上げられた騎士風のゴブリンたちが、燃えながら宙を舞う。甲冑が砕け、肉が裂け、断末魔が空気を裂いた。


 ゴブリン伝令班A「ゴブリン強襲騎士団、全滅しました!!ゴブリン軍神!指示を!!」


 ゴブリン軍神「ぐぬぅう~っ!どのような戦術を立てても意味がない!!これが破壊神、天乃アキナの力か!!」


 炎の中を私は歩く。焦げた空気が肺を焼く。だけど、痛みはない。熱も、重さも、感じない。

 私は神仏合体を発動していた。神使と一体化し、鬼神となった私の身体は桜色の当世具足に包まれ、頭には鬼の角。肩の袖からも角が突き出し、胸元には満開の桜の紋章が脈動している。


 ゴブリン軍神「多方面からの連携攻撃をするフゴ!!魔法団は大火力の魔法と動きを封じる魔法を使い、アキナに攻撃!親衛隊はアキナを引き付け、大弓団は親衛隊の援護しろゴブ!!」


 ゴブリンたち「了解ゴフ!!」


 ゴブリン軍神「伝令班!!どこからでもいいからもっと増援を寄越せ!!」


 ゴブリン伝令班A「りょっ、了解ゴフ!!」


 ゴブリン軍神「精鋭重装部隊は何をやっている!!」


 無駄。何をしようと、私は止まらない。

 黒衣の魔法団が杖を掲げ、魔法陣を展開する。


 ゴブリン魔法団「ダークボール!!」


 黒い球体が私に向かって殺到する。その後ろから白銀の鎧を纏った親衛隊が突撃してくる。

 私は、ただ一言つぶやいた。


 アキナ「旭道……初段」


 紫のオーラが私の身体を包む。限界を超え、肉体を強制的に引き上げる奥義。段数が上がるほど力は増すが、負担も大きい。


 この奥義は、私がかつて愛していた男の子が作ったもの。だけど、もうこの世界にはいない。


 だから、構わない。


 壊れるなら、それでいい。


 ドガァアアアアアンッ!!


 黒い爆発がロビーを飲み込む。そこに私は立っていた。無傷で。無表情で。


 ゴブリン親衛隊隊長「ダークボールは拘束を備え、大爆発する魔法だ!!奴も無事では済まない!!このまま突撃しろ!!」


 ゴブリン親衛隊「了解!!」


 黒煙の中へ武器を構えたゴブリンたちが突入してくる。その足音が、まるで自分たちの死刑台へ向かう行進のように聞こえた。


 ゴブリン親衛隊A「ゴブリン親衛隊を!!」


 ゴブリン親衛隊B「舐めるなゴフゥヴヴヴ!!」


 2匹のゴブリンが槍を構え、私を挟むように突撃してきた。


 アキナ「……」


 私は無言で両手を伸ばす。槍の刃を掴み、指先に力を込める。


 パキンッ


 金属が悲鳴を上げて砕けた。


 ゴブリン親衛隊A「刃が、折れた!?」


 ゴブリン親衛隊B「固まるなっ!剣に持ち変えるゴフッ!!」


 遅い


 私は2匹の頭を同時に掴み――


 ガッ。


 そのまま、互いの顔面をぶつけ合わせた。


 グシャッ


 熟れた果実を潰したような音がした。赤黒い飛沫が、私の頬をかすめる。


 ゴブリン親衛隊「フゴオオオオオオ!!」


 ゴブリン魔法団「ダークボール!!」


 ゴブリン大弓団長「魔法を使わせるな!弓を撃ちまくれゴフッ!!」


 黒い球体が空を裂き、矢が雨のように降り注ぐ。それでも私は動かない。


 アキナ「魔法、か……」


 異国では“魔法”と呼ぶらしい。“寿量”を“魔力”と呼び、祈りを“呪文”に変える。言葉が違えば、意味も変わる。

 けれど、私にとっては――


 アキナ(どうでもいい)


 その瞬間、身体が勝手に動いていた。


 一歩。


 地を蹴る。


 床が悲鳴を上げ、ひび割れる。


 ゴブリン親衛隊C「フゴッ!?」


 私は煙を裂き、最前列のゴブリンの懐へ踏み込む。

 拳を握る。

 そして――


 ドンッ


 拳が胸板を貫き、背中から突き抜ける。骨が砕け、肉が裂ける。温かい感触が、手のひらにまとわりつく。


 振り返る。


 斧が迫る。


 私はそれを片手で受け止め、柄ごと握り潰す。


 アキナ「……遅い」


 肘を振る。顎が砕け、ゴブリンが吹き飛ぶ。

 私は何も感じない。痛みも、怒りも、恐怖も。ただ、壊すだけ。


 ゴブリン魔法団「ダークボール!!」


 魔法団の黒い球が飛来する。

 私はそれを見上げ、ため息をついた。


 アキナ「……だから、遅いって」


 跳躍。

 空中で回転しながら、膝を突き出す。黒い球体を蹴り砕くと、破片が火花のように散った。

 着地と同時に地面が沈む。私は滑るように前進し、魔法団の一人の顔面を踏み抜いた。骨が砕ける感触が足裏に伝わる。

 でも、何も感じない。


 ゴブリン大弓団長「うっ、撃ちまくれゴフッ!!」


 叫びが響いたけど、矢が放たれる前に私はすでに彼らの間にいた。弓手の腕をへし折り、奪った弓をそのまま別の喉に突き刺す。

 血が飛ぶ。

 視界が赤く染まる。

 でも、それもただの色だ。


 アキナ「……次」


 無表情のまま、私は次の敵へと向かう。

 拳、膝、肘、踵。

 すべてが武器。

 すべてが、破壊のためにある。


 神術なんていらない。この程度の相手にそれを使う価値はない。


 私はただ機械のように、淡々と、正確に、ゴブリンたちを“処理”していった。命を奪うたびに心が静かになっていく。まるで、世界が無音になるように。


 ゴブリン軍神「1匹の小娘にっ!我らが全滅させられるだと!?クソッ!!撤退だ!!」


 逃げようとする声が聞こえる。


 アキナ「逃がさない」


 私はゴブリン軍神へ踏み出そうとした――その瞬間。


 パァアアンッ!


 銃声が響いた。


 ズゥウン…


 大柄なゴブリンの騎士が崩れ落ちる。その向こうに軍服のような制服を着た少女が立っていた。

 拳銃を構えたまま、微動だにせず。


 トウカ「アキナさま!こいつは私が倒しますから、ご安心ください!!」


 神祓特務隊の制服を着ている少女は、桜山トウカちゃん。

 高校で初めて出会った子で、同い年なのに私に強い憧れを抱いている。

 神使はモンハナシャコ。肩に乗ったそれが、彼女に寿量を供給している。


 私はゴブリンの残骸を踏み越えながら、彼女に微笑みかけた。


 アキナ「ありがとう、トウカちゃん。でも……どうしてここに? アサコさんは?」


 トウカ「アサコなら大丈夫です!!あいつは1人でも何とかなりますから!!それよりもご自分の命をお考えください!!」


 アキナ(……まさか。アサコさんを、置いてきたの?)


 胸の奥がズキリと痛んだ。それは怒りか、不安か、それとも――恐怖か。私には、もうよく分からない。


 アキナ「トウカちゃん……」


 彼女は拳銃を構えたまま私に笑いかけた。その笑顔は春の陽だまりのように明るくて、だけど、どこか無理をしているように見えた。


 トウカ「アキナさまが無事ならそれでいいんです。私たちは、アキナさまの剣であり、盾ですから!」


 アキナ「でも、アサコさんが――」


 トウカ「大丈夫ですって!あの人、戦闘バカですから!」


 軽く笑って再び銃を構える。その先には、ゴブリン軍神。巨大な槍を構えた騎士たちを従え、撤退の構えを見せている。

 私は拳を握ったまま、動けなかった。


 アキナ(……どうして、こんなにも無理をするの?)


 彼女の言葉は正しい。でも、その笑顔が痛い。私のせいで、誰かが無理をしている。それが――


 苦しい。


 ゴブリン軍神「貴様……!退けェェェ!!」


 パァアアンッ!


 銃声が響いた。一体の騎士が、音もなく崩れ落ちる。


 トウカ「だから安心して私に任せてください!」


 アキナ(……本当に、置いてきたんだ)


 作戦を伝えていた時、トウカちゃんは私が囮になるのを最後まで反対していた。

「アキナさまは人類の希望です」

「救世主が前に出るなんて、間違ってます」

 何度も、何度も、言ってくれた。


 でも私は聞かなかった。説得すらせず。ただ命令として押し通した。それが正しいと思いたかった。


 アキナ(……でも、きっと不安だったんだ)


 私が“死に場所”を探していることに、もしかしたらトウカちゃんは気づいていたのかも。無意識のうちに、どこかで感じ取っていたのかもしれない。


 アキナ(……バレたら、ダメだ)


 私は救世主。

 人類の希望。

 魔王を倒した……英雄。


 そんな私が死にたがっているなんて――

 知られたら、きっとみんな壊れてしまう。


 アキナ(平常心でいかないと。私は、“救世主”なんだから)


 私は笑顔を作った。トウカちゃんに向けて、“何も問題ないよ”って顔をして。

 だけど、頬が引きつってうまく笑えているか分からなかった。


 アキナ「……わかった。任せる。絶対に、無理はしないで」


 トウカ「はいっ!」


 その返事に迷いはなかった。彼女はもう、戦士の顔をしていた。


 アキナ(……アサコさん、無事でいて)


 私は再び戦場へと身を投じた。燃え残る瓦礫の向こう、まだ息のあるゴブリンたちへ。拳を握りしめ、無表情のまま、殴り込む。


 そトウカちゃんもまた、大きなゴブリン親衛隊の群れへと突撃していった。


 パァンパァンパァンッ!


 トウカちゃんは舞うように敵の攻撃をかわし、鎧の隙間を正確に撃ち抜いていく。

 モンハナシャコは目がいいから、相手の筋肉が動き始める“兆し”を視覚で拾って即反応できる。彼女はその能力を使うことで、ゴブリンの攻撃を全て避けているんだ。


 アキナ(……流石だ)


 彼女は私を守るために創造神トモエ様が選んだ少女。その力は本物だ。アサコさんも強いけど――


 アキナ(……これは、私に“死ぬこと”を許さないための措置なんだろうな)


 ゴブリン親衛隊「ぬぅうう……」


 トウカの銃声が止んだとき、最後の親衛隊が崩れ落ちた。

 残るは、ただ1匹。


 ゴブリン軍神「まっ、待て!ごっ、降伏する!国に帰るから!もう悪さはしない!!邪神王とは手を切る!!だから、ゆっ、許してくれ!!」


 命乞い。

 滑稽なほどに必死だった。


 トウカ「何を今更!!お前らのせいでどれだけの人が苦しみ、死んだと思っているんだ!!」


 彼女が激昂し、銃を構える。だけど私はその銃口をそっと掴んだ。


 アキナ「トウカちゃん。気持ちは分かるけど殺しちゃダメ。こいつから、地のゴブリンの情報を引き出さないと」


 トウカ「くっ……分かりました、アキナさま」


 悔しげに唇を噛みながらも、彼女は従ってくれた。


 そのとき。


 ゴブリン伝令班A「動くなゴブ!!」


 背後から声がして振り返る。革鎧をまとったゴブリンが少女を人質に取っていた。


 ゴブリン軍神「おおっ!でかしたぞ伝令班!!これで……」


 バキッ


 私はゴブリン軍神の首をもぎ取り、そのまま革鎧のゴブリンの顔面に投げつけた。


 ゴブリン伝令班A「ゴフ?」


 バァンッ


 頭が砕け、革鎧のゴブリンが崩れ落ちる。


 ドサッ


 トウカ「さすがアキナさま!速すぎて、何も見えませんでしたが……すごいです!!」


 アキナ「うん。じゃあ、女の子を保護しようか」


 私は歩き出す。トウカちゃんも、隣に並ぶようにして――


 その瞬間だった。


 気づいたときにはトウカの身体が、切り刻まれていた。それだけじゃない。私も切り刻まれている。トウカちゃんより傷は浅いけど。そして彼女の肩にいたモンハナシャコは真っ二つに裂け、光の粒となって消えていった。

 血の匂いが、空気を染めた。私は瞬きもせずに立ち尽くした。


 トウカ「え…?うっ!」


 トウカちゃんが頭を掴まれて、いつの間にか少女の人質となっていた。


 少女「まんまと引っかかったな!!ボケェ!!」


 少女の腕がガトリング銃に変形してトウカちゃんの頭に擦りつける。


 少女「作戦通りだな…おっと動くなよ!?動いたらこいつの頭をミンチにしてやる!!」


 トウカ「な、なんで?なんでこんなことに?」


 トウカちゃんはまだ状況を理解しておらず、混乱していた。私も、今の状況に心が追い付いていない。


 少女「オイラはゴブリンマスター!!邪神王さまから身体の乗り移る魔法を授かった地上最強無敵のゴブリンさまだ!!

 さっきのはこの魔法少女が使っていた時止めの魔法だ!!そしてこの肉体の変形は前の肉体で使っていた魔法少女のやつだ!!」


 少女の肉体をしたゴブリンは、自慢げに語る。どうやら人質になっていた少女は、もうゴブリンマスターに乗っ取られていたようだ。

 その様子を見て気持ち悪くなった。2年前にも、同じような奴がいた。


 アキナ(ほんっと、キモい……)


 私はイラつきながらゴブリンマスターに確認する。


 アキナ「つまり、乗り移ることで肉体の持ち主の魔法を奪えるってこと?」


 ゴブリンマスター「そうだ!そしてアキナ!取引だ!!」


 ゴブリンマスターがほくそ笑む。


 ゴブリンマスター「この娘を失いたくなければ……お前の身体を寄越せ」



補足

天乃あまの明奈あきな

桜色のポニーテールが印象的な高校一年生。

神祓特務隊・第一特別隊の隊長を務める少女。

かつては、明るく前向きで、誰よりも人を思いやる“光”のような存在だった。


その優しさとカリスマ性で仲間を導き、

誰にでも分け隔てなく接する包容力は、隊の支柱として絶大な信頼を集めていた。


だが、魔王アサヒを討ったあの日を境に、彼女の内側は静かに崩れ始める。


アサヒとは、かつて互いに想い合った関係だった。

だが、理想の違いが二人を引き裂き、

最終的に明奈は、自らの手で彼を討つという選択をした。


その喪失と罪悪感は、彼女の心に深い傷を残した。

表面上は変わらず明るく振る舞うが、

その笑顔の奥には、抑うつ、自己否定、そして“死に場所を探す衝動”が静かに潜んでいる。


“誰かを守る”という大義に自らを縛り、

“救世主”という役割の中にしか、自分の存在価値を見出せない。


破壊神の力を宿し、神使の鬼と契約。

旭道も使用可能で、現在は九段中・三段まで到達している。


桜山さくらやま憧花とうか

青いミニツインテールの高校一年生。

創造神トモエに選ばれ、モンハナシャコの神使となった大巫女。 3年前、邪神に襲われた際に天乃アキナに救われたことで、人生が変わるほどの衝撃を受ける。

以来、アキナを“神の代弁者”として崇拝し、布教活動を展開。

「アキナさま語録ノート」を常に持ち歩き、クラスでも布教を試みるがアサコの人気に敗北して撃沈。

アキナの隣に立つアサコを“騎士”として尊敬しつつも、「アキナさまの隣にふさわしいのは私なのに!」という嫉妬心が拭えず、つい当たりが強くなる。

周囲からは“天才巫女”と称されるが本人は「アキナさまのおかげですっ!」と即答。 3年前の“優しくて強かったアキナさま”と、今のどこか影を帯びたアキナ。その違和感に気づき、心の奥で不安を抱えている。


寿量じゅりょう

寿量じゅりょう: 神術を使うための“命のエネルギー”。

神使の寿命を削って力に変える仕組みで、魔力に似ているが性質は異なる。神使の寿命は理論上無限だが、術者の体力と連動しており、体力が尽きると寿量も枯渇する。

つまりどれだけ神使が強くても、使い手が疲れていれば神術は使えない。

強力な術ほど体力と寿量の消費も激しい。


神仏合体しんぶつがったい

神仏合体:神使と神術士が一体化することで、神の力を直接身体に宿す奥義。発動には多くの体力と寿量が必要。


旭道あさひどう

旭道:神仏合体中に使用可能な自己強化術。段階は一段〜九段まであり、段数が上がるごとにオーラの色が変化し、身体能力が飛躍的に向上する。ただし、段数が高いほど肉体への負担も増す。また、魔王アサヒが作り出したもので、彼は神仏合体しなくても使用可能だった。



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