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第三勢力

 カズオ ― 高級ホテル・スイートルーム ―


 カズオ「貴方が提供した情報のおかげで、私の記事は大盛り上がりです!!

 ありがとうございます!!長拓(ながたく)少佐殿!!」


 頭を深く下げる。背中に汗が滲む。この男の前では、どうしても背筋が伸びてしまう。


 長拓少佐は磨き上げられた軍服を纏い、伸ばした髭を指で撫でながら、“人の心を覗き込むような目”で笑った。


 長拓「いえいえ……カズオ殿。これで旧創造神唯一派は本格的に神祓特務隊を潰しにかかるでしょう。そうなれば――アキナを捕獲する“隙”が生まれる」


 その声は穏やかで、

 しかし底に“狂気の熱”が潜んでいた。


 長拓「感謝したいのはむしろ私の方ですよ……カズオ殿」


 カズオ「しかし、アキナを連れ去って……一体何をなさるおつもりで?」


 長拓はゆっくりと立ち上がり、窓の外の風景を見下ろした。


 長拓「天の神使を捕らえ、()()()殿に献上するのです」


 その名を区切る声が、耳の奥に刺さる。


 長拓「天の神使は天照の転生者にしか現れませんからねぇ……」


 カズオ「アサヒ殿……!!」


 身体が勝手に震えた。


 カズオ(魔王アサヒ……やはり、生きていた……!あの少年が……!)


 かつて世界を破壊する為に創造神を殺し、それでもなお“男の希望”として崇められた存在。


 長拓少佐は振り返り、陶酔した笑みを浮かべた。


 長拓「彼を“魔王”から――“大魔王”へと進化させるのです。そのためにも……カズオ殿。あなたには、まだまだ働いていただきます」


 その声は優しいのに、背筋が凍るほど恐ろしかった。


 カズオ「お任せください!!アサヒさまが作り上げる世界のためなら……どんなことでも!!」


 長拓少佐は満足げに頷き、微笑んだ。


 長拓「フフ……我ら旭軍は皆、あなたに期待していますよ。カズオ殿」


 旭軍――

 それは三年前、日本帝国軍で起きたクーデターの残党たちを、魔王アサヒが“拾い集めて”作り上げた軍隊だ。


 世界から弾かれた兵士、

 国に裏切られた男たち、

 居場所を失ったヤクザやマフィア。

 噂では、死に場所を求めて入ってきた者もいるらしい。


 どいつもこいつも、女社会に牙を折られた男たちだ。


 そして――

 私もその一人だった。


 父はサラリーマンだった。

 母は托卵をして私を産んだ。夫婦仲は険悪となり、離婚となった。

 父は男手一つで私を育ててくれた。


 あの人は、不器用で、優しくて、それでも毎日を必死に生きていた。


 だが中学生の頃――

 父は女子高生たちに金を奪われ、路地裏で惨殺された。


 助けを呼んでも誰も来なかった。

 通行人は見て見ぬふりをした。

 “女の子が悪いことをするはずがない”

 そんな空気が、この国にはあった。


 女子高生たちは逮捕されたが、不起訴になった。


「女が世界を守ってやってるんだから当然」

「殺されたおっさんは無駄に生きたゴミ」


 ネットでは、父が嘲笑されていた。


 その言葉が、今でも耳の奥で腐ったように残っている。

 あの日からだ。

 私の中で何かが壊れた。


 女たちが支配するこの世界を、いつか必ず叩き潰す。そう思った。


 だからこそ――

 魔王アサヒの名を聞いた時、

 胸の奥が熱くなった。


 世界を憎みながらも、それでも変えられると信じて悪となった少年。


 男たちの希望。

 私たちの“旗”。


 カズオ(この狂った女社会を壊すためなら……

 俺は、アサヒさまの剣になる)


 拳を握ると骨が軋む音がした。それでも痛みは心地よかった。生きている証のようで。


 アキナ ― 宇都宮駅・売店エリア ―


 アサコ「魔王アサヒの討伐に参加した英雄ね〜」


 アサコさんが頭を掻きながら気の抜けた声を出す。その瞬間、トウカちゃんの眉が跳ね上がった。


 トウカ「何よその態度は!ヒマリさまに失礼でしょ!!」


 勢いよく頭を下げるトウカちゃん。その真面目さに、ヒマリちゃんは苦笑した。


 ヒマリ「気にしてないよー。堅苦しいのは苦手だからフレンドリーにしてほしいかなー」


 アサコ「だってトウカ。じゃあ早速だけど空いてる日ある?私とドライブでもどう?」


 トウカ「ナンパすんな馬鹿!!ていうかアサコは車もバイクも持ってないでしょ!!」


 アサコ「あるよ?」


 指パッチン。


 髪喰いババァ「ブゥウン!!キキィイ!!」


 アサコさんとヒマリちゃんの間に髪喰いババァさんが滑り込んだ。


 アサコ「素敵なバイクだろ?」


 決めポーズ。

 トウカちゃんは即座にツッコむ。


 トウカ「ヒマリさまと一緒に老人虐待ドライブさせようとしてんじゃないわよ!!」


 ヒマリちゃんは楽しそうに笑った。


 ヒマリ「うふふっ!アサコとトウカって面白いんだね!!」


 トウカ「今のどこに面白い要素ありました!?」


 そんなやり取りをしていると――


 アキナファンたち「キャアアアッ!!アキナさまぁああ!!!」


 売店エリアに歓声が響き、人の波が押し寄せてくる。


 アサコ「また祭りが始まるわね。早くこの場から離れましょう」


 ヒマリ「そうだねー、あっ……」


 ヒマリちゃんが何かに気づき、背後を振り返った。そして手招きする。


 ヒマリ「こっちだよー!!マヤ!!ナミカ!!」


 近づいてくる二人の少女。


 マヤ。

 ――バクテリアの神使。

 白衣の裾がふわりと揺れて、まるで研究室からそのまま抜け出してきたみたいな少女。

 眼鏡の奥の青い瞳は静かで、でも底の見えない深さがあった。

 白い髪はローポニーテールにまとめられ、サイドの後れ毛が風に触れるたび、どこか“人ならざる透明感”を感じさせる。


 ナミカ。

 ――蛾の神使。

 銀と紫の巫女服が駅の照明を受けて淡く光る。胸元と髪に揺れる月のアクセサリーは夜の静けさをそのまま形にしたみたいで、見ているだけで背筋がひんやりする。

 紫のロングウェーブの髪がふわりと広がるたび、黄緑の瞳が蛾の羽のようにきらめいた。


 ヒマリ「アキナは知ってると思うけど、私のチームを紹介するね?」


 アキナ(あれ…?)


 突然、ナミカちゃんがふわりと手を上げた。蛾が召喚され、舞い始めた。銀色の粉が空気に散っていく。


 アキナ(え……?)


 ヒマリ「ナミカ?何をやって――」


 ドガァアアアンッ!!


 世界が、

 音ごと裏返った。


 さっきまで賑やかだった売店エリアが、一瞬で“戦場の色”に染まる。


 空気が震え、

 耳鳴りがして、

 視界が白く弾ける。



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