尿意を越えし者
アサコ ― 15分前 新幹線 ―
トイレが消えた新幹線の車内で、私は絶望の叫びを上げた。
アサコ「ちくしょー!!トイレを爆破したのは誰だ!!私のトイレを返せぇえええ!!」
その瞬間、腹の奥で獣が吠えた。
グルルルルル……ッ!!
アサコ「ぬあああああああ!!」
私は腹を抱えて悶えた。お尻の奥でガス放出警報が鳴り響く。
まるで吹雪が肛門から逆流してくるような感覚。
アサコ(だめだ……!もうシェルターの耐久が……残り1%……!!)
アサコ「駄目だ、もう無理っ!!漏らすくらいなら……野生に戻るしかない!!お尻拭く方法は後で考えればいい!!
go back to nature!!」
私は日の丸パンティーに手をかけた。文明を捨て、野生へ帰る覚悟を決めた。
カズオ「うおおい!!待て待て!!まさかここでするのか!?」
しかし、カズオが私の手を掴んだ。
アサコ「止めるな!!このままだとお前に当たるぞ!?それとも……そっちの趣向がお好みな方でしたか!!?」
カズオ「興味ないわ気持ち悪い!!それよりトイレならあるだろ!!」
アサコ「えっ!?こんな状況でも入れるトイレがあるんですか!?」
カズオ「あるよ!!」
カズオは非常用ドアを開けた。爆発で車両が分断され、列車は止まっていたらしい。
外の線路の向こうに――コンビニの看板が輝いていた。しかも、その看板には トイレマーク がついている。
アサコ(あれは……
私の……
新たな……
理想郷……!!)
アサコ「うおおおおおお!!トイレェエエエエエ!!」
私はフェンスを飛び越え、腹を押さえながらコンビニへ駆け込んだ。
――10分後。
私はコンビニのトイレから勝利者の顔で戻ってきた。
アサコ「いや〜、助かったわカズオ。貴方は膀胱の恩人ね」
カズオは不機嫌な表情で眉間に皺を寄せた。
カズオ「膀胱の恩人って何だよ。気持ち悪いからやめてくれ」
アサコ(細かい男だな……命の恩人より価値ある称号だと思うんだけど)
私は気にせず線路の先を見た。先頭車両は消え、アキナとトウカの車両とは完全に分断されている。カズオが険しい顔で言った。
カズオ「どうやら何者かがあんた達の命を狙ってるようだな」
アサコ「全くだわ。カズオ、貴方が情報を公開したせいよ」
カズオ「おいおい、それが俺の仕事だぜ?」
得意げに胸を張るカズオ。私は深いため息を吐いた。
アサコ(この男に何を言っても無駄ね……脳みそが“自分の都合のいい情報だけ食べるタイプ”だわ)
その時――
髪喰いババァ「髪髪髪髪髪ィィィ!!」
背筋が凍る声が響いた。
カズオ「な、なんだ!?」
アサコ「まさか!」
私とカズオは慌てて振り返った。そこには、髪喰いババァが新幹線並みの速度で走ってきていた。
アサコ(生きてたのか!?あの爆発を耐えるとか、もはや妖怪じゃない!!)
カズオが叫ぶ。
カズオ「冗談じゃない!!俺以外の乗客はみんな髪の毛食べられたんだぞ!!次は俺の番だ!!早くなんとかしてくれ!!」
アサコ「分かってる!!」
倒す――
そう考えた瞬間。
ズキッ……
頭痛が走った。
アサコ「な、何か……ドロドロした感じがする……!」
アサコ(アキナとトウカに何かあった……!?嫌な予感がする……!)
私は髪喰いババァの速度を見て、ひらめいた。
アサコ(あのスピードなら……アキナ達の車両に追いつける!!利用させてもらうわよ……!!)
私はアキナの男性ファンから奪ったカツラを取り出し、刀の鞘に括りつけた。
カズオ「何やってんの?」
アサコ「まぁ見てなって」
私はカツラを天高く掲げた。
アサコ「ほらぁああ!!髪喰いババァ!!髪の毛だぞーー!!」
髪喰いババァ「髪ぃいいいい!!」
ババァが飛びついた瞬間、私は鞘を巧みに操った。
アサコ「今だ!とぉお!!」
私はババァの両肩に飛び乗り、肩車の姿勢を取った。
アサコ「さぁ行け髪喰いババァ!!少女たちを救うために!!」
髪喰いババァ「髪噛み髪噛み髪噛みィ!!」
私はカツラを操り、髪喰いババァをコントロールして線路を疾走した。後ろでカズオが呆然と呟く。
カズオ「……何だったんだ今のは……」
髪喰いババァはミサイルのような速度で走り、ついに前方に新幹線が見えた。
アサコ「見えた!!よし!!これで――」
……あれ?
ブレーキってどうやるの?
アサコ「しっ、しまった!!ぶつかる!!」
私は咄嗟にカツラを高く掲げた。
髪喰いババァ「髪噛み髪噛み髪噛みィ!!」
髪喰いババァが天高くジャンプし、回転しながら飛んだ。
アサコ「これならぶつからない!!」
――が。
アサヒ(待てよ……
髪喰いババァに、着地の理性なんて……
あるわけないじゃない!!)
アサコ「危なーーい!!」
そのまま新幹線の天井へ落下。
ドガァンッ!!
天井が爆ぜ、破片と風が渦を巻く。
ドカッ!
アサコ「いで」
私は転倒したが、慌てて髪喰いババァの肩へ戻った。そして騎手のようにポーズを決め、叫んだ。
アサコ「助けに来たわーーー!!」
髪喰いババァ「髪噛み髪噛み髪噛みィ!!」
アサコ(決まった……
これは絶対に決まった……!!)
アキナとトウカは歓喜し、敵は恐怖に震える。そう思った。
だが。
アキナ、トウカ、そして知らない女の子は――
呆然と固まったまま動かなかった。
アサコ(……あれ?なんで誰も反応しないの?今の、めちゃくちゃカッコよかったのに……)




