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私の嘘を暴かないで

 アキナ ― 新幹線 ―


 スニーアが笑った瞬間、空気が変わった。まるで彼女だけが、この世界の“脚本”を読んでいるみたいに。


 スニーア「嘘、ね……」


 その声は、私の胸の奥にある“触れられたくない部分”を、

 正確に、冷たく、針で突くようだった。


 アキナ(どうして……そんな目で私を見るの?)


 スニーアの瞳は観客席から舞台を眺めるように冷静だった。

 私の表情も、心の揺れも、全部“見えている”目。


 対して――


 トウカちゃんは私を信じ切ったまま、無垢な笑顔で振り返る。


 トウカ「アキナさま!私たちでスニーアを倒して、アキナさまの想いが本物だと証明しましょう!!」


 その純粋さは光のように眩しいはずなのに、今はなぜか、背筋がぞくりとした。


 アキナ(トウカちゃんは……本当に、何も疑っていない。

 私の嘘を、真実だと信じて疑わない。)


 その“信仰”は、優しさじゃない。もはや、逃げ場を塞ぐ檻だ。


 アキナ「うん!頑張ろう!!」


 笑顔を作る。

 でも、トウカちゃんの瞳は揺れない。彼女は、私が“英雄アキナ”であることを前提に、世界が回っているように見えているんだ。


 スニーアはそんなトウカちゃんを見て、壊れたおもちゃを観察するみたいにクスクス笑った。


 スニーア「哀れだねぇ……。

 その子、あなたの“嘘”を信じるために、心の形を変えちゃってるよ?」


 トウカ「黙れ!!アキナさまを侮辱するな!!」


 怒りで震えるトウカちゃん。その姿は、私を守ろうとしているはずなのに――

 どこか、狂信者のように見えた。


 スニーアはそんなトウカちゃんを一瞥し、“観客に向けて”語りかけるように言った。


 スニーア「ねぇ、アキナ。あなたは気づいてるでしょ?この子の“信じる力”は、あなたの嘘を真実に変えるほど強いって」


 アキナ(やめて……言わないで……)


 スニーア「でもね、それって恐ろしくない?だってこの子は、あなたがどんなに壊れても、どんなに嘘を重ねても――

 “英雄アキナ”しか見ないんだから」


 トウカ「アキナさまは英雄です!!それ以外ありえません!!」


 その声は、祈りのようで、呪いのようだった。


 スニーアは肩をすくめ、呆れながら微笑んだ。


 スニーア「ほらね?この子の純粋さはあなたを救わない。あなたを“逃がさない”ための鎖なんだよ?」


 トウカ「アキナさまを侮辱するなぁああ!!」


 叫ぶトウカちゃん。その声は愛ではなく、執着の色を帯びていた。

 スニーアは楽しそうに目を細めた。


 スニーア「ねぇアキナ。あなた、いつまでその子の“信仰”に縛られて生きるつもり?」


 世界が、少しだけ歪んだ気がした。


 トウカ「ムカつく顔ね!顔面に銃弾をぶち込んでやる!!」


 その声は怒りに満ちているはずなのに、どこか“祈り”のように聞こえた。

 ――私という“英雄像”を守るための、必死の祈り。


 スニーア「そう?これを見ても同じことが言えるのかしら?」


 スニーアが腕を掲げた瞬間、車内の空気がひっくり返ったみたいに冷たくなった。


 乗客たちの顔が、

 ぱきん、と音を立ててピエロの仮面に変わる。


 スニーア「既に乗客は全員、催眠済み。私の操り人形だよ?これなら手を出せないでしょ?」


 トウカ「こいつ!」


 余裕そうにするスーニアに、悔しがるトウカちゃん。

 その表情の奥に、私は別のものを見る。


 アキナ(トウカちゃんは……私を守りたいんじゃない。“英雄アキナ”という像を壊されたくないだけ)


 スニーアはそれを分かっている。だから、楽しそうに笑う。


 でも――私には無意味だ。


 だって私は、破壊神だから。


 アキナ「旭道三段」


 緑のオーラが身体を包んだ瞬間、世界が一瞬だけ静止した。


 次の瞬間、ピエロの仮面が一斉に砕け散る。紙細工みたいに脆かった。


 スニーア「旭道!?そうか!肉体の限界を超えて光の速さで動いたか!!」


 スニーアは歓喜していた。その瞳は、舞台の外から私たちを観察する観客のように冷たい。


 その隙を――トウカちゃんは逃さない。


 トウカ「どこ見てるのよ!!」


 銃口がスニーアに向けられる。その動きは迷いがなく、“英雄アキナの敵は排除すべき”という

 単純で純粋なルールだけで動いているみたいだった。


 スニーア「キャンディーシールド!」


 巨大化したキャンディーが盾となる。


 ダァンッ!


 弾丸はそれを貫き、スニーアの左肩を撃ち抜いた。


 スニーア「え…?」


 驚くスニーア。その顔から、初めて“物語の外側の余裕”が消えた。


 トウカ「馬鹿ね!弾丸はモンハナシャコの硬い甲羅でできているのよ!それと…」


 トウカちゃんが走り出す。その瞳は、まっすぐで、曇りがなくて――

 だからこそ、見ていて怖い。


 スニーア「ちっ!」


 スニーアがダーツを飛ばす。だけど、トウカちゃんはすべてを見切って避けた。


 トウカ「私はモンハナシャコみたいに目が良くなっている。だから貴女の動きは全部見え見えなのよ!!」


 その声は誇らしげだった。


 スニーア「それなら押し潰す!!」


 巨大なマカロンが落ちてくる。


 トウカ「それも無駄!!」


 青いプロテクターが両手に形成される。


 トウカ「水華すいかパンチ!!」


 ドシャァアアアアッ!!


 水の華が咲き、スニーアの身体を容赦なく弾き飛ばす。


 スニーア「がはぁああっ!!」


 ドガァアアアアンッ!!


 スニーアは外へ吹き飛ばされた。死んではいない。でも、しばらくは動けないだろう。


 トウカ「やりました!アキナさま!!」


 トウカちゃんが嬉しそうに飛び跳ねる。その笑顔は純粋で、無垢で――

 そして、逃げ場がないほど重かった。


 アキナ「うん!見てたよトウカちゃん!凄かったよ!!」


 アキナ(また……死に場所が遠のいた。)


 笑顔で返す。

 返さなきゃいけない。

 この子の“英雄アキナ像”を裏切ったら、きっと――

 もっと恐ろしいことが起きる。


 アキナ(どうして……どうして私は、こんなにも生き延びてしまうんだろう)


 新幹線の走行音が、

 運命のレールを軋ませる音に聞こえた。


 スニーア「あははは!」


 突然、甲高い笑い声が響いた。振り向くと、そこにはスニーアに似たぬいぐるみが転がっていた。


 トウカ「ぬいぐるみ…?」


 スニーアぬいぐるみ「あははは!あははは!あははは!」


 笑い声は軽いのに、空気だけが重く沈んでいく。


 トウカ「なんだか気持ち悪い…すぐに黙らせますね」


 トウカちゃんが銃口を向ける。


 アキナ「嫌な予感がする…早く離れようトウカちゃん」


 私はトウカちゃんの手を掴もうとした。

 その瞬間――


 パァンッ!!


 ぬいぐるみが裂け、中からスニーアが飛び出した。

 ピロピロ笛を咥えたまま、狂気じみた笑みを浮かべて。


 トウカ「そんな……!」


 アキナ「トウカちゃんっ!!」


 驚いて動けないトウカちゃんの手を引っ張る。

 でも――


 スニーア「プーーーーーー!」


 伸びたピロピロ笛が、光のような速さで私の左肩を貫いた。


 アキナ「ぐっ!」


 アキナ(なんて攻撃力なの!?)


 視界が揺れる。世界がぐにゃりと歪んだ。


 トウカ「アキナさま!!」


 倒れそうになった私を、トウカちゃんが支えてくれた。

 その手は震えていて、瞳は泣きそうだった。


 トウカ「申し訳ございません。私……」


 アキナ「このくらい、大丈夫。それに相手は魔神十二使徒。一筋縄ではいかないよ」


 私は笑ってみせた。


 スニーア「さっきまでのは変わり身の人形。イリュージョンした時にはすでに偽物の私と戦っていたのよ?

 でも驚いたわ。アキナの連れの女の子、思っていたよりもとっても強いのね」


 スニーアは私の血がついたピロピロ笛を舐めた。


 スニーア「ん~…おいしい!ほろ苦さと甘さが合わさった感じかな?

 やっぱり、愛と嘘が混じってるね」


 その言葉は私の胸の奥にある“触れられたくない部分”を正確に刺した。


 トウカ「また嘘って……!スニーア!!貴女みたいな悪い奴に、アキナさまの何が分かるの!?」


 トウカちゃんが私の前に立つ。その背中は頼もしいはずなのに、

 今は――檻のように見えた。


 スニーア「分かるよ?アキナはみんな大好きとか言いながら、本当は誰も愛したことなんて無かったんでしょ?」


 スニーアの笑顔が、世界の色をさらに奪っていく。


 スニーア「ただ自分の存在価値を見出したいだけの寂しがり屋。

 だけど、アサヒとの出会いで、愛を知った」


 その言葉は、刃物よりも静かに、私の胸を裂いた。


 トウカ「愛?」


 アキナ(やめて……!!私の心を暴かないで!!!)


 叫びたかった。喉の奥まで声が込み上げていた。でも、叫んだら終わる。トウカちゃんの、みんなの"英雄アキナ”が壊れてしまう。


 いや――違う。


 アキナ(私が、目を背けていた“本当の自分”を…誰かに知られたくない)


 スニーアはそれを分かっていた。だから、続けた。


 スニーア「アキナはね。誰よりもこの世界に絶望していた。

 だからこそ必要とされたかった。

 そうすれば、現実から目を背けられるから。

 彼女が優しく振る舞うのは、全部“現実から逃げるため”。嫌いな世界を忘れるため。

 だけどアサヒという、自分とは真逆の存在が現れた」


 スニーアの声は甘く、残酷だった。


 スニーア「世界を憎みながらも、変えられると信じて悪となった少年。

 春風アサヒに」


 トウカ「黙れぇえ!!!」


 トウカちゃんが激怒した。

 その怒りは、私を守るためではない。


 “英雄アキナ像”を壊されたくないだけ。


 スニーア「ねぇトウカ。あなたが信じている“英雄アキナ”なんて、最初からどこにもいなかったんだよ?」


 トウカ「うるさい!!

 お前たち魔族の言うことなんて誰が信じると思っているの!!アサヒは世界を混乱させようとした魔王だ!!

 そうやって私たちを欺いて!!」


 トウカちゃんの瞳は涙で揺れていた。でもそれは悲しみじゃない。自分が信じていたものが揺らぐことへの恐怖だった。

 スニーアは肩をすくめたけど、笑顔は絶やさなかった。


 スニーア「頑固だなぁ〜…それじゃあさ」


 スニーアが私を指差した。


 スニーア「もし、過去に戻れるとしたら…アキナ。

 あなたはどうしたい?」


 アキナ「過…去…?」


 その言葉は甘い毒だった。胸の奥で、何かがちり、と音を立てた。


 アキナ(戻れるなら……あの日、アサヒ君の手を掴んでいれば……)



 ほんの一瞬、心が揺れた。その揺れを、スニーアは見逃さない。


 スニーア「ふふ…やっぱり…」


 その笑みは、すべてを見透かした者の笑みだった。


 世界が止まった。


 私も、トウカちゃんも、呼吸を忘れたみたいに動けない。


 その一瞬の静寂を――


 ドガァンッ!!


 アキナ・トウカ・スニーア「!!」


 天井が爆ぜ、破片と風が渦を巻く。その中心に――何かが落ちてきた。


 アサコ「助けに来たわーーー!!」


 おばあちゃん「髪噛み髪噛み髪噛みィ!!」


 ……理解できなかった。


 おばあちゃんに肩車されたアサコさんが、

 刀の鞘にカツラを括りつけ、

 それをおばあちゃんの目の前でぶら下げている。


 アキナ・トウカ・スニーア「…………」


 世界が一瞬、静止した。


 パラ……パラ……


 天井の破片が落ちる音だけが、やけに鮮明に響く。


 アキナ・トウカ・スニーア(誰!?)


 三人同時に同じ疑問が浮かんだのが分かった。思考が強制的に同期された。


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