表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/44

虫かごの中の少女

 アキナ ー 昨日 廃墟の旅館・屋上 ー


 トモエさんはいつものように微笑んでいた。

 その笑顔は何もかも見通していて――

 “隠していた”。


 トモエ「それじゃあ…旧創造神唯一派が武力蜂起した場所は栃木県宇都宮市よ。そこの応援として第二特別隊と合流しなさい。

 あと、もし天の神使がいたら捕獲して私の元に持って来て。邪神王打倒のためにあれは必要よ。

 だから第一特別隊は明日の任務に備えて本部へ帰還しなさい」


 アサコさんが眉をひそめた。


 アサコ「天の神使?」


 その声には棘があった。嘘を暴くみたいだった。

 私の中の“何か”が、彼女を警戒している。


 私は微笑んだ。

 本物に見えるように、何度も練習した“嘘”。


 アキナ「天の神使はね、天照さまが自分の手で作った神使なんだ。

 普通の神使は契約者がいないと力を出せないけど、あれは違う。天照さまの力をそのまま受け継いでるから、一体でも邪神を倒せるくらい強いの」


 アサコ「えっ、すごっ」


 アサコさんが軽く驚いた。


 トモエ「天照大神は自らの死を予見していたのよ。だからこそ十二の神使を――“天の十二支”を己の内に宿していた。いずれ訪れる転生の時、彼女が再び力を取り戻すために。

 そして彼女が滅びた瞬間、十二支はこの地に解き放たれた。それぞれが彼女の“欠片”を宿してね。

 けれど彼らが姿を現すのは――天照大神の転生者の前だけ。

 前創造神も探していたけれど決して見つけられなかった。当然よ。転生者は私とアキナだけだから」


 トモエさんの声はいつも通り穏やかだった。

 でも、彼女の言葉の中には“空白”がある。


 アサコ「なるほど。それでその十二支を集めたらどうなるの?」


 トモエ「この世界から魔族が消えるわ」


 トウカちゃんが目を輝かせた。


 トウカ「それは本当ですか!?」


 トモエ「本当よ?それほど天照大神の力は強大なの」


 トウカ「正直、世界中が魔族に支配されてるって知ったときは、ちょっと不安だったんです。

 トモエさまとアキナさまだけで、本当にどうにかなるのかなって……。

 でも、十二支を集めればこの戦いが終わるって聞いて、なんだか希望が見えた気がして!

 私、頑張りますっ!」


 トウカちゃんはまっすぐだった。

 疑うことを知らない、まるで陽だまりのような子。

 その純粋さが、時々まぶしくて、少しだけ怖い。


 アキナ(まるで、二年前の私を見ているみたい)


 アサコ「きな臭いわね~……」


 その言葉に私は一瞬だけ、まばたきを忘れた。やっぱりこの人は、鋭い。


 トウカ「何怪しんでるのよ!!トモエさまの言うことなんだから間違いないわよ!!アキナさまも賛同しているんですよね!?」


 私はトモエさんを見た。彼女は、変わらずに笑っていた。その笑顔の奥に、何があるのか――私は、もう聞けない。


 アキナ「うん、私もトモエさんと同じだよ?」


 私はトウカちゃんに笑顔を向けた。

 それはトモエさんと同じ笑顔。

 誰にも疑われないように、

 誰にも見破られないように。


 アキナ ― 現在 新幹線 ー


 カズオ「これは失礼。目幡(めはた)カズオと申します。まあ、ただの雑誌記者ですよ」


 そう言って男はわざとらしく笑った。その笑みは愛想の皮をかぶっていたけれど、目だけが冷たかった。

 彼は鞄から雑誌を取り出し、パラパラとページをめくる。その指先は妙に丁寧で、まるで“獲物を見せびらかす”ようだった。


 カズオ「ああ、ありましたありました。こちらです」


 彼は見開きのページをこちらに突き出した。

 そこには大きく――


『アキナさま、旧創造神唯一派の鎮圧のため宇都宮へ出陣』


 という見出しが踊っていた。


 トウカ「どうしてそれを知っているの!?」


 トウカちゃんが声を荒げて男に掴みかかろうとする。

 私はそっと彼女の腕を取って止めた。


 カズオ「おっと、落ち着いてください」


 カズオさんは肩をすくめてわざとらしく困ったような顔を作る。


 カズオ「企業秘密ですのでね。たとえ破壊神アキナさまに尋ねられても、お答えはできません。

 ……あ、でも記事にされるのは慣れてますよね?“偶像”って、そういうものでしょう?」


 カズオさんは私の心の奥を覗き込むように笑みを浮かべた。私の“過去”を知っているみたいだ。


 アサコ「今時、雑誌記者とはね。ネットニュースがあれば雑誌なんて誰も読まないわよ」


 アサコさんは呆れたように言った。

 でも、その目が一瞬だけ細くなる。

 何かに気づいたのだ。


 アサコ「ああ……だからアキナをスクープにしたのね」


 カズオ「おっしゃる通り」


 男は口角を上げた。笑っているのに目がまるで笑っていない。


 カズオ「アキナさまを取り上げたおかげで売れに売れましたよ。

 今や私の記事で世間は大騒ぎです。

 “神の化身は何を食べ、どこで眠るのか”――

 人々は、そういう話が大好きなんですよ。

 偶像のプライベートを覗き見るのが何よりの娯楽なんです」


 アサコ「女の子の生活を切り売りして世間は大盛り上がり……

 ずいぶんと小さな世界ね。

 ガラス越しに覗いて勝手に騒いで飽きたら捨てる。

 まるで虫かご。

 中にいる子が泣いてるかどうかなんて誰も気にしない」


 二人は笑った。でもその笑みはどちらも冷たく、刃のようだった。


 カズオ「それで?」


 彼は私に視線を向ける。


 カズオ「今まで多くの命を救ってきたアキナさまが今度は人を殺す。

 それについてはどんなお気持ちですか?」


 トウカ「アキナさまは人殺しなんかしてない!!」


 トウカちゃんの声が車内に響いた。


 トウカ「私たちは殺しに行くのでは無く、暴動を止めるために行くんです!!

 出鱈目を言わないでください!!」


 彼女は本気だった。

 私を信じて、私を守ろうとしてくれている。

 その姿が、まぶしくて、痛い。


 でも――


 カズオ「アキナさまは人を殺しましたよ?

 確か……春風アサヒ。

 かつて少女たちの運命に翻弄され、殺されてしまった少年。

 彼を、ね」


 その名前が落ちた瞬間、

 世界が一拍、音を失った。


 春風アサヒ。


 あの日の声が、あの瞳が、あの手の温もりが――

 一斉に蘇って、私の心をかき乱す。

 アサヒ君は、私を守るために全部を背負った。

 私が“英雄”でいられるように。

 私が“生き残れる”ように。


 そして私は――

 その子を殺した。


 世界を救うために。

 誰かの希望になるために。

 “アキナさま”になるために。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ