漆黒のGATEを超えて
屈強そうな男性——隊長というのだろうか。いや、教官か。
彼に続いて、ぞろぞろと隣のトランスファー室へと移動した。
天井が高く、3階まで吹き抜けになっているが、格納庫のように鉄骨が剥き出しになっているわけではなく、全周セラミック張りだ。
廊下同様、全体が継ぎ目なく白い壁に覆われ、床まで白い。
左手にある、ガラス張りのコントロールルームでは、グレーのジャンパー姿の正規オペレーター3名がコンソールに向かっている。
そして目の前には、魚雷のような形をした黒い筒が何本も並んでいる。
筒が乗った台はスライドして中央のカタパルトのような台から押し出される仕組みのようだ。
カタパルトの先、奥の壁にはGATEの接続プローブだけが見えている。
ジェネレーターや補記類は全て隣の部屋に設置されているんだろう。
接続プローブは、天玲のものより遙かに大きく、直径50cmくらいはある。ちょうど黒い筒が通れるくらいの太さだ。
プローブに配置されたレーザーユニットは、サイズこそ天玲のものと同じだが数倍多く設置されている。
「呼ばれた順に搭乗しろ。青木、坂崎、鈴木、千葉、田中、山田、吉田」
青木と呼ばれた若者は手慣れた様子でバッグを枕代わりに押し込み、狭い筒の中に体をねじ込んだ。
「締めるぞ」
「了解」
カプセルに入ると担当官がカバーをスライドし、外からレバーを回してロックした。
隣の様子を見ていた俺も、青木と同じようにバッグを押し込み、窮屈な筒の中に体を横たえた。
「締めるぞ」
「了解」
カバーがスライドし、カプセル内が闇に包まれる中、受付嬢の言葉がリフレインする。
——次元の狭間で永久に漂う
身じろぎもままならない狭さで息苦しく外の物音は全く聞こえてこない。
俺の心臓の音だけが響いている感覚だ。
そして最も思い浮かべてはいけない単語が頭に浮かんだ。
まるで黒い棺桶だ。
そういえば、GATEが開く次元の井戸は開口面積が狭い方がエネルギー量が少なくて済むと、所長が言っていた。このカプセルが狭いのはそのためか。そして、閉所恐怖症の有無を聞かれた理由もよく分かった。
数分後、ブーンという低い振動がカプセルを揺らすと同時に、ぼんやりと明かりが灯った。全員が搭乗完了し、平行宇宙に旅立つ準備が整ったということだろう。
カプセルがゴトゴトと振動し、足先側から接続プローブへと押し込まれていく。
足下から皮膚の下をムズムズと何かがうごめくような、痛みのような、痒みのような痺れのような感触が急速に昇ってくる。
爪先、ふくらはぎ、膝、腿までは、まだ我慢できる。だが、内臓をかき回されるような感触に自然と顔が歪む。
そして、唐突に目の奥で無数の光がはじけ飛んだ。
同時に記憶が猛烈にフラッシュバックする感覚。
脳の神経全てに電流が流れ、強制的に記憶が呼び起こされかのような錯覚を覚える。
メモリースキャン治療の時は、すぐに気絶して何も覚えていなかったが、今回は認識可能な量を瞬時に凌駕したことだけは把握できた。
わずか5秒ほどの出来事だった。
ガツンという振動と同時に、新鮮な空気が流れ込んで来る。
カバーが開いたんだろう。
目を開いたが、光に眩んだ時のように周囲は全く見えない。
一刻も早くカプセルから逃げ出したい衝動から救ってくれたのは、声だった。
「ブラックウッドへようこそ」
ついさっき聞いた担当官の声とは違い、落ち着いた女性の声だった。
この声のおかげで恐慌状態に陥らずに済んだ訓練生だって多いに違いない。
「視力が戻るまで数分かかります。今はまだ動かないように」
「あぁ、ありがとう」
15秒と経たないうちに、左にスライドし、また新たなカプセルが到着した音がした。
わずか2分くらいで、7機のカプセルがワームホールを抜けたことになる。
それから数分後、俺の目は、直接、太陽を見てしまった時のような緑色の景色から、自然色を取り戻すことに成功した。
周囲は、先ほどいたトランスファー室と何1つ変わらないように見える。
高い天井、白い壁、コントロールルーム、そしてGATEの接続プローブ。
だが、この部屋にいる人たちは、誰1人見覚えはなかった。
「集合! 安全講習を行う」
つい先ほど、言葉をかけてくれた声の主が目の前に立っていた。




