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美雪とミューキー  作者: よしなし つづる
平行宇宙

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ショートトリップ

 なし崩し的にGATEを越えることになってしまった翌朝。

俺は時間通り受付にいた。


「坂崎様、お待ちしておりました。搭乗GATEはご存知でしょうか?」


「いや、何もかも初めてなんですが」


「承知しました。詳細は歩きながらご説明いたします」



◇



 受付の女性に連れられ、今までに向かったことがない資材搬入口の方に向かった。太い通路がずっと続いていたが、いつしか、くねくねとした小径に入り、いくつもの角を曲がることになった。


 今、向かっているのは戦闘訓練専用ロッカールームだ。 

そこで戦闘用ボディースーツに着替えてから、人員運搬専用カプセルで平行宇宙に送られるという。


 説明を聞きながら、城下町では天守閣を目指して歩いても辿り着けないことに似ているのではないかと、ぼんやり考えていた。



 聞かされる説明は、リスクと契約の話ばかりだった。

 GATEを超える最中に電源が落ちると次元の狭間で永久に漂う可能性があること、向こうに行っている間に、施設に何かあると二度と帰って来られないこと、帰還不能になった場合は遺族に多額の補償金が支払われること。


 そして、平行宇宙行きを決めたのは俺自身で、事故、怪我、災害などに見舞われても自己責任となり、研究所に法的責任を問うことは出来ないそうだ。優しくない世の中である。

 最後に閉所恐怖症を和らげるホログラムを使用するか聞かれ、不要だと答える頃、やっと目的地近くに到着した。



 薄暗い通路のどん詰まりは重厚そうな扉で、赤と黒のゼブラ模様で囲われている。扉の先はセキュリティレベルが高いことを示している。


「この先、左手最初のドアがロッカールームでございます。着替えたら奥の扉を抜けてお進みください」


 受付嬢が認証すると、分厚いアルミ合金製の扉がゆっくりと開く。


 丁寧にお辞儀をして見送る受付嬢に礼を言って通路を進むと、言われたとおり左手のロッカールームに入った。

 俺の名前が書かれたロッカーから黒いボディスーツを取り出して着替え、支給された黒い大きめのボストンバッグを下げて、奥にある扉から先へと進む。


 そこは、狭いのに自発光パネルが眩しいほどに明るく照らす通路で、目を細めて見ると10mほど先が通路の終点で扉になっているようだ。


 光に慣れた目でくぐった扉の先は薄暗く、暗順応し切れていない俺は闇の中にいるように錯覚した。


 徐々に目が慣れ見回してみると、そこは椅子が並んだ会議室だと分かった。


 男性の声で、席に着くようにと指示があったので、手近な椅子に座った。

見回すと、既に数人が座っていた。


あとから入って来た2人も、同じように指示されて席に着く。




「定刻だ。ブリーフィングを開始する」


 声がするまで気付かなかったが、黒いボディスーツを着た屈強そうな男性が直立不動で控えていた。

一歩進んで、ドスの利いた声を張る。


「貴様らには、戦闘訓練短期コースを受講してもらう。たった2週間の即席訓練だ。金曜定時には戻って来られる上、週休2日だ。だが、これから送り込まれる訓練施設から途中脱落は許されない。気合いを入れて乗り越えて見せろ」


 メインホログラムが一瞬揺らいだかと思うと施設の外観写真と周辺地図が投影された。

広大な森の一角、川の畔ほとりに立つドーム状の建造物が浮かび上がる。


これが訓練施設か。


「貴様らが送り込まれるのは、平行宇宙No2133ー5。通称ブラックウッド」


「マジかよ」

「うげっ。ブラックウッド……」

「あちゃー」

周囲がざわつく。そんなにヤバいとこなのか?


「知ってる者もいるようだが、念のため注意しておく。観光はするな。黒い森は常に飢えている。森で怪我したら助からないと思え。おかげで接敵の可能性ほぼゼロ。安全性が確保されている数少ない平行宇宙だ」


「ちっ、どこが安全だよ」

誰かの舌打ちが聞こえる。


「そうだな、付け加えておく。施設周囲の森は赤く染まっている場所が多い。理由は言わなくても分かるな?」


 モノクロ写真だと思い込んでいた『黒い森』の端がズームされると、黒い葉の一部がどす黒く染まり、根本にはボディスーツの残骸のような物が散らばっている。


一瞬で室内が静まりかえった。


 続いて、リスクと契約の説明だ。

既にあらましを聞いてる俺は、あくびをかみ殺しながらボーッと聞き流していた。


そしてやっと、次の指示が出た。


「全員出発だ。ついて来い!」




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