久留間(バスの運転手)
久留間(バスの運転手)
「何故だか貴方たちを見ていると懐かしい気がします」
何故だかそんな事を口走っていた。しかし、すぐに自分には過去を懐かしむ資格などない事を思い出す。
「そうですか。それは何よりです」
彼は全く何よりではない表情で返答する。その瞳に自分を死に足らしめた怨嗟の輝きがあるように見えるのは被害妄想に過ぎないのだろうか。
「やっぱり自分が悪いんです」
自分でさえ何度目かになるか判らない言葉がまた口から飛び出てくる。結局いつも自分が悪いのだ。今回の事も、あの時の事も。そう、いつだって自分が悪いのだ。
「その可能性が消えたわけではありませんが、そう決め付けるのはまだ早計であると僕は思っています」
そんなのはただの慰めに過ぎない。自分が悪い事は明々白々なんだ。今にも弾け飛びそうな感情を必死の思いで抑える。決壊しそうなダムを身一つで支えているようなものである。いつ水が噴出してもおかしくはない。
「久留間さんの場合は……職業、乗車理由どちらもはっきりしていますね。職業はバスの運転手だし、乗車理由はそれが職務だからですね」
「その通りです」
茶園さんの言葉に頷く。
「となると特に伺いたい事もないのですが……」
人を呼びつけておいてなんと言う言い草だろう、なんて事を言う資格も自分にはありはしないのだろう。自分に許されるのはただただ贖罪の言葉を吐き続ける事だけなのだ。自分の所為で不幸になった人々の溜飲が少しでも下がるように祈り続ける、ただそれだけである。
「そうですねえ……折角なので久留間さんがバスの運転手になられた理由なんてものをお尋ねしてもよろしいですか?」
「自分がバスの運転手になった理由ですか?」
ふいに茶園さんがそんな事を尋ねてきた。一体この質問にどのような意図があるのだろうか。彼の質問を推し量ろうとするが上手くいかない。
「いえ、単なる興味ですよ。世間話と言うやつです」
訝しげな顔をしている自分に彼はそう言った。彼がそう言うと「そうかただの世間話か」と納得してしまうから可笑しい。彼は探偵ではなく魔法使いか何かなのかもしれない。
「自分は車が好きでしてね。昔は長距離トラックの運転手なんてものもやっていました」
黒井さんがぼそりと「そうは見えないが」なんて言っているのが耳に届く。確かに今の後悔に押しつぶされそうになっている自分はトラックの運転手のイメージとは程遠い事であろう。
「こう見えて自分にもやんちゃだった時期があったんですよ」
弱々しい笑いを黒井さんに返す。彼は自分の言葉が自分に届いていたとは思ってなかったらしく罰が悪そうに頭をかいた。
「でも、きっと自分は車なんてものを運転するべきではなかったんですよ。そうすれば今回の事故だって起きなかったのかもしれない」
「それはどうでしょうね。そうなったら僕たちと、久留間さんではない、別の運転手の人が同じ目に合っていただけだとも考えられますが」
その可能性はある。ただもし自分でなければとっさに踏み込んだブレーキが間に合った可能性だってある。結局、たらればの話に決着は着かないのだ。だからこそ自分は後悔をし続ける。し続けなくてはならないのだ。
「ではこの辺でいいですかね?」
また贖罪の言葉を重ねなければならないので。そう言ってその場を後にしようとする自分に向かって最後に茶園さんがこんな質問をしてきた。
「これは単なる僕の好奇心なのですが――」




