明戸(紅一点)
明戸(紅一点)
「茶園君たちとは初めて会った気がしないなあ」
よく合コンやらで、相手の気をひく為に使われる台詞を言ってみる。彼らがどんな反応を示か興味があったからだ。
「いえ、初対面だと思いますよ」
茶園君は興味のないような顔をして平然としている。まったく失礼な男である。対照的に黒井君は「俺もそんな気がしてたんだよ!」なんてアタシの言葉を間に受けているからこちらはこちらで困った男である。本当に面白い二人組だ。
「それより……人殺しなんてアタシやってないわ!」
方向性を変えてアタシは頭の悪いヒステリックな女性を演じてみる。もちろん完全になりきるのではなく「ああこの人はこの戯言に付き合ってくれているんだなあ」と演じている事が判る程度に加減して。男って言う生き物はとかく自分を立ててくれる人物に好印象を抱く生き物なので、彼らはそれが演技であろうとなかろうと、そう言った態度をとっておけばとりあえずいい気分になるのだ。
「それはみなさんの話を聞いた後に僕が判断する事です」
そんなアタシの心持ちとは正反対に茶園君は真剣な表情を崩さなかった。これが素なのか作られたものなのか中々に判断がし辛い。どちらにせよ難儀な性格なようだ。それに比べて黒井君の方はやはり解かりやすい性格をしているようで、バスが一緒になった時からちらちらとアタシを意識しているのが伺えて面白い。
「さて、あなたは引田さんの使用人で、彼の介護人としてバスに乗り合わせていた。これに間違いはありませんね?」
彼の言葉にアタシは少し驚きを見せる。これは演技などではなく実際に驚いた為だ。あんなに「他人のフリをしてくれ」と頼んでいた坊ちゃんがまさか他人にその事実を口外するとは思っていなかったからだ。
「アタシには口止めしていたクセにずるいなあ」
それともよもや茶園君が見事アタシと坊ちゃんの関係を探偵よろしく見破ったのだろうか。さすがにそんな事はありえないだろうとは思うけども。
「意外と簡単に口を割るんですね」
「別にアタシ自身は特に隠したいと思っていたわけでもないしねえ。あくまで坊ちゃんの意向に沿っていただけって感じだから」
きっとアタシと二人で旅行と言うのが恥ずかしかったのだろう。思春期の少年と言うものは役所の手続きの次に面倒くさい。
「では、あなたはあくまで偶然あのバスに乗り合わせていた。そういうことでよろしいですね?」
そんな事を言ったら、乗客全員がたまたま乗り合わせていたと思うのだが、どうなのだろう。まあ偶然と必然なんてものは一を足すか一を引くだけでひっくり返ってしまう曖昧なものなので案外そうとも言い切れないのかもしれないけれど。
「あなたはただ引田さんの後を付いてきた。それで間違いありませんね?」
茶園さんがもう一度念を押す。焦れているというよりは、アタシがその言葉を否定するのを待っているようである。
「んー、たまたまと言えばたまたまだけど、そうじゃないって言ったらそうじゃないとも言えるかなあ」
「どういう事でしょうか?」
「坊ちゃんの療養地としてあの辺りを薦めたのはアタシだから、どちらかと言えば坊ちゃんがあのバスに乗ったのがアタシの所為って事になるのかもしれないね。色々調べたけどあの辺りが一番坊ちゃんに合いそうだったから」
アタシの言葉に黒井君が「あの辺りはいいですからねえ」と首を縦に振って同調しているのが見えた。残念ながら、アタシは男ではないのでその程度でほだされたりはしない。
「つまり引田さんの下見にあなたが同行した。しかし、そもそもとして下見先を決定したのはあなたである、そういう事ですね」
「うん、それで合ってると思うよ」
実際は下見先なんてもんじゃなくて、坊ちゃんの療養地はあそこでほぼ決まりってところまでいってたのだが、それを言うと坊ちゃんに怒られるかもしれないので黙っておく。
「もういいかな?坊ちゃんをあまり一人にしておきたくないから」
特にあの海藤という男とは一緒にはさせておきたくない。足の悪い坊ちゃんに対してあんな事を言うなんて信じられない男である。今思い出してもむかっ腹が収まらない。
頭に上ってきた血をなんとか沈めようとしていると、茶園君が最後にアタシにこんな事を尋ねてきた。
「これは単なる僕の好奇心なのですが――」




