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リバーサイドミステリー  作者: うなぎ先生
[第一話:リバーサイドミステリー]
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引田(車イスの少年)

引田(車イスの少年)



「茶園さんとはどこかで会ったような気がします」

 ボクは何となく思った事を率直に述べる。

「そうですか。申し訳ありませんが僕の記憶には引田さんは存在しないようです」

 確かにこんな奇天烈な格好をした人を忘れるはずもない。おそらくボクの記憶違いなのだろう。

「それにしても、やはり河原で車イスは不便ですね」

 車輪が石にひっかかる度に臀部に衝撃が走る。黒井さんが押してくれたからまだいいものの、これはちょっと一人で行動するのは難しそうだった。まったく不便な足である。

 不便な足。昔事故にあった時から動かなくなったボクの足。不便である事には違いないが、実際のところボクはわりとこの足が嫌いではなかった。

 子供と言うのはすべからく他人と違う自分、オリジナリティと言うものに酔うように出来ている。周りと一線を画すと言う陶酔感は素晴らしい。きっと大人がお酒に酔うのと同じ感覚だ。家の事情で学校で軽いイジメのようなものを受けていたのも、これのおかげでめっきりとなくなった。さすがに見たまんまの障害者に嫌がらせをする程、今の子供は馬鹿ではないらしい。そんな事から僕はこの足が「可哀想ねえ」なんて憐れみの目を向けられるといつも「いえいえ実はそんな事もないんですよ」と言い返してやりたい気分になるのだ。

 とは言え、これからの事を考えるといい加減治療に精を出していくべき時期なのかもしれないな、と言う考えもあった。子供である時間は短いのだ。文字通り人と足並みを揃える事を意識していかねばならない。

「なんて思っていたんですけどね」

 まさか死んでしまうとは人生とは中々にうまくいかない。きっと向こうに残っている人たちから見れば、ボクの人生はさぞかし同情に値するものになっているんだろうなあ、と思いを馳せる。

「それで何を話せばいいんですか?」

 ボクは面倒くさい手続きはせずに、率直な意見を茶園さんにぶつけた。きっとこれは子供の特権なんだと思う。

「そうですね……まず引田さんは学生さんと言う事でよろしいですか?」

 明らかに年少者であるボクにも丁寧に敬称をつける茶園さん。

「ええ、中学三年生です。来年の春には高校生になります」

 だから、来年の春はこないんだってば。

「なるほど、では次にあなたがバスに乗車した理由をお聞かせ願えますか?」

 自嘲するボクに構わず、彼はそう続けた。

「……景色を見ておきたかったんです」

「景色?」

「ええ、実は足の治療の為に夏休みの間どこかで療養をしようと思っていて。それであの辺りはどうかなあと」

 療養先の下見に来て、死んでしまっては元も子もない、なんて言われると耳が痛い話ではあるが、それが事実なのだから仕方がない。

「その他には特にあのバスに乗車していた理由はないと言う事でよろしいですか?」

「……ええ、その通りです」

 ボクは少し考えた後にそう言った。

「なるほど……事情はわかりました。では、もう一つ伺ってよろしいですか?」

 茶園さんが人差し指をたてる。探偵の「もう一つ」と言う問いが本当に一つであるわけがないのだが、あえてそんな事に突っ込むほど野暮な人間ではない。

「あなたとあちらにいる明戸さん。あなた方は一体どういう言った関係にあるのですか?」

「……関係とは?」

 ボクは自分の中の驚きを悟られないように質問を返す。少し表情に出てしまったかもしれなかった。生憎とまだポーカーフェイスが格好いいと思っている年頃なのでそんな自分を少し恥じる。そんなボクの心配をよそにボク以上に驚いた顔をした黒井さんが「一体どういう意味だよ?」と茶園さんを問い質しているのがいやに滑稽である。

「いえね、先程の彼女の激昂ぶりが少々気になっていまして。それに彼女からは節々にあなたを気遣うような挙動が見られたものですから」

 なるほど、探偵を気取るだけあってこの人の洞察力は中々に鋭いようだ。抜け目がない。

「彼女はね……ウチの使用人なんですよ」

 一つ溜め息をついてボクはそう答えた。

「使用人?」

「ええ、こんな身体なものですから」

 そう言って自分の足を軽く叩く。

「本当は下見ぐらい一人でしたかったんですけどね」

「何故それを隠していたのですか?」

「付添い人がないと旅行の一つも満足に行えないと思われるのが嫌だったんですよ。ただ彼女が頑として付いてくると聞かないもので」

 一番の理由は女性と二人で旅行へ行くと言う行為が恥ずかしかったなどとはさすがに口が裂けても言いたくはない。ボクらくらいの年代の男子は色々なものを抱えているのだ。

「まあそんなわけで、緊急時以外は他人のフリをしていると言う条件で同行を許可したんです」

 実際には緊急どころではない自体に陥ってしまったわけなのだが。しかし、今思えばボクは無理にでも彼女の同行を止めるべきだったのだろう。そうすれば彼女は死なずに済んだのだ。自分が死んだのはまあいいにしても、それだけが唯一悔やまれた。

「そろそろいいですか?」

 少し気が滅入ってきたのでボクは、満足そうに首肯する茶園さんと未だ驚愕の事実に打ち震える黒井さんを尻目に、その場を去ろうとした。すると茶園さんが最後にこんな事を聞いてきた。

「これは単なる僕の好奇心なのですが――」


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