1-6
私は15歳、アストリア王立魔法学園の下級科の三年生になっていた。
しかも、もうすぐ卒業して、上級科に行くことになる。
「今年の卒業生の最優秀生徒は誰だと思う?」
メアリーに聞かれる。
「それはエルヴィン……でしょう?」
前回もエルヴィンが最優秀生徒だったもの。
——それで私が……。
「あ……」
下級科を卒業する時に、最優秀生徒はみんなの前で異性から祝福のキスをされる。
前回はエルヴィンに私がキスしたけど——。
今回は誰が、エルヴィンにキスするの!?
私は多分、泣きそうな顔になっていたんだと思う。
「ああ……ごめんなさい。マリアナを悲しませるつもりは無かったの……エルヴィンを一緒に笑ってやろうと思ったのよ!」
「へ……? エルヴィンを笑うって……?」
メアリーがちょっと意地悪そうに笑って言う。
「エルヴィンって『魔法を極める』って言ってたくせに最優秀生徒に選ばれなかったのよ……! ふふふ」
「う、嘘!? エルヴィンが……!?」
だって、エルヴィンって何もしてないのにいつも成績は一番で、先生達よりどの魔法にも詳しかったのに……!?
「ただ魔力の質が良いってだけじゃルカスには勝てなかったって事よね。婚約者もいて恋人もいて、最優秀生徒なんて、ルカスって本当にすごいわね」
ズキッ
胸が痛む。
メアリーは、私を無視するエルヴィンへの嫌味でルカスを褒めてるだけだけど……ルカスは私を殺した男だ——!
多分、事情があって、今回はその事情を回避できそうだって思っているけど……やっぱり怖い……。
私は首に手をやって傷がないか確かめる。
死に戻り前の記憶なんだから、傷なんてあるわけないのに、無意識に手が動いた。
ルカスだって、お金の為だったら、楽しんで私を殺したんじゃないと思う。
悩んで仕方なくだったら、今の私を殺そうと思っていないルカスは善良なただの生徒なんだ……。
廊下の奥にルカスが歩いているのを見た。
「あ……ルカス……」
たった一人で歩いているルカスに違和感を覚える。
暗く憂鬱な印象を受ける——前回の記憶で知っているルカスの姿——。
何かが、何かがっ、今までと違う……。
「ルカスは恋人が上級科の一年生だから、誰にキスされるんだろうね」
メアリーもルカスに気付いて言う。
「前はずっとその恋人の侯爵令嬢と一緒だったから、一人だと寂しそうね」
「……え? ……あ……! そうかっ!」
今までは、恋人といつも一緒にいたから、一人だと違和感があるんだ……っ!
また、前回の記憶に引きづられて怖がりすぎた——!
でも、殺されたんだから、怖がりすぎではないと思う。
「あ、ルカスを見てたのか?」
オスカーが私とメアリーのところに来て、オスカーを見てたメアリーを背中から抱きしめてる。
付き合い始めてから、本当に仲がいい。
「ルカスが最優秀生徒になったんだって?」
オスカーが何故か私に聞く。
「うん……今メアリーに聞いたばかりだけど、そうみたい」
「良いのか? 婚約者のマリアナがキスするんだろう?」
オスカーが当然のように言う。
「あ、そうか……マリアナがルカスの婚約者だった」
メアリーの「マズイ」って表情と共に、私にも状況が飲み込めてくる。
……ルカスと……キス……?
私、が——!?
「ええええええぇぇーー!!?」
◇
他の誰ともキスなんてしたくなかった。
死に戻って二回目になる学園の下級科の三年が過ぎていこうとしている。
下級科の卒業式には、最優秀生徒は異性からみんなの前でキスを贈られる伝統があった。
前回は最優秀生徒になった俺がマリアナからキスされた——。
みんなに祝福されて、俺のマリアナを見せびらかして、幸せだったのに——。
よりによってルカスが最優秀生徒になるのか!
前回はそんなに優秀な男じゃなかっただろう?
俺なんてあの時まで存在を意識してなかったくらいだ……!
俺が『魔法を極める』と言った事が原因でルカスもやる気になったのか?
それとも、マリアナの婚約者になったからか?
前回とは違ってしまっている……だから、分かるかもしれない——!
だが、その為にマリアナを——っ!
——絶対に嫌だ考えたくもない……っ!
でも、それじゃ本当のことは分からない……マリアナとルカスは……!?
…………。
——これは、必要なことなんだ——っ。
◆◇◆
「ルカス……!」
私は、メアリーとオスカーと一緒にルカスに話しを聞きに行った。
「最優秀生徒に選ばれて、おめでとう、ルカス……」
「ありがとう、マリアナ様」
それだけで会話が途切れる。
「伝統のキスは誰とするつもりなんだ?」
オスカーが率直に聞いてくれた。
「恋人の上級科の侯爵令嬢が来てくれるの?」
メアリーも聞く。
「ああ、それなら婚約者がいるなら、婚約者がキスするのが決まりのようです」
ルカスはこともな気に答えた。
「き、聞いたの?」
「最優秀生徒に選ばれたと知らせて貰った時に聞きました。実はそれで、マリアナ様にどう伝えようか迷っていたんです……」
「ああ、そうよね……」
ルカスとは、婚約者でクラスメイトだと言うのに全然関わりを持って来なかった。
なのに、こんな形で関わるなんて——。
「他の人とキスするなんて……ルカスの恋人の侯爵令嬢も嫌がっているでしょう……?」
「はい……でも、お陰でキス以外の事も許可が出たので……——」
ルカスが少し嬉しそうに頭をかく。
「?」
「——っ!」
メアリーとオスカーの頬が赤い気がする。
「だから、僕の恋人のことは気にしないで下さい……マリアナ様は嫌だろうけど、最優秀生徒になれたら恋人との身分の差が許されるかもしれないから……」
あ……。
そうか、ルカスが周りに認められたら、侯爵令嬢との仲も認められて、私との婚約が解消されるかしれない……!
それに、『僕みたいな貧乏子爵家の——』とルカスは言ってたけど、貧乏でもなくなる。
お金のために殺人の依頼を受けるなんて事はなくなるわ。
……ルカスが最優秀生徒になる事は、私の死を回避する為にも必要かもしれない——!
「ルカス……! ルカスこそ私とキスなんて嫌だろうけど……私もルカスが立派な最優秀生徒に見えるようにして、侯爵令嬢との仲を認めてもらう為に頑張るわ!」
メアリーとオスカーは私の結論に顔を見合わせてる。
「ありがとうございます、マリアナ様!」
ルカスが笑顔になる。
……殺人なんてしそうにない、この笑顔を守りたい!
そして、エルヴィンとずっと一緒にいたいた——。
私を嫌っていて興味のないエルヴィンには、自分を殺した男とキスする私はどう映るのかしら?
でも、ルカスと侯爵令嬢との幸せを守る事が、私とエルヴィンの幸せにもなるから——。
——なのにっ!!!
侯爵令嬢が姿を消した。




