1-5
12歳に死に戻った私は、13歳になっていた。
前回の婚約者のエルヴィンには相手にされないまま、親友メアリーの前回の恋人だったオスカーに告白された。
エルヴィンがいないなら、オスカーが好きになるのは私らしい。
——朝、学園でオスカーに会う。
「……」
告白された後だと、何を話していいか分からない……。
「マリアナ、おはよう! オスカーも」
「……お、おはよう、メアリー……」
私のメアリーへの挨拶……不自然だった……。
「マリアナ?」
メアリーがおかしく思う。
「何やってんだ二人とも、早く教室に行くぞ!」
オスカーがいつもと変わらずに話す。
「ちょっと、待ってよ……マリアナが……」
でも、メアリーは私の様子を心配してくれるんだ……本当に優しい。
でも、その優しさに困ってしまう……オスカーに告白されて気まずいとは言えないもの。
ガタッ
廊下の影から人が出て来た。
——エルヴィンだった。
……いつからいたの……?
エルヴィンは私を睨むと行ってしまう。
「何!? 睨むことはないでしょう!? ……エルヴィンがそばにいたからなのね……ごめんなさいマリアナ、私の従兄弟が……」
あ、偶然いただけなのに……。
メアリーがエルヴィンがいたから、私が不自然だったと誤解してくれた。
私とメアリー、オスカーで学食でお昼を食べる。
「なぁ、今朝はエルヴィンがマリアナを睨んでいたけど、なんでなんだ……? 冗談じゃなく嫌われてるだろ……」
オスカーが、メアリーに聞く。
「マリアナは……やっぱりエルヴィンにとって特別な子なんだと思う」
「と、特別って……」
「婚約者になるはずだったのに、エルヴィンが『魔法を極める』って言って直前で婚約を取りやめたから……マリアナがこんなに可愛い子で後悔してるのよ」
メアリーが私を抱きしめて、「可愛い可愛い」と撫で撫でする。
前にもメアリーはそう言ってたけど……。
「そ、そんな事ないわよ……本当に嫌われてるもの……」
「マリアナ……絶対に後からエルヴィンの方から「付き合って下さい」って言ってくるわよ。まだ13歳だもの、好きとか自分の気持ちも分かってないのよ、エルヴィンは!」
メアリーが言ってくれるの嬉しいけど……。
メアリーは、死に戻る前の前回のエルヴィンを知らないからそう言うのよ。
エルヴィンは12、3歳の頃でも、私なんかより、ずっと自分の気持ちを分かっていたと思う。
好きって私の何倍もたくさん伝えてくれていたもの。
思い出して、カァッと赤くなる。
「ほら、可愛いんだから、マリアナは!」
また、メアリーに撫で撫でされる。
「……いや、でもそんな感じじゃ、なかったぞ……」
オスカーがつぶやく。
そして、学食での食事中、オスカーは一言も話さなかった。
「……オスカー?」
メアリーが心配していた。
——そして、食べ終わって授業に戻る頃……。
「……きっと、エルヴィンは——」
オスカーが顔を上げた、私を見た。
「俺は、マリアナが好きだ」
「……え……」
朝から、メアリーにオスカーから告白されたことを言えずに困っていたのに……。
オスカーが、メアリーの前で言うなんて……。
「……——ッ!!」
メアリーがショックで言葉を失ってる。
「今、マリアナを好きなのは俺だから、俺と付き合ってください」
オスカーが私に向かって手を差し出して頭を下げた。
「……あ……」
周りの人たちが、私を見てる……。
私はオスカーから後退る。
みんなに注目されて、どうすればいいの!?
「こんなところで! マリアナの事も考えてよね、オスカー!」
メアリーがオスカーに怒って、私の手を取って走り出す。
「行こう、マリアナ!」
「……うん」
私はメアリーと授業のある教室に戻った。
遅れてオスカーが教室にやってくる。
ヒソヒソとクラスメイトたちが噂してる。
食堂にいた子もいるし……オスカーが私に告白したという話は、あっという間に広がっていた。
クラスメイトのエルヴィンは、噂を知ってるのか知らないのか無関心な背中を向ける。
ルカスが心配そうに私を見ていた……。
それからは、私とメアリーが一緒にいても、オスカーが話しかけてくる事はなかった。
たまに、私が一人の時に話しかけて来たけど、「ごめんなさい」と言ってすぐに逃げ出した。
メアリーは、私と変わらずに仲良くしてくれたけど……隠れて泣いているのを知っていた。
「マリアナ……」
私とメアリーが一緒の時にオスカーが話しかけてくる。
「オスカー……」
オスカーはメアリーを無視して、私を見て——。
「——……っ! ごめんなさい、マリアナ……!」
メアリーはオスカーに無視されてショックで、何処かに行ってしまう。
私は追いかけようとしたけど、オスカーに手を掴まれる。
「……オスカー、なんでメアリーを無視するのよ……!」
「……マリアナが俺と話さないからだろう。俺は、マリアナが俺と付き合わなくても、代わりにメアリーと付き合うなんて事はしない」
「……なんで……そんな事を言うの……」
オスカーはメアリーの気持ちを知って無視してるの……? 私がメアリーに遠慮してると思ってるの?
「私は、エルヴィンが好きだから……! エルヴィン以外の人を好きにならないの!」
そう言って、オスカーの手を振り解いてメアリーを追いかけた。
「人を好きになる気持ちは仕方ないと思うの……オスカーがマリアナを好きな事は、マリアナのせいじゃないし、それで、自分の気持ちに正直なだけのオスカーを責めたりできないもの」
メアリーは私とオスカーを怒っていたり責めたりしない。
「でも、ごめんなさい。マリアナは悪くないのに……嫉妬を止められない。マリアナといると苦しくなる……」
「……うん。私もエルヴィンが誰か他の人を好きになったら、嫉妬して辛くなるもの……」
エルヴィンは、今はまだ魔法に集中していても、上級科に進んだら、誰かの肩を抱いて『大好きだよ』って何度も何度も言うの。
私にそうしたみたいに——。
『マリアナ、大好き、愛してるよ』
『私も、エルヴィンの事、大好きで愛してる』
何度も何度も言い合って、メアリーとオスカーに呆れられてた。
それから、私とメアリーは話さなくなった。
メアリーが私を嫌いじゃないのは知ってるから離れていても辛くないけど……他にいつも一緒で話せる友達がいなかった。
だから、避けたいのにオスカーに話かけられたら、つい話してしまう。
メアリーを傷つけることになるのは分かっているけど……。
友達と一緒のメアリーが、私とオスカーが話ている様子を、横目でチラッと見て傷ついた表情をした。
気づいた私も胸が痛くなる。
オスカーだって、こんな状況は望んでいなかったでしょう。
三人ともが苦しかった。
——だからなのか、オスカーがメアリーと話すようになる。
そして、オスカーは私とは話さなくなった。
——。
「マリアナ……」
メアリーに話しかけられた。
「オスカーが私の事を好きだって……」
「え……」
「ずっとマリアナに辛く当たってごめんなさい……」
「ううん、そんな事ないわ。良かった、メアリー……!」
私たちは抱きあって、仲直りした。
私、メアリー、オスカーは、前みたいに仲良く三人一緒だった。
「やっぱり、オスカーはメアリーが好きだったのね」
「……ああ」
ちょっとだけオスカーは気まずそうにしたけど、すぐにいつものオスカーに戻っていた。
メアリーとオスカーが一緒だと落ち着くし、お似合いの二人だと思う。
◇
メアリーの事は嫌いじゃない、ただ、マリアナの方がずっと好きだっただけだ——。
俺のせいで、マリアナとメアリーの二人が離れてしまったのは知ってるけど、それで自分の気持ちは曲げられない!
「オスカー」
エルヴィンに話しかけられた。
「俺の従姉妹のメアリーを傷つけるのはやめろ」
「そんなの仕方ないだろう。メアリーが俺を好きでも、俺が好きなのはマリアナ……」
エルヴィンがゾッとするよう目をした。
「マリアナは俺のモノだ。メアリーと付き合うなら彼女のそばに近づく事を許可する」
耳元で囁かれた。
そして、「この事は誰にも言うなよ」と口封じの魔法を俺にかける。
「メアリーとの事、応援してるからな、オスカー!」
耳元から離れて、俺の肩を掴んだエルヴィンが、別人のようににこりと笑ってる。
「あ、ああ……」
ゾクッと背中に悪寒が走って、冷や汗が流れた。
絶対に逆らってはいけない気がした。




