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「ごめん、マリアナ。エルヴィンがあんなに怒るなんて……」
エルヴィンがいなくなった後にメアリーが言った。
「でも、エルヴィンは、マリアナがこんなに可愛い子だって知って、絶対に婚約しなかった事を後悔してるんだと思う!」
ショックを受けた私を、メアリーが必死に慰めようとしてくれる。
私は、エルヴィンを好きだとはメアリーに話していないけど……私の様子を見ていれば、メアリーも気づいたと思う。
「……私がマリアナを大好きになったから、従兄弟のエルヴィンとも仲良くして欲しかったの……余計な事をして、ごめんなさい……」
私は首を横に振る。
「私もメアリーのことが大好きだから、嬉しいわ。エルヴィンとは仲良くなれなくても、メアリーとはずっと仲良しでいたいの」
メアリーがにこりと笑ってくれて、今回も私たちは大親友になった。
メアリーと二人でいると、オスカーが寄って来る。
オスカー・フォン・グランツは侯爵子息のクラスメイトで、前回のメアリーの恋人だった。
そして、私とエルヴィンと、メアリーとオスカーは、下級科から上級科までの6年間、ずっと一緒にいた。
私とエルヴィンはいつも一緒で婚約者で恋人同士だと学園では有名だったけど、メアリーとオスカーも、私たちに負けないくらい仲が良かった。
家同士の婚約者がいるわけではない二人は、恋人同士としてずっと過ごして、最終学年の時に婚約した。
私とエルヴィンと同じように、学園を卒業したらすぐ結婚する約束をしていた。
——卒業式の翌日に殺されてしまった私には、二人のその後は分からないけど、そのまま時間が進んだら結婚していたはずだ。
私が12歳に死に戻って、二人は結婚できなかったのかもしれないけど、やり直しの人生でも、やっぱり恋人になるのね……。
メアリーとオスカーが目の前で仲良く話している様子に、懐かしくて暖かい気持ちになるけど、辛くもある。
私とエルヴィンは、やり直して同じにはなれなかったから……。
「マリアナ……どうかしたのか?」
三人で話していて、私が突然俯いて暗い顔をしたから、オスカーが心配して声をかけてくれる。
「な、なんでもない……」
誤魔化そうとするけど、私がいつもエルヴィンを目で追ってるのはオスカーも気づいていると思う。
なのに、エルヴィンには嫌われていることも。
「……マリアナの婚約者は、ルカスだろう?」
オスカーが不思議そうに言う。
「うん……」
最初の宣言通りにルカスは私と仲良くする事はなく、前回と同じくクラスメイトなのに話さない状態が続いている。
私とルカスが婚約者だという事は、親しい人意外にはほとんど知られていなかった。
「でも、ルカスは下級科の二年生の侯爵令嬢と付き合ってるんだろう?」
「……そうみたいね」
ルカスは、身分違いだと悩んでいた好きな人に、気持ちを伝えることが出来て、付き合えることになったらしい。
ルカスから見て障害がなさそうだった、私とエルヴィンは全然ダメなのに。
「親に決められた政略結婚の相手はいるけど、別の相手と学生の間は付き合ってるのは珍しくないけど……こんなに可愛いマリアナの方が相手が見つかってないなんてな」
オスカーが冗談ぽく言って私の頭をポンポンと撫でる。
「オスカー……マリアナが嫌がってるでしょう!」
別に私はオスカーに頭をポンポンされるのは嫌じゃないけど……メアリーの本音が——オスカーが私を可愛いって言ったことに嫉妬してるのがとっても可愛い……!
「メアリー……ありがとう!」
私はメアリーが可愛いから抱きついたんだけど、
「……そんなに嫌だったのか……!?」
オスカーには、私が本当に嫌だったって勘違いさせてしまったみたい。
「本当に! 本当に、ごめん!! マリアナ!」
オスカーが私に必死に謝ってくれる。
「もう、いいわよ、オスカー。ね、マリアナ」
「……うん」
メアリーの呆れ声が心地よくて、私はそのままオスカーが少しだけ勘違いを続けそうな弱々しさで返事をする。
軽口でふざけ合う、いつもの空気感が出来上がっていた。
前回だったら、エルヴィンもいて、私の肩を抱いて、何故かオスカーをからかっていた。
——とても懐かしくて、涙が一筋だけ溢れてしまった……。
「……マリアナ……」
涙に気付いて、メアリーがギュってもっと強く抱きしめてくれた。
私がエルヴィンの事を考えて泣いているのがメアリーには伝わっている。
「……マリアナ……俺は……」
オスカーが小さくつぶやく声が聞こえた気がした。
メアリーが用事があって先に帰ってしまった日。
私はオスカーと一緒になった。
「マリアナ、馬車はどうしたんだ?」
「今日は、お母様に新しいドレスを買っていただくから、お店まで歩いて行くの」
「じゃあ、俺も一緒に行くよ」
「え、でも……」
私の家の新貴族邸地区は、旧貴族邸地区よりは遠いけど歩いても帰れる距離で、オスカーはそれより先の街の郊外に家があったから馬車は必須のはず。
「マリアナと一緒にいたいんだ」
「? 何か私に用があるの?」
オスカーは寂しそうな表情を見せた。
オスカーが色々な話をしてくれて、帰り道は楽しかった。
けど、私の目的地の商業地区に近づくとオスカーが黙ってしまう。
「オスカー……?」
どうかしたのかと、私が尋ねようとすると、オスカーは立ち止まった。
私も止まってオスカーを見る。
「マリアナ……」
一瞬、間が生まれる。
「何? オスカー」
オスカーが唇を噛む。
「俺……お前の事が好きなんだ……!」
……え?
あまりのことに私は動けなくなる。
「婚約者のルカスのことはいいだろう。あいつは二年生と付き合ってるんだ。……マリアナが好きな……エルヴィンだって……関係ない。
エルヴィンはお前を嫌ってるんだから、俺でいいだろう?」
エルヴィンが私を……嫌ってる……そんなことは知ってる……。
でも……オスカーが……私を、好き——ッ!
「……メアリーは……?」
だって、前回はあんなに仲が良くて……今だってメアリーはあんなに可愛くオスカーの言葉で嫉妬してるのに……。
「メアリーのことは嫌いじゃないけど……俺は、マリアナの方が好きなんだ……」
……それは、エルヴィンがいないから……?
エルヴィンがいなければ、オスカーが好きになるのは、私——?
オスカーが私を真剣な瞳で見つめる。
なら、メアリーはどうなるの——。




