1-3
入学式から数日が経った。
エルヴィンは相変わらず人気者だったけどど、入学式のように人垣で本人が見えない状況ではなくなっている。
話しかけるなら出来ない事はないけど……なんて言えばいいのか分からなかった。
「マリアナ、一緒に行こう」
「うん」
前回の下級科の時は、移動教室の度にエルヴィンと手をつないでいた。
「どうして、私のこと待っていてくれるの?」
私が気になって聞くと、
「マリアナの事が好きだからだよ」
エルヴィンが小さな声で教えてくれる。
「一目惚れだから」
そう付け加えたエルヴィンの顔が赤かった。
私も赤くなってエルヴィンとつないだ手から伝わる熱にドキドキしていた。
「あのね、エルヴィン……私も、最初に会った時から、エルヴィンの事が大好き……っ」
人のいなくなった廊下で伝える。
エルヴィンの顔を見て伝えるのは恥ずかしすぎて無理だった。
私は真っ赤になっていたと思う。
それから、下級科から上級科になって、エルヴィンは私の腰や肩を抱いて移動するようになって……ずっと愛されてた。
大好きなら、今もすぐに伝えられるのに——。
考え事をしていたら、移動が一番最後になってしまった。
これが初めての移動教室だったけど、二回目の下級科の授業だから、慣れたもので困ることはない。
でも、急がないと、遅刻はダメね。
「マリアナ……」
急いで教室を出るとメアリーがいた。
メアリー・フォン・アシュフォード。
彼女はエルヴィンの従姉妹で、それがキッカケで前回はエルヴィンの婚約者の私と大親友になった。
今回は、彼女とも話すキッカケがなかったけど……。
「遅いから心配で戻ってきたの……」
「え……? あ、ありがとう、メアリー!」
やっぱりメアリーは優しい……!
私はメアリーに抱きついた。
「マ、マリアナ……うん、行きましょう!」
二人で並んで歩いた。
前回もこうしてメアリーと歩いた。
こういう時には、エルヴィンが後ろを歩いてついて来てくれたの。
メアリーの恋人と一緒に——。
◆◇◆
メアリーは魔法学園の入学式の前から私を知っていたらしい。
「マリアナは……エルヴィンと婚約するはずだった伯爵令嬢だから……」
言いにくそうにメアリーが教えてくれる。
今回も、私とエルヴィンの婚約の話はあったんだ……!
「そ、そうだったの……どうして、その話はなくなったの……?」
私は恐る恐る聞いてみた。
何か、私に嫌なところがあったの……前回は、エルヴィンはあんなに私を好きって言ってくれたけど……。
「……それが……」
メアリーは一瞬、言葉に詰まる。
そして、スッと息を吐いて、呆れたように言う。
「魔法を極めたいんですって!」
「え……? 魔法……」
私は意外すぎて驚いてしまう……。
前回のエルヴィンも魔力が強くて、学園で一番だったけど……魔法を極めたいって思っていた訳じゃない。
魔力が強すぎて自然にそうなってしまっていただけで、全く魔法にこだわりは持っていなかったのに。
「……どこで耳にしたのか知らないけれど、同じ歳の魔法の能力が高い子の話を聞いて、負けられないって思ったみたいなの……。
魔法学園にこれから入学するのに、婚約者なんていらないって急に言い出して……」
……エルヴィンは負けず嫌いな所があったけど……。
「マリアナはエルヴィンの事を知っていたの? 本当に婚約が決まる直前だったから、エルヴィンのお父様の公爵様も、あなたのお父様の伯爵様もすごく怒ったんだけど、エルヴィンの方も絶対に嫌だって譲らなかったの……」
「……そ……う、だったの……」
魔法の能力の高い子ってルカスのこと……?
前回のルカスのことは本当によく知らないけど、成績はいい方だったと思う。
『ルカスもエルヴィン様に負けないほどに魔法が優秀だと聞いていますよ』
私がエルヴィンのことを聞いた時に、お母様が言っていたけど……このことだったの?
たまたま、エルヴィンがルカスという魔力の高い男の子の話を聞いて、婚約者より魔法って気持ちになってしまったということなの?
たった、それだけのことで運命は変わってしまうの——。
「あ、エルヴィン!」
私と話しながら歩いていたメアリーが、エルヴィンを見つけて声をかけた。
私の心臓が跳ねた。
婚約についての話をしていたから、余計にドキドキしてしまう。
「メアリー……」
エルヴィンは不機嫌そうにメアリーを見た。
前回も、私と二人きりでいる時に、メアリーに話しかけられて、エルヴィンはこんな顔をしていた。
「この子、クラスメイトのマリアナ・フォン・ローゼンベルク伯爵令嬢よ。もう話はした?」
メアリーが私をエルヴィンに紹介してくれる。
「興味ない。話すつもりもない」
エルヴィンは、そういうと私とメアリーに背を向ける。
ズキッと胸が痛むけど……。
きっと、今のエルヴィンは、それだけ魔法に夢中なんだと思う。
「待ってよ、エルヴィン……」
メアリーが、エルヴィンの肩を掴んで食い下がる。
「……やめろ! 俺に近づくなっ!!」
振り返ったエルヴィンは、メアリーではなく、私に鋭い視線を投げつける。
——完全な拒絶……。
魔法を極めたい?
本当に……?
エルヴィンが私を睨む顔を見てしまったら、言い訳にしか聞こえない——。
前回と変わらない、輝く金髪の美しい顔が私を見ている。
でも、今は愛を囁いてはくれない——。
理由はどうであれ、エルヴィンは私を完全に嫌っている——。




