7-2
魔法使いの塔の中で、俺は前世の自分——カルエルが残した魔法を手にする。
これと俺の魔力を合わせれば、ルナリアを助けられる——!
魔法の巻物を読んで魔法の機序を理解する。
頭の中で魔法が全てつながる。
呪文を唱えながら、出来上がったイメージに魔力を通していく。
背が高くまっすぐに伸びた木の下に、根が細く長く伸びていく、長く、長く——。
魔力の光が木の幹を通って根の隅々を光らせていく。
だが——、
——足りない——!
魔力が、頭の中のイメージを満たせない——!
……嘘だろう……。
三百年……。
三百年の歳月が、俺の魔力でもルナリアを、救えなくしてしまった!
ガクッ
カルエルの部屋の床に膝をつく。
手のひらを床に付けると、床に積み重なっていた白い埃が舞う。
三百年の間に溜まった埃は雪のようだった。
涙が床に擦りついた額の方に流れて行く。
「……っ……うっ……」
……ルナリア——!
助けられない……助けられない……
————
『次も、また、お前にルナリアをやろう——』
カルエルを殺す直前に、ルカスが言った言葉。
——この三百年の間もルカスは、ルナリアを使って男の魔力を集めているはずだ。
俺も、何度か生まれ変わってる。
60歳まで生きるなら、三百年の間で5回生まれ変わってる。
魔力がなく生きるのは大変だから、もっと若くして死んでると思うから5、6回は魔力を奪われて……。
その間に別の男からも、ルナリアを使って魔力を奪ってる。
ルナリアは一体、何度、殺されたんだ!?
ルナリアを、物みたいに扱いやがって——!
ルカスの魂の一部を切り取ったからって、もう、ルナリアはお前とは別の人間だっ!
こんな事は許されないっ!!
ルカス——っ!!
……。
……きっと、ルカスは俺の為にもルナリアを用意してる。
俺は、アルトリア王国の第三王子、アルヴィン・アストリアだ。
嫌でも、ルカスの目につく。
それが、もう22歳になる。
きっと、まだルナリアが若すぎるから、俺の所に送り込めないんだ。
——っ! 良かった!
カルエルだった事を思い出す前に出会っていたら、絶対に俺はそのまま君に恋をして、ルカスの思い通りになっていただろう——。
でも、俺は君に恋すればどうなるのか知ってるんだ。
もう、君に触れない。
絶対に!!
ルカスを倒すまでは——!!
◆◇◆
魔法使いの塔はもう一度、封印して、アルセリアの町の館に戻って来た。
もうすっかり真夜中になっていた。
「アルヴィン様! ……王都に戻ったのかと、使いを送ってしまいました」
館を任されている執事が驚いていた。
「使いには、アルヴィン様が町にまだいらした事を伝える使いを出します」
手際よく使いが出来そうな者を呼びに行こうとする。
「使いが持ってるものと対になってる物はないか? 俺が直接、そいつに事情を伝える」
「……はあ……」
しっかりして見えた執事が気の抜けた返事をする。
「王への書簡を持たせたので、割印がしてありますし、書簡にアルヴィン様の紋章の刻まれた印章で封蝋印をしてありますが……」
「俺の紋章ならよく知ってる」
俺は、王都への直線上に魔法を使って俺の紋章の封蝋印がないか探す。
ほぼ王都につきうな所にいた使いを見つけて、別の魔法で俺が館にいる事を伝える。
そして、見つけた使いに、王都の宿で休むように伝えて、別の用事を頼んだ。
急に俺からの声が届いて、使いはかなり驚いていたが、執事も目を丸くして驚いていた。
「こ、これが、カルエル様と同じ魔力……いえ、取り乱してしまい申し訳ありません」
前世だから知ってるけど、カルエルはこんな事は出来なかった。
この魔法がカルエルの死後に出来たものだ。
カルエルの教え子の誰かが作った物ならカルエルの功績って言えるかもしれないか……。
……自分がカルエルだったって知ったのに、カルエル自身はあまり好きになれないな。
ルナリアを救えなかった奴だし……。
俺は、昨日から自室になった部屋で、カルエルの作った魔法の巻物を見た。
使えなかったが、これは人目に触れないように封印した方がいいな。
まあ、使える奴も限定されるだろうが。
たく、カルエルは『実用性があるかな?』なんて疑ってた気がするが、とんでもないものを残してくれた。
本当に世間知らずだったな……僕。
——それで、どうするんだ? カルエル。
お前は、二度目にルナリアを奪われてから、ルカスの存在を知ってルカスを追いかけていた。
だけど、それはルカスには筒抜けだった。
セラ様と言うルカスの直接の犠牲者を足がかりにルカスの足取りを探した事が原因で、カルエル自身も魔力を失って自分に価値などないと思っていたから自分の存在を隠す気がなかったからだ。
でも、ルカスは3歳のカルエルから魔力を奪おうと襲っている。
20歳のカルエルのところにはルナリアを送っているし……。
魔力を持っていれば、必ずルカスに見つかる。
何百年と魔力に執着してるんだ、何か独自の方法で魔力を持つ者を探せるのだろう。
さっき俺が、対になる持ち物から使いを探したように……。
魔力がなくなったカルエルは、セラ様が捜査の起点じゃなければ、ルカスに気付かれなかったかもしれないが……。
魔力がある俺の居場所はバレてるし、下手にルカスの居場所を探ろうとすればきっと気付かれる。
前世の——カルエルの記憶を思い出して、ルカスを殺そうとしてるなど知られてはいけない……。
となると、ここにルカスが来るのを待つしかない!
ルナリアの生まれ変わりを俺の所に送り込んで、俺と彼女が結ばれた時に魔力を奪う。
その時に、俺は、必ずルカスを殺す——!
——でも、不老不死のルカスをどうやって殺す?
そもそも、不老不死になるなんて可能なのか——?
それに、カルエルの魔力を奪って、その後も何度も生まれ変わりの魔力を奪ってる。
それだけでも、俺の何倍も魔力を持っていることになる……。
……勝ち目があるのか?
俺は、何日もその疑問を、ずっと考え続けた——。
「アルヴィン、真面目にやってるか?」
親友の公爵子息のエドガーが、アルセリアの町にやってきた。
「用事を頼んだが、直接、来てくれたのか!?」
この間、王都に行った使いにエドガーに伝言を頼んだが、使いの者が来るとばかり思っていた。
「お前に会いにじゃなくて、町を見に来た」
「町を……?」
魔法の学校を作るって大事業が始まるが、公爵子息が興味を持つような町とは思えないが。
「資料を読んでないな、アルヴィン。大事業って言うくらいだからとんでもなく変わるぞ、この町は」
言われて資料を読んだ。
確かに、これはもう第二の首都を作る規模じゃないか……!
「他の街や外国に行くのに、ちょうどいい場所にあるからな」
館の応接室で俺が資料を見るのを待っていたエドガーが言う。
「公爵家の屋敷も作りたいんだ」
「それはいいと思うが……まだ草案も出来てないぞ」
カルエルだった頃の、貧しいけど素朴な村が失われるのは寂しい気がした。
「それでお前に頼まれていた調べ物の方はこれだ」
応接室のテーブルに、紙の束が置かれる。
優秀な魔法使いの事が男女問わず書いてある。
「治癒魔法、身体強化……なんだ、これは?」
「魔法学校の教師になれそうな人物を探してるなら、得意な分野もあった方がいいだろう」
なるほど、気がきくな。
そう言う口実で、次にルカスに狙われる女魔法使いを知ろうと思ったんだが……。
「火属性、魔力判別、禁術……って、得意でいいのか?」
危ない奴もいるが……あっ!
——魔法陣……!!
これは——!
第二の首都をゼロから作るほどの計画……魔法陣……。
ルカスを捕まえる魔法陣……この街の規模なら……!
出来るかもしれない……。
捕まえて、魔力を封じる事が出来たら——。
殺せる——!
ルカスを殺せる——v
——やれるっ!!
俺は、魔法使いの塔を中心にしたアルセリアの町を、ルカスを捕える封印にする事にした——。
それからは、魔法陣を調べて、町の地形を調べた。
高低差も魔法陣の精度には関係がある。
取り憑かれたように、町作りに没頭する俺。
ルナリアはきっと俺に会いに来る——。
ルナリアが来るまでに、完成させたい!
図面が完成して、町の建設が始まる。
実際に作ると、予定とは違う箇所が出てきて、調整が大変だった。
そうして、作り始めて五年が経った。
俺は27歳になっていた。
魔法学園は一部が完成して稼働することになったが、街の完成はまだ遠かった。
そして、ルナリアが今世の恋人と魔法学園に入学してくる——。




