7-3
恋人と一緒に魔法学園の門をくぐるルナリアが、俺を見て切ない表情をする。
また、無意識に、でも、確実に俺を——カルエルを求めてる。
俺もじっと彼女を見つめた。
でも、彼女はすぐに恋人の男の方に行ってしまう。
学園が始まって生徒以外にも教師たちがたくさん集まって来たが、確かに彼女の恋人の魔力が一番純度が高い。
俺を除けば——。
ズキっと胸が痛くなる。
やっぱり彼女は道具なんだ。
ルカスの言う通りに魔力の純度の高い者を探し出す。
そして、その容姿と魔力の甘い香りで男を誘う。
……まだ街は完成していない。
今、ルカスが来ても、倒す事は出来ない。
ルナリア……彼女は、今の恋人と一緒にいる方がいい。
ルカスは、俺の魔力を狙って彼女をここまで送り込んできたんだ。
途中で魔力の高い男がいたから、仲良くなっただけで、俺とアイツじゃ魔力の質が全然違う。
今も、ルカスは俺を狙っている。
だから、彼女とアイツが結ばれるような事は困るんじゃないか?
一度死んだら、彼女が道具として使えるようになるまで、十七年かかるんだ、間違いがあってはまた十七年後だ。
……街が完成するまで、彼女が別の恋人といる事に俺が耐えれば……俺が彼女をアイツから取り戻して、ルカスを倒す!
俺は魔法学園で学園長兼教師になった。
学園長と言っても、出来たばかりの学園でまだ生徒だって少ないから、生徒との距離が近かった。
「アルヴィン先生、治癒魔法についてなんですけど……」
彼女の恋人のカイルとも、すぐに話すようになる。
カイルは17歳で王都に住んでいたらしく、魔力の純度の高さからカルエルの生まれ変わりと言われていたらしい。
魔力が高いヤツになら、誰にでも言うんだなぁ。
「もっと純度の高い魔力を持つアルヴィン先生の事は知っていたから、俺が生まれ変わりのわけがないって思ってましたけどね」
俺と同じくカルエルと比べられて育ってるはずなのに、爽やかなのは、俺が間に入ってたからか?
その歪んでなさが、カルエルとは別に俺の劣等感を刺激する。
俺の方が優秀なのに!
「アルヴィン先生、私にも教えてください」
ルナリアの生まれ変わりの彼女、ミルファともすぐ話すようになる。
明るい子で、ルナリアより、そのすぐ次の生まれ変わりの、リリィや、その次のリディアを思い出す。
カルエルは生まれ変わりの子とほとんど話せてないから、見たら羨ましいだろう。
まあ、今はこれ以上は近づけないし、触れられないんだが。
ミルファは16歳で、この学園を作っているアストリアの町の、すぐ近くの大きな街に両親と住んでいたらしい。
魔力が少しあったが、旅の魔法使いに少し魔法を教わった事があるだけだった。
旅の魔法使いってルカスじゃないか?
魔法学園が出来ると聞いて、すぐに入ろうと思ったらしい。
それで、学園に来る時に辻馬車の中でカイルと出会って、すぐ惹かれあった……と馴れ初めまで聞かせてくれる。
辻馬車の中が揺れて……身体が触れ合ったら、魔力の香りがして……運命の出会いだと思った——ってか! あー嫌だ、若いって!
「私はよく転びそうになるから、辻馬車を降りる時もカイルが助けてくれたし、カイルがいつも一緒にいてくれて、転ばなくなったんですよ」
「ミルファは一人だと危なっかしいからね」
俺に魔法の事を聞きにきた二人が、結局仲良く笑い合ってるのを見て、面白くないっ!
……ただ、いいんだ、これで。
こうなって欲しかったんだ——。
今、ミルファの手を取って俺の魔力を感じさせたら、直ぐにでもミルファを俺のものに出来るんだ。
でも、俺はそんなミルファが欲しいんじゃない——。
——俺が、欲しいのは、俺の魔力に惹かれているんじゃない、俺を好きなミルファだ。
その為にはルカスを倒すしかない……!
——そう思っていたんだが……。
「アルヴィン先生、先生の家って何処ですか?」
「ん?」
ミルファに唐突に聞かれる。
生徒と教師の距離が近いから、いつも雑談はしているが。
「生徒には寮があるでしょう? 先生たちにも寮があるけど、そこにアルヴィン先生は住んでないみたいだったから、何処に住んでいるのか気になったんです」
「ああ、そうか。俺はこう見えても第三王子だから、貴族街の屋敷に家があるんだ」
左遷されて事実上追放みたいなものだけど。
それから、まだ貴族は住み始めていない貴族街だけど。
「そっか……。あの塔に住んでいるのかもしれないと思っていました」
ミルファの目が少し寂しそうに見えた。
塔とは、魔法使いの塔の事だ。
カルエルとルナリアが住んでいた——。
一度、俺が封印を解いて、再封印したが、今では綺麗に片付けられて、学園のシンボルのように中庭に建っている。
「……確かに、誰かと住めるならあの塔に住みたいな」
君ともう一度、住めるなら——。
「じゃあ、私と住みましょう! アルヴィン先生」
……ん?
い、一緒に住むって、どう言う意味だ?
「……生徒と一緒に住むわけには……」
「……夫婦じゃないとダメ……?」
ミルファが俺を見て聞く。
『……カルエルと私、夫婦だね……』
カルエルの記憶が甦る……。
カルエルがルナリアに感じた衝動を俺が感じてる。
可愛い……ルナリア——ミルファか……!?
ああ、分からなくなる……。
「……変な事を言ってごめんなさい、アルヴィン先生。何だか一緒に住めるような気がしてしまって……」
本当に言ったことを後悔した様子でミルファがうつむく。
魔力じゃなくても、前世の記憶に引っ張られてる。
俺も、ミルファも……。
「……本当にごめんなさい……頭に浮かんだ、妄想に引っ張られちゃダメだって、分かってるのに……!」
ミルファが慌てて恥ずかしそうに真っ赤になっている。
「頭に浮かんだ……妄想……?」
それは、ルナリアの——前世の記憶か——。
「ははは」
俺は笑っていた。
「……アルヴィン先生!?」
ミルファは戸惑いながら、俺を見ている。
——一通り笑い終わって、ミルファと向き合う。
「俺も、妄想でこの学園を作って来たからな」
妄想に引っ張られるどころじゃなく、完全に前世に生き方を変えられてる。
妄想だとは思わないけど、前世に引っ張られて歪められた俺——アルヴィン自身を理解してくれるのは、今生きてるミルファだけなんじゃないか?
きっと、魔力とか前世とか、関係なく。
同じ時を生きてる君が、俺にとっての大事な人なんだ——。
「ミルファ!」
離れた場所から呼ぶ声がする。
庭の方からカイルが呼んでいた。
俺とミルファは建物を出て、カイルの方に行くために階段を降りた。
「わぁ!?」
ミルファが階段の高いところから足を踏み外す。
俺が手を掴めば、落ちることはない——。
ドサッ。
と、ミルファの持っていた本が遠くへ落ちた。
ふわっと下から吹き上がった風がミルファを持ち上げた時に、本だけ舞い上げられ飛ばされたんだ。
とっさに風魔法でミルファを助けたのは、カイルだった。
ミルファに駆け寄ると、腕を取って抱きしめながら風の中からミルファを助け出した。
「良かった……間に合った。本当によく転ぶね、ミルファは」
「ありがとう、カイル」
二人は俺の前で見つめ合っていた。
「すまん。まさかこんな所で転けるとは思ってなかったから、助けられなかった」
ただ二人の世界を壊したくて言った。
「本当に、『ミルファが階段にいる、転びそうだ』って思ってたから間に合ったんだよ」
「そこまで毎回転んでないけど、いつもありがとう、カイル」
結局、壊せなかった。
俺だって、とっさに手も伸ばせたし、魔法も使えたけど、魔力が伝わったらミルファは俺を好きになる。
それだけは、避けたかった……。
でも、それで、俺は何を守ってるんだ——。
ルカス……全ては、ミルファを利用するお前のせいだ——!
彼女は、幸せの絶頂で死ぬ——。
「カイルがミルファを誘ったんだって」
何でそんな声が聞こえてくるんだ。
学園には人が少なく本当に静かで、声が響いた。
誘ったってなんだ?
町の中で一緒にいる姿はいつでも見かける。
そうじゃない事……。
知りたくないのに、ミルファを見つけてしまう。
「じゃあ、今夜、カイルが女子寮に来るの?」
「うん……隠れて来てくれるって……」
女友達と話している。
「……」
偶然にも聞いてしまったなら、止めるしかないな。
女子寮の警備も強化する。
カイルだけは絶対に通さない!
けれど、それで止められるのか?
別の場所に行けばいいだけだろう?
ルカスは何やってるんだ!?
カイルの魔力なんて後回しでいいから、止めると思ったが……。
ギリギリで止めに入るとか……あるかないか分からないルカスの止めに入る仕掛けに期待は出来ないな。
ルカスが、奪うのがカイルの魔力でもいいと思っていたら、ミルファは死ぬ。
……。
「ミルファ」
夕暮れの教室の残るミルファと女友達に声をかける。
ビクッと二人が肩を振るわせて驚く。
何故か、俺が悪い事をしてる気分になった。
「ちょっと手伝って欲しい事があるんだ」
ミルファの手を掴む。
手伝って欲しい事なんてない。
ただの口実だ。
ミルファに触れさえすれば、彼女は俺を好きになる……。
「あ……カル……アルヴィン……先生」
トロンとした瞳。
ミルファは、俺の魔力の甘さに、カイルの事を忘れてしまったようだ——。
——これが、彼女を救う方法……。
なのに、どうしてこんなに敗北した気がするんだ……。
ミルファの女友達を置いて、ミルファの手を引いて廊下を歩く。
「……アルヴィン先生……本当は私、ずっと、先生と……」
言いながら、ミルファが足を滑らせる。
本当によく転ぶ……。
俺はミルファを抱きとめた。
魔力の甘い香りがする。
それだけじゃない、ミルファの体温。
そうだ、俺もずっとこうしたくて、口実を探してた——。
「ミルファ……!」




